テデコミュニケイション・2  投稿者:NTTT


「ご主人様、映画、面白かったですねぇー」

「おう、気に入ったか?」

「はいー」



今日は日曜日で暇だったので、マルチと映画に行った

マルチにはあんまり難しいのは解らないだろうと思って、アクション物にしたのは、正解だったようだ

アニメにしてもよかったのだが、あんまりアニメばっか見せてるのもなあ・・・

家でさんざん見せてるし

別に、特に見せてるってわけじゃないんだが、最初の頃、年の離れた妹みたいに扱っちまったもんで、つい
つい子供向けの幼児番組ばかり見せていた

マルチがアニメを好きなのは、原体験ってやつかね?

よく考えりゃ、マルチも世間に対する基礎知識ってやつは、ちゃんと長瀬のオッサンがインプットしてくれてる
筈だし、こうやって暮らしてるうちに、どんどん身についてる筈だし、心のどっかでマルチを馬鹿にしてんのか
な、俺?

んなつもりじゃねえんだけどなあ

今度、大人のラブストーリーってのも、見せてみるか

でも、イマイチ苦手なんだよなあ

寝ちまいそうだ・・・




帰りの電車は、空いていた

マルチも、俺も、座席には座らない

つーか、マルチが座らないから、俺も自然と、座らなくなった

大体、一緒に立って、そばについててやんないと、マルチ、大きく揺れたらコケるんだよ

マジに

俺も、マナーがよくなったもんだ



はす向かいの昇降口のとこにも立ってるのが何人か

おお、同士よ

一人が、仲間だろうか、そいつに向かって、手をあれこれ動かしている

仲間の方もそれに答えて、やっぱ手をくるくる、ひらひら

あれは・・・手話だな

なんか、見ててあきねえんだよな

楽しそうな気がすんだよ、なんとなく

ま、俺みたいに五体満足な人間が、んなこと考えるのは、馬鹿で、思いやりのない証拠なんだろうけどよ



「ふぅん・・・大変なんですねぇ・・・」



マルチの声がした

マルチを見ると、その視線は、やっぱ、手話の二人連れ

マルチの視線は、動かない

ときおり、「はわわ〜」とか、声を出して、うなずいていた


「マルチ、お前、手話、解んのか!?」


聞くと、マルチは、こちらを向いて


「はいー」


と、にっこり笑った




駅からの帰り道、マルチに聞いた

納得

もともと、メイドロボは、一般家庭に置くような仕様ではなかったのだそうだ。高いもんな

それを、一般家庭にも普及させようとするなら、値段に恥じない性能。いや、真に必要としているユーザーの
ための性能が、必要になる

メイドロボを真に必要としているユーザー

介護の必要な老人のいる家庭

障害を持った人々がいる家庭

どうしても、誰かが家にいないといけない家庭

金持ちの道楽のためなんてのは、論外だってことだった

そういや、ユーザー登録のハガキには、購入の動機も書く欄が、しっかりあった気がする

ニュースとかでも、病院や福祉施設には、メイドロボがいたような、いや、いたな・・・

俺は、結局、肝心なことを何も見てなかったような気がする

プロトタイプのマルチは、手話対応

言葉を話す時にも、口をしっかり開く

そういうことか



だが、だとしたら



マルチが俺と一緒にいるってのは、どういうことだ?

マルチにとって、俺は、『主人』として、必要なのか?

俺は、マルチを、本当に・・・



「ご主人様?」



マルチが、俺の顔を見上げている

不安そうな顔しやがって

おう、俺にはお前が必要だとも

お前ナシじゃもうやってけねえんだよ

お前はどうかわかんねえけど

俺は、そうなんだよ



とりあえず、頭を撫でた

マルチは、「にへらぁ〜」と笑って、すこし、うつむいた



「マルチ」

「はい?」

「手話、教えてくれ」

「はあ・・・」

「とりあえず、簡単なのからな」

「はい。えーと、それじゃあ、それじゃ・・・」

「『ありがとう』って、どうやんだ?」

「あ、それなら簡単ですー」


ホントに、簡単だった

ま、簡単なことから、少しづつだ

もっと、いろいろ教えてくれ、マルチ

これからも




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