少しひねった季節ネタ 投稿者:NTTT
・・・ピピピピ、ピピピピ・・・





目覚しを切るのを忘れてた。ったく、日曜日だってのに、なんてこった。



早起きが長いことの習慣なせいか、この時間に起きてしまうと、もう寝直す気にはな

れない。



一階からは物音がしない。まだオヤジもオフクロも寝てるんだろう。日曜だしな。俺が

部活で忙しい時には、日曜でもオフクロは早くから起きて朝食と、その上弁当まで

作ってくれている。親ってのは、ありがたいもんだ。



音を立てないよう、注意して、一階まで階段を降りる。冷蔵庫には、なんか入ってるは

ずだ。できれば昨日の残りがあるといいんだが・・・オヤジの酒の肴にされちまってるっ

てことも、ありうるな・・・



・・・やっぱり、ねえんでやんの・・・



ああ、腹へった。しょうがない、ジュースでも・・・おっ!!そうだ、あれがあるじゃねえ

か!!



ジュースを持って、二階へ戻る。あとで缶だけは一階に戻しとかねえとな。オフクロ

は、俺が部屋で飲み食いすると、目を吊り上げて怒る。



まあ、掃除してもらってるから、文句は言えねえが、それがまた悔しい。



・・・でもなあ、あれはないだろ、マットレスの下に隠しといた本まで、きちんとマットレ

スの下に整理して並べるのは・・・





机の上に放り出しといた紙袋。昨日貰ったチョコレートだ。数は、確か・・・



自慢じゃないが、俺は結構モテる。まあ、ガタイもでかいし、顔も、結構イケてんじゃな

いかと、自分では思う。でも、一番の理由は、そう、俺がスポーツマンで、かなり派手

な活躍をしてるって、その一語に尽きるだろう。女子部の後輩から貰えるってのは、

やっぱ、そういう事なんだろうな・・・



ええと、あの子と、あの子から貰って、それから、あの人からも、義理で貰ったから・・・



・・・結構あるよなあ・・・でも、お返しが大変だっての・・・



今年は今日が日曜だったせいで、昨日のうちに渡してくれた人と、明日学校で渡して

くれる人に分かれるらしい。さすがに付き合いも無いのに、家まで渡しに来る人もい

ないだろうから、明日またいくらか貰うことになるんだろう。まあ、嬉しいことは、嬉しいけ

ど・・・、一つも貰えなかった奴のことを考えると、ひどい言い草かもしれないが、やっ

ぱり好きな人から貰えないと、イマイチ感慨も薄いもんなんだよなあ、ホント。



・・・ええっと、これは誰から・・・げっ!!忘れてたぜ・・・参ったなあ・・・



うーん、どうしたものか・・・明日学校で渡すのは・・・変な誤解を受けそうだしなあ・・・



・・・ったく、自分で渡しゃあいいだろうに・・・まあ、引き受けてて忘れた俺にも問題は

あるしなあ・・・しゃあねえ、今日の内になんとかするとしよう・・・



おし!そうと決めたら、早速・・・って、俺、アイツの家も電話番号も知らねえや・・・



・・・あ、でも、神岸さん家の近くなんだよな、確か・・・



ああ、でも、神岸さんに電話して聞くわけにも、いかねえし・・・



・・・絶対、イヤだ・・・



・・・いや、しかし・・・



・・・よし、下に降りて、電話帳でも見てみるか・・・いや、まず、着替えてからだな・・・





電話帳を開く。

神岸さんの住所は、すぐにわかった。珍しい名字だから、あの辺の町内には、一件し

かない。一瞬、メモしとこうかと思ったが、やめた。馬鹿馬鹿しい。



さて、アイツはかなり多い名字だったが、神岸さんの家の近辺には、3件しかない。



まあ、なんとかなるだろう。交番で聞く手もあるし、ひょっとしたら知った顔にあの辺で

会えるかもしれない。まあ、そんな可能性は、滅多にあるもんじゃないが・・・



さて、まだちょっと早いが、行くか。どうせ向こうに着く頃には、いい時間だ。



玄関を出てしばらくしてから、飲みかけのジュースの缶を部屋に置いてきたのに気付

いた。



・・・あーあ、今日は朝からロクな日じゃねえな・・・・









目指す家は、結局、3件目だった。まあ、調子の悪い日は、こんなもんだ。



・・・ひゃー、噂には聞いてたけど、ずいぶんいい家に、住んでたんだなあ・・・



インターホンを押す。頼むから、いてくれよ・・・



「はい、どちらさまですか」



げっ、女の声・・・母親? にしては、若い声だな・・・



「え、ええと、僕、矢島と申しまして、そちらの雅史君の、その、友人というか、クラスメ

イトというか・・・」



「あ、はいはい。まさくーん、お友達よー!」



・・・まさくん、だってさ、はは・・・女バスのやつらに、教えてやんなくちゃな・・・



「え、ええと、矢島、君?」



「おお、俺、俺だ。ちょっと用事があったもんだからな、それで・・・」



