「おりゃああああああああああ!!」 葵ちゃんの崩拳がきまると思った刹那、坂下はカウンターで葵ちゃんの肩を突いていた。葵ちゃんはよろめ いて、そのままへたり込む。 「葵っ!何度言ったら解るのっ!!分が悪くなってきたら、一旦体勢を立て直すか、動けなくなるまで打ちま くるのが大事だって言ってるでしょ!!どうして、タイミングがバレバレの崩拳にすぐ頼ろうとするのよっ!!」 「す、すいません。坂下先輩」 「藤田、それでもトレーナーなの!!あんたもトレーナー気取ってるんなら、このくらいの事、気付きなさい よっ!!」 「坂下先輩、私が悪いんです。藤田先輩は、いつも言ってくれてるんですけど、つい、私・・・」 「ふう・・・ねえ、確かに、初めて出された時は見事に食らっちゃったけど、そうそう当たる技じゃないって事は、 あんたもわかってるでしょ?二度も食らうほど私だって間抜けじゃないのよ」 ・・・そう、葵ちゃんと坂下がそれぞれの立場を賭けて闘ったあの日から、もう、ひと月近くたっていた・・・ あの日以来、坂下は葵ちゃんの事を認めてくれたようで、時々この神社に来ては、練習相手になってくれて いる。 「・・・たとえマグレとはいえ、一度は私を負かしたんだから、エクストリームとやらでも、上位入賞してもらわ なきゃ、私の立場がないのよ!」 とは、本人の言。 だが、あれこれ指導してくれてる態度は、まるで姉と妹みたいにも、見える。 良く考えたら、空手部では後輩も多いはずだし、かなり面倒見もいい先輩なのだろう。 まあ、だからこそ、葵ちゃんもあれほど慕っているわけだが。 実際、坂下は強い。葵ちゃんが坂下に勝ったのは、「あの日」、一度きりだ。練習でもかなり本格的にスパー リングをするが、あれ以来、葵ちゃんは坂下に負け続けている。 「また明日ね」 坂下は、スパーリングを終えて、帰っていった。この後、道場にも行くらしい。タフな奴だ。 「・・・また、負けちゃいました」 「まあ、そう気にしなくても、いいんじゃない。練習なんだし」 「・・・私、今日は本気で、やってみたんです・・・」 「・・・・」 「・・・どうして、勝てないんだろう・・・」 「大丈夫だよ、きっと勝てるようになるって」 「・・・・」 「・・・・」 葵ちゃんは、ため息を一つ吐いて、「今日は、もう、帰ります」と言った。 送っていこうと言ったが、「一人で考えてみたいですから」と、断られた。 ・・・葵ちゃん、明日は来るんだろうか・・・ いや、葵ちゃんは、明日もきっと来る。俺には、そう信じる事しか、できなかった。 次の日、神社に来た葵ちゃんは、大きな風呂敷き包みを背負っていた。顔が、明るい。俺はホッとした。 「藤田先輩、私、解ったんです!!」 「えっ、何が?」 「ですから、私が、どうして、坂下先輩に勝てないのかが、解ったんです!!」 「そ、そうか」 やっぱり、経験の差なんだろうな。よし、葵ちゃん、どんな猛特訓にも、付き合うぜ!! 「リーチの差と、体重なんです」 「・・・・」 ・・・今まで、考えてなかったのか? 「ですから、今日から、ご飯を一日に12回、食べる事にしました」 葵ちゃんは、背負っていた風呂敷き包みを、下ろした。 中身は、全部弁当箱だった。 「今日から、食べて、食べて、食べまくります。寝る子は育つって言うし、食べたらすぐ寝て、きっと大きく、重 くなってみせます!!」 「あ、あの・・・」 「藤田先輩、見ててください、私、頑張ります!!坂下先輩に追いついてみせますから、ぱくぱく、めざせ、 体重百キロ!!身長2メートル!!ぱくぱく」 「い、いや、そんなには、いらないんじゃ・・・」 「何言ってるんですか、藤田先輩、ぱくぱく、坂下先輩はきっと百キロは超えてます、ぱくぱく、身長だって、ぱ くぱく、2メートル10センチはあるはずです、ぱくぱく」 「・・・ほう・・・」 気がつくと、坂下が、来ていた。 「坂下先輩、ぱくぱく、今日は早いですね、ぱくぱく」 「・・・吐かす・・・」 ・・・誰か助けて・・・ ________________________________