桜の花の散ったわけ 投稿者:NTTT

「葵ちゃん、このへんで休もう」
「えっ・・・先輩、私、まだまだやれます」
「いや、今日の葵ちゃん、なんだか上の空だし、このへんで一息いれよう」
「はい・・・」
「なにかあったの?」
「ちょっと・・・」
「歯切れわるいなあ。俺でよければ力になるって」
「でも、そういう事じゃなくって・・・なんか、気になるってだけですから・・・」
「いいから、いいから」




「校庭の端の方に桜が何本か植えてありますよね」
「ああ、そうだな・・・」
「その一本が、今日、全部散っちゃってるんです」
「ううん・・・ま、風とか雨とかで散っちゃうもんだからなあ・・・」
「先輩、こんとこ、ずっとお天気なんですよ」
「あ、そうか」
「それに、散ってるのはその一本だけなんです」
「早咲きのが、早く散ったのかな・・・」
「今日・・・体育だったから、その木のとこに行ってみたら、地面にすごく花びらが落ちて
て・・・」
「うん?」
「その木のとこだけなんです、そんなに花びらが落ちてたのは・・・まるで、誰かに無理に
落とされたみたいに・・・」
「そういや、志保が休み時間に桜がどうとか入ってた気もするけど、それは気になるな
あ・・・」
「はい」
「でも、誰がそんなことを・・・」
「・・・・」



「とりあえず、誰かが落としたものと仮定してみよう」
「はい」
「と、いうことは、何か理由があるはずだよね」
「そうですね」
「ううん・・・桜が嫌いとか・・・」
「それはないと思います。他の木は無事でしたし」
「葵ちゃんが見た木が、最初の一本かもしれないよ」
「最初にやるなら、端っこから始めると思いませんか?その木は、比較的中央の校門寄り
でしたけど、真ん中って感じでもありませんでした」
「そうか・・・」
「あ、花びらが欲しかったってのは、どうでしょう?」
「花びら?何に使うの?」
「わたしのお母さんの友達に、ポプリとか作る人がいて、花びらがたくさんいるみたいです
よ」
「一本の木まるまる使わないんじゃないかなあ・・・それに、まんべんなく全部の木から
取った方が、後々バレないだろうし・・・」
「それもそうですね・・・」
「それに、高い枝の上の花とか全部落とそうと思ったら、凄い労力がいるしなあ・・・」
「ですよね、軽い遊びでやった事とは、思えません」
「しっかりした目的があって、ある特定の一本の木の花を散らしたって事は・・・」
「散らしたって事は・・・」
「場所かな?」
「場所ですか?」
「うん。花が咲いてるうちは、障害になるんだよ」
「障害?」
「そう、花びらが邪魔で、塀の上に目隠しがある状態なんだ」
「でも、近くに寄って見れば・・・」
「そう、近くに寄って見れば、花は大した邪魔にならない。花びらを落とした犯人は、遠く
から見ていて、ちょうど目的の物を見るのに、あの花が邪魔なんだよ、きっと」
「学校のクラスの誰かでしょうか?」
「そうかもね。なんか、ストーカーめいたものを感じるなあ・・・」
「先輩・・・」
「うん、気をつけないとな。ああいうのは、エスカレートするって話だし、捕まって襲わ
れ・・・あっ!!」
「どうしたんですか!!先輩!!」
「・・・もしも営利目的だったとしたら・・・うん、一人じゃ普通できないんだ・・・」
「えっ!?」
「つまりだ、もしもある人物を誘拐しようとするよな。その人は普段はグラウンドを通って
帰るんだけど、時間はかなり不規則で、しかも校門のとこにお迎えが待ってる」
「それって・・・」
「でも、最近は時々、歩いて帰る事も多くなったし、それで迎えの者も先に帰る事が多く
なってるんだ」
「く、く・・・」
「だから見張りの一人が実行部隊に連絡すれば、すぐに待ち伏せできる。もちろん、見
張ってる事がわからないように、そいつは遠くから望遠鏡かなんかで・・・」
「ど、どうしましょう!」
「とりあえず、学校に急ごう。先輩はいつもは魔術の実験をしてる時間だから、今日は大
丈夫だろうし、そいつらの一人もすぐに捕まえられる」
「そうですか?」
「ああ、グラウンドからその木の方角を見れば、多分、いや、絶対見張りのしやすい高い
建物があるはずだ。来栖川の技術なら、位置をかなりな精度で特定できるはずさ。さ、急
ごう、葵ちゃん」
「はい!!」



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(続き)

その晩、俺は学校のグラウンドにいた。
先輩はセバスを呼んで車で帰ったし、セバスも厳重な警戒態勢を取る事に同意してくれ
たので、今のところは一安心だったのだが、ひょっとしてという事もありうる。
なにか確たる手がかりでも掴めないかと思って、こうして夜の学校に来たわけだ。

ん?誰か来たぞ・・・もしかして・・・
げ、桜の木の方に行きやがった。間違いねえな・・・
だが、どうも服装が変だが・・・
まあいい、しばき倒して白状させて・・・


「おりゃああああああああああああああああああああああああ!!!」


げっ・・・桜の花びらが一撃で全部落ちたぞ!!
なんかで読んだ事がある・・・
・・・崩拳??


「はっはっはっ、葵、見てらっしゃい!!この崩拳で今度こそ・・・」



「頼むからよそでやれええええええええええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ
えっ!!!!」