「あ、うん、今行くから・・・」



「ちょっと、出てきてくれよ、あ、そうだ、お前、朝飯もう食ったか?」



「うん、食べたけど」



「そっかあ・・・俺、まだなんだよ、おごるから、近場のサテン、教えてくんねえか」













「で、これ、受け取って欲しいんだけどな」



「え、ええっ!」



「おい、勘違いすんな。女バスの後輩に、頼まれたんだよ。昨日頼まれたの、すっかり

忘れててな」



「あ、ああ・・・そういう事」



「そうなんだ。で、まあ、こうして、来たわけさ」



「明日、学校で渡してくれても、よかったのに」



「それも考えたんだけどな、とりあえず頼んだ方は、昨日の内に渡して欲しかったんだ

ろうし、なにより・・・」



「ん?」



「学校で渡した時に、変な噂が立ったら困る」



「ああ、なるほどね・・・」



「ま、まあ、なんてーか、あれだ、神岸さんの家の近くに一度は行ってみたかった、

つーか、まあ、そんな気持ちも、無きにしも、あらず、つーかな・・・」



「くすっ・・・まだ、あきらめてないんだね」



「たりめーだ、って、言いたいとこだが、そういうわけじゃねえ。俺だって終わったことを

いつまでも、うじうじしてらんねーしな。なんてーか、ただ、一回でいいから、見ときた

かったんだ・・・」



「・・・なんとなくだけど、わかるよ」



「おお、わかるか。切ないこの心が、ビンビンくるだろ、な」



「・・・はは・・・」



「話変わるけどよ、そっち、今年はいくつ貰った?」



「えっ・・・えーと・・・」



「いや、いい、言わんでいい。どうせ俺とかとは、ケタ違いだろうしな・・・」



「そんな事、ないよ・・・」



「誤魔化すこたねえって。昨日だって、相当教室に来てたしな・・・お前も、誰か彼女作

ればいいのに」



「矢島君もね」



「げっ、痛いとこ突くなよ、俺、傷ついたぞ」



「ははは・・・」



「なあ、でも、マジな話、なんで彼女作んないんだ?まさかホモってわけじゃねえんだろ」



「怒るよ」



「いや、そんなわけねえとは思うけどな、でも、サッカー部の一年とかは、陰で言って

る奴とかもいるんだぜ」



「ホントに?」



「おお、うちの一年とかにも伝わってるし、案外、お前が女子に人気あるのは、そうい

うとこもあったりしてな。ほら、女って、その手の話、好きだろ」



「・・・まったく・・・」



「なあ、ホントのとこ、聞かせろよ。実は誰かに密かな思いを寄せてるとか?」



「違うよ・・・ただ・・・」



「ただ?」



「・・・矢島君は、引退したらバスケはもうしないの?」



「えっ・・・い、いや、俺、特に勉強好きってわけじゃねえからなあ・・・実業団とかに行

ければとか、思わないでもないんだけど、まだ一年あるし、その辺で考えてみようかと

は、思ってるけど・・・」



「僕も、まあ、似たようなもんだから」



「おいおい、お前は成績いいだろーが」



「でも、サッカーは、続けていきたいんだ」



「親とか、なんて?」



「まだ、話してないんだけどね」



「・・・ふうん・・・」



「まあ、それが理由と言えば、理由かな。今は、考える気になれないんだ。他に考える

ことが、多いから」



「ふう・・・苦労してるんだな」



「それは矢島君も一緒でしょ」



「いや、なんか、俺、この辺に、ガーンて、きたぜ。やっぱ、しっかり考えとかねえとな

あ・・・」



「大丈夫だよ、矢島君なら」



「え、そ、そうかな・・・マジに、そう思うか?」



「断言は、できないけど・・・」



「うーん、なんか、元気出てきたぞ。よし、引退しても、時々は朝練とかには顔だしてビ

シビシ鍛えてみるか・・・」



「やりすぎちゃ、駄目だよ。下が窮屈になるし」



「まあ、まだ先の話だからな」



「それほど、先の話じゃないよ」



「だな。お互い、頑張ってみるか」



「うん」



「・・・そういや、お前、いや、佐藤とこんな風に話すのって、実は初めてじゃねえか?」



「そうだね」



「な、なあ・・・」



「何?」



「3年になっても、同じクラスとか、なれるといいな」



「うん、そうだね」



「・・・なんか、朝はバタバタしちまって、どうなることかと思ったけど、案外、今日はい

い日かもな」



「えっ?」



「いや、こっちの話。お前には関係ないんだけどよ、それが今思うと、結構笑えるん

だ。話の始まりは昨日の晩からになるんだけどな・・・」











・・・うん、いいバレンタインじゃねえか・・・





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