柔軟剤は高すぎる  投稿者:NTTT



「先輩!すいません、遅れちゃって・・・はあ、はあ・・・」

「葵ちゃん、どうしたんだ?」

「はあ・・・ちょっと用事があったもんですから・・・はあ、はあ・・・」

「それに、そんなデカい袋なんか持ってきて」

「あっ、いけない・・・すっかり忘れちゃってた・・・」

「ん?」

「あ、これですね、洗濯物なんです」

「・・・ひょっとして、コインランドリー?」

「どうしてわかるんですか!」

「いや、だってさ、どう見てもかなりの量だしな、学校でそんな多量の洗濯物なんか、でねえだ
ろ?それに、でたとしても葵ちゃんが神社に持ってくる必要はねえし、第一、葵ちゃん、いつもどおり
の格好だし・・・ってことは、家から持ってきたってことだろ。家から持ってきたってことは、帰りにク
リーニングかコインランドリーに寄ってくつもりだろうって・・・」

「先輩、さすがですね・・・あ、でもクリーニングじゃないってのは?」

「いや、葵ちゃんの性格なら、クリーニングに持ってくような服は、キチンと袋につめるかな、っ
て・・・その袋のふくらみ具合は、いかにも無造作につっこんだみたいだしな」

「もう・・・先輩ったら・・・私、そんなに几帳面じゃないです・・・」

「でも、そう考えたら、不思議なんだよな・・・」

「えっ?」

「不思議なこと、第一点。葵ちゃん家の洗濯機、壊れちゃったのか?」

「あ、いえ、家の辺り、今日、断水なんです。連絡は前からきてたんですけど、お母さん、今朝にな
るまで忘れちゃってて・・・」

「なるほどな、じゃ、第二点。今日遅れたのは、コインランドリーに寄ってたんじゃないのか?先に洗
濯だけセットしといて、トレーニングが終わったら乾燥させるつもりだったんじゃないのか?」

「はい、そのつもりだったんですけど・・・」

「でも、結局、持ってきてる。洗濯機が全部使われてたわけでもないし、コインランドリーがお休み
だったわけでも、財布を忘れたってわけでもねえみてぇだし・・・」

「どうして、ホントに、どうして、わかるんですか?」

「最初にその袋のことを聞いたとき、『すっかり忘れちゃってて』って、答えたろ。ホントは洗濯もでき
る状態で、しかもするつもりだったのに、結局せずに洗濯物の袋を持ってることも忘れちまうくらいの
うわの空になったってのは、一体、なにがあったんだ?」

「・・・皮ジャン、なんです・・・」

「はぁ?」

「・・・皮ジャンが、あったもんですから、わけがわからなくて、混乱しちゃったんですね・・・」

「いや、よくわかんねえよ。最初っから、話してくれ」

「あ、そうですね・・・まだ混乱してるんだ、私・・・」

「皮ジャン・・・コインランドリーにあったのか?」

「はい。あのですね、先輩の言うとおり、先に洗濯機だけ回しといて、その間にトレーニングしてよ
うって思って、これ持って、コインランドリーに行ったんです。あの、学校出てすぐの角のとこの・・・」

「ああ、近いとこに行くだろうから、当然あそこに行くよな」

「はい。で、中に入って、空いてる洗濯機がないか、フタ空けてみたんです。普通、洗剤とか、使っ
てる目印になるようなの置いてる人が多いですから、フタが閉まってても、何にもフタの上に乗って
なかったら、空いてることが多いんです」

