卒業 投稿者:NTTT

ほーたーるのーひーかーーり、まーどーのゆうーーきー



体育館から、歌声が聞こえる

藤田浩之は、その歌声を、屋上で聞いていた

ときどき、ため息を吐く

そう、今日は卒業式

三年生が、学校から巣立っていく日


その人に会ったのは、一年生の終わり

最初は、髪が長くて奇麗な人だと

ただ、それだけのことだった


運命なんて、本当に信じては、いなかった

でも、確かにあったように、今は思う

夕暮れの校舎で待っていてくれたその人を

いとおしいと思った

離したくないと、離れないと、思った


信じる気持ちは、いつか見えるものに表れるのだと

その人は教えてくれた

言葉少なに語る人だったけれど

少ない言葉が百の会話に優る

そんな人だった


ポケットから煙草を取り出した

なんとなく、そうしなければ格好がつかないようなそんな気がして

今朝、買っておいた

ため息を一つ吐いて、口にくわえた

火をつけようとしたその時、屋上への扉が開く音がした


あの人が、立っていた


どうして来てくれなかったのかと、その人は聞かなかった

でも、きっと、捜していたのだ

だから、ここに来た


煙草なんか吸うなと、その人は言わなかった

ただ、悲しい目をした


二人で、黙ったまま、並んで座った

言葉は、いらないような気がした

時々、頭を撫でてくれた

それで、充分だった


卒業証書の授与が始まっているはずだった

この人に、受け取ってもらいたかった

立ち上がり、促した

二人で、体育館まで、行った

二人で歩く廊下

二人で降りる階段

運命はやっぱりあるような、いや、あると思った


体育館の扉を開ける前に、「おめでとう」と

ひとことだけ、言った

声が、かすれていた


なぜか涙が止まらなかった



卒業式が終わった後、その人は

「ありがとう」と

ひとことだけ、言った

それだけしか、出てこないのが、なんとなく、わかった


迎えの車に乗る前に、その人は、じっと目を見つめた

口元を無理矢理つりあげるようにした

笑っているように見えてくれればいいと、そう思った

成功したのかもしれない

車に乗りながら、その人は、笑った

美しいと、思った


家に帰って着替えると、ポケットの煙草が消えていた

誰もいない部屋で、声を上げて笑った

今頃あの人は何をしてるのだろうと、そう思った

同じ夢を見られるかもしれないような、そんな気がした


・・・先輩、いつか、迎えに行くよ・・・




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