不親切なネタバレ 投稿者:NTTT

「ねえ、ちょっと明日付き合ってくんない?」



綾香が指定した待ち合わせ場所は、駅の改札前だった

約束の5分前に、綾香はやって来た


「へぇ・・・」
「ん?  何?」
「いや、どうせ長いこと待たされるかと思ってたからさ・・・」
「ひっどーい!!  あのね、これでも外国育ちなのよ。『Time  is  money』ってのは、常
識なんだから!!」
「あ、ああ、ゴメン。で、どこ行くんだ?  前に行ったあそことか?」
「ううん・・・あのね、私もよく知らないとこでさ、とにかく、一緒に行って欲しいのよ」
「???」
「切符は私が買うから、お願い。ねっ」


綾香は取り出した紙切れを駅員に見せながら、なにやら質問していたが、やがて券売機
で切符を二枚買って、戻って来た

渡された切符は、かなり遠い地域のようだ。料金でわかった

時間がよかったのか、電車は空いていたが、綾香は座らなかった

だから、俺も座らなかった


「なあ、どこ行くんだ?」
「ひ・み・つ、って言いたいとこだけど、ホントに、私もよく知らないのよ・・・」
「この方向でこの料金なら、海辺の方だな」
「そうみたいね・・・」


綾香はそれ以上喋らなかった

窓から遠くを眺めていた

だから、俺もそれ以上聞かなかった



2時間ほど、電車の中で立ち続けた

綾香は黙って窓の外を眺め続けていた

俺は綾香をずっと見ていた

寂しげに、また、懐かしげにも見えた



降りた駅は、住宅街のようだった

綾香は駅員にまた紙切れを見せて、何やら訪ねた後、歩き出した



「なあ、ホント、どこ行くんだ?」
「うーんと・・・この辺が二丁目だから・・・」
「おい!」
「・・・お願い、もうちょっとだから・・・」



立ち止まった綾香の先には、一軒の家があった

隣の家とよく似ていた

建て売りなんだろう

庭の物干しに、洗濯物がかかっていた

子供のものだろうか、小さなシャツが風に揺れていた

しばらく、二人でそれを眺めていた



やがて、家の中から奥さんらしい人が出てきた

子供も一緒だった

子供は、背の低い奥さんの足にまとわりついて、困らせていた

旦那さんらしい声が、家の中からした後、綾香はくるりと振り向いた

俺の目を見て

「帰ろ」

と言った

少し、小さな、声だった


「ねえ、駅前になんかふっるーい感じのラーメン屋、あったでしょ?」
「そういや、腹減ったな・・・」
「もう、立ちづめで、くたくた。ね、あそこ行こ」
「おう」


駅へと戻る途中、綾香が腕をからめてきた

綾香を見た

耳元に顔を近づけてきて

「好きよ」

と、一言ささやいた

腕に感じる綾香の胸の感触が、とても熱かった



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