「ああ、俺も結構お世話になるから、知ってるぜ。葵ちゃんが詳しいのは、ちょっと意外だな」

「私は、こういうことやってるから、時々、乾燥機使えないと、困るんです。そしたら、中に・・・」

「ひょっとして、皮ジャン?」

「はい・・・普通、洗濯機で洗いませんよね?」

「・・・洗わねえな」

「ですよね。どうしてなんだか、ずーっと、考え込んじゃって・・・考えてるうちに、気味悪くなっちゃっ
て・・・」

「うーん・・・洗ってあったのか?」

「いえ、まだ回してはないようでした。洗剤も置いてませんでしたし」

「変だよなあ・・・」

「はい。回してあったんなら、まだ、わかんないことも、ないんです」

「そうかぁ?」

「ええ。だって、そういう知識がない人だって、結構いるかもしれないじゃないですか」

「いるかなぁ?」

「最近の人って、結構そういう常識がなかったりしますから」

「葵ちゃん、そういうのは偏見って、言うんだぜ。葵ちゃんだって、『最近の人』じゃないのか?」

「あ・・・ご、ごめんなさい」

「いや、別に謝らなくてもいいけどよ」

「でも、よく考えたら、回してたって、変ですね・・・あんな高い皮ジャン・・・」

「どうかな?皮ジャンにもピンからキリまであるし」

「そんなことないです。あれ、すっごく高いのでしたよ」

「葵ちゃん、皮ジャンの良し悪しや値段、わかんのか?」

「綾香さんが結構そういうの好きで、普段着でよく着てたんです。『高かったのよ』って、値段とか教
えてもらいました。それに、いい物って、見ただけでも結構わかりますよ。私も、一時綾香さんの真
似して古着のを買ったこともありますし・・・あ、もちろん、すっごく安いのですけど」

「ふぅん・・・あ、そういや肝心なことを聞いてねえや」

「えっ、なんです?」

「汚れてたのか、それ?」

「あ、それも変なことだったんです。見た感じ、汚れてませんでした」

「出してみたのか?」

「そんなことしませんよぉ!ホントに、フタ空けてちょっと覗いただけです」

「ううむ・・・」

「どういうことなんでしょうね?」

「普通、そんな高いの買ったら、手入れとか一応考えるよな」

「はい」

「どうしても洗わなくちゃいけない事情があっても、洗濯機なんかは、使わねえし・・・」

「そうですね」

「なら、洗うために洗濯機に突っ込んだんじゃねえってことか」

「なら・・・どうして・・・」

「洗濯機に突っ込む前は、どうしてたんだろうな?」

「そりゃあ・・・着てたんでしょうね」

「ところが、脱がなきゃいけなくなった。だが、脱いだ後、手に持って歩くわけにはいかなかったか
ら、手近で隠せそうな場所に隠した」

「・・・隠すため・・・」

「問題は、なんで脱がなきゃならなかったか。そして、なんで持って歩くわけにはいかなかった
かって、ことだな・・・」

「・・・はい」

「両手を空けておきたかったから・・・なら、着ればいい」

「目立ちたくなかったから・・・いえ、服を脱ぐことで、変装みたいに見かけを変えようとした、ってこと
でしょうか?」

「どうかな?」

「ダメですか?」

「その考えだと、誰かに追われてるか、尾行されてるのが、大前提だ。なら、相手は自分の顔とか
特徴は知ってるだろう。皮ジャン脱いだくらいでどうにかできるか?」

「でも、服が変われば、かなり印象変わりますし・・・」

「有効じゃある。でも、コインランドリーの洗濯機の中ってのが、ひっかかるんだ」

「・・・ちょっと、わかりません」

「つまりだな、後で回収するつもりみたいな感じなんだよ。それに、尾行られてるか、追っかけられ
てる人間がそういうとこに入って服隠してまた出てきたら、尾行てる奴にはイッパツでわかっちまう」

「撒いたから、とりあえず服を隠せる場所を探して、たまたまコインランドリーがあった、ってのは、い
けませんか?」

「一旦撒いたんだったら、タクシー拾った方が楽なんじゃねえか?いつまでもその辺うろうろしてた
ら、いくら印象変えてもまたみつかるだろ」

「うーん・・・」

「逆に考えて、変装用に隠しといたってのも、変だよな」

「それは変ですよぉ、やっぱり追われたり尾行されたりが前提じゃないですか。おんなじ理屈です」

「だから、もうひとつの疑問点を考える」

「え?」

「なぜ脱いだのか、ってこと」

「ああ・・・」

「どうしても脱がないといけない理由って、あるかな?」

「さあ・・・」

「汚れたってのは、どうだ?」

「でも、汚れてませんでしたよ」

「フタ開けて見える範囲しか見てないんだろ。それくらいじゃわかんねえように汚れた部分を底の方
に畳んでたら、どうかな?」

「あ・・・で、でも、フタを開けたのは偶然ですよ」

「そう、でも万一ってことがあるしな。今頃犯人は、フタの上に乗っける洗剤を、買いにいってるん
じゃねえか?誰もいちいち開けたりしねえように。それとも、中の見えないポリ袋か・・・」

「は、犯人って・・・」

「そいつはそのコインランドリーの近くで事件を起こした。でも、事件自体は誰にも見られちゃいな
かった」

「・・・事件・・・」

「でも、皮ジャンを着たそいつが現場の付近に問題の時刻いたってのは、誰か証言する人間がいる
かもしれない。なにより、それで皮ジャンが汚れちまった。汚れた面積はさほどじゃねえし、皮ジャ
ンだから拭うこともできる。だから持って歩けねえわけでもないが、用心にこしたことはない。顔だっ
て、多分はっきりと見られてるわけじゃねえんだが、今持って歩けば目立っちまう。はっきり皮ジャ
ンと顔形が結び付けられるのは痛い。重要な証拠物件だしな」

「・・・しょ、証拠って・・・」

「なんかで読んだんだけどな、血液ってのは、いくら拭っても試薬をかけてみたら、イッパツでわかる
そうだぜ」

「・・・ど、どうしましょう、先輩!!」

「とりあえず、コインランドリーに行ってみるくらいしかねえな。ひょっとしたら、臆病な犯人は、少し時
間が経ってから皮ジャンを回収するつもりかもしれねえ。だったら見張ってれば、かならず現れる。
もしさっさと処分するつもりで、ポリ袋に入れて持ち去ろうとしてたら、早いとこ行かねえとアウトだ
な。まあ、回収されてたとしても、そういうでっかい袋を持ってるってのが目印になるから、まだ近く
にいれば、みつけられるかもしれないが・・・」

「先輩、早く、急いで!!」

「おい、洗濯物は!?」

「いいですから!!!」




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続き



「ちょ、ちょっと待ってくれ、葵ちゃん」

「何言ってんですか!!早く!!!」

「こ、こっちはウォームアップなしなんだぜ、ひー」

「じゃ、じゃあ、私一人で、先行って・・・・・・」

「どうした?」

「せ、先輩、あ、あれ・・・」

「あ、綾香・・・」

「せ、先輩、あ、あのポリ袋・・・」

「お、おい、綾香!」

「あ、浩之じゃない。それに葵も。ねぇ、聞いて聞いて、ひどいのよ・・・」

「あ、綾香、それ・・・」

「そ、これなのよ。ソフトクリーム食べてたら、ベトーって落ちちゃって、拭いたんだけどなんかベタベ
タでさ、しょうがないから、そこの、コインランドリーっていうの?あそこで洗剤まで入れて柔軟剤や
漂白剤とかいろいろ買ってきて、お金もちゃんと入れたのに、見て!!ゴワゴワよ!!どうなってん
のよ!!」

「お前がどうなっとんじゃあああああああああああ!!!」



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感想だよ

浩之流・セリオ活用術 〜学習編〜>イリュージョン様 

はじめまして、感想どうもです
矢島はイジメられてなんぼなのにねぇ・・・
ま、MIOさん系は楓シュールネタとか、雛山家赤貧ネタとかあるし、そういうのもいいかな?
あら、ちっともSSの感想じゃねえぞ、おい


ある朝の死闘>闘魂秋吉様

わかりにくかったか?
ま、系統は一緒だが、前のオチでも充分おもろかったと思うんだがなあ・・・


みつばちのコスプレをした初音ちゃん。『ぶーん』>MIO様

MIOさんって、タイトルのつけかたもセンスあって、見習いたいよなあ・・・

>俺、柏木耕一の言いたいことは、もはやタイトルの時点で終っている。

いきなり爆笑。うまい。うますぎ。



実は、こみぱ、やってない。それ系ネタは感想書けず。堪忍