クリスマス用特別仕様 投稿者:NTTT
クリスマスにパーティーをしようと言ったのは、浩之だった。

「皆で、鍋やろーぜ、鍋」
「・・・あ、あのさ・・・」
「ん?どうした?来れねえのか?」
「浩之は、あかりちゃんと、二人で過ごした方が・・・」

実際、浩之とあかりちゃんは修学旅行以来、誰が見ても『公認』のカップルだった。まあ、その前からも、あ
れこれ言う人もいたけれど、その頃は浩之が否定していたこともあって、「いじらしいあかりちゃん」だけが、
クラスメイト間の共通見解だった。

だから、僕らもなるべくあかりちゃんの邪魔はしないよう、また、浩之には気を使ってる事を悟られないよ
う、過ごしてきた。浩之は変に気を使うと、かえって逆効果の事が、多かったから。

でも、今は違う。浩之は他のクラスメイトにひやかされても、意味深にニヤリと笑うだけだ。浩之にそんな笑
い方をされると、矢島君と志保ぐらいしか、ツッコメる人はいない。もっとも、最近は志保もあまり浩之に
突っかからなくなってるけど。というか、顔を見せること自体、少ない。

「あのな、お前らを呼ぼうって言い出したのは、あかりだぜ。最近お前ら変によそよそしいし、付き合い悪ぃ
からって」

あかりちゃんが、「お前ら」とか、「付き合い悪ぃ」なんて言葉を使うとも思われないけど、でも、そう思ってる
かもしれないとは、思っていた。ホントに、あれから僕らと僕らの関係は大きく変わってしまっていたから。

一番変わったのは、志保だと思う。

最近はこの教室にも、滅多に来ない。お昼には校庭の方で他のクラスメイト達と過ごしているようだ。食堂
へ行く途中、よく見かけるけど、浩之が僕と一緒にいる時は、大抵気付かないふりをして、友達と喋っている。

でも、浩之が気付いていない時に、こっちをちらちらと何度も見ているのを、僕は知ってる。

そして僕も、多分変わったのだろう。サッカー部が忙しいのも理由な気がするけど、なにより、浩之とあかり
ちゃんが一緒の時は、僕自身、声をかけるのをためらう事が多くなった、と思う。

「なあ、来るんだろ、頼むわ」
「・・・志保は?」
「ああ、志保の方は、あかりが行ってる。アイツの事だから、あかりが頼めば、絶対来るって。実はこの前、
親父に来たお歳暮をちょっとくすねてな、結構いい酒、あるんだぜ」
「・・・怒られるんじゃないの?」
「大丈夫だって!クリスマスにも帰ってこねえ方が悪ぃ。久しぶりに徹夜で遊ぼうぜ」
「僕、あんまりお酒は飲めないよ」
「志保が結構飲むんじゃねえか?」
「飲ませた事、あるの?」
「ない」
「・・・・まあ、それなら、僕も行くよ・・・」
「あ、そうだ。一応プレゼントも用意してるから、お前らも頼むぜ。でも、あんま、高いのは、ナシな。俺等も
そんな高いのは用意してねえから・・・」




放課後に志保をつかまえるのは、結構大変だった。ゲームセンターを何件かまわって、カラオケボックス、
コンビニ、本屋。結局、2件目の本屋で立ち読みしている所を、見つけた。

「ああ、行くわよ。あんたも行くんでしょ?」
「うん、それで、二人でプレゼントを用意しようと思って」
「あたしはあたしで用意するから、あんたはあんたで用意したら?あ、それとも、あたしがあんたの分も用
意するから、請求書を後で送るってのは、どう?」
「・・・ま、まあ、それでも別にいいけど、何を送るつもりなの?」
「・・・そうねぇ・・・あかりにはシャレてて可愛い小物かなんかで、あの浮かれ男には・・・」
「浮かれ男?」
「そうよ!でれでれして、目尻なんか、こーんな下がっちゃって・・・」
「・・・ホント、最近、人当たり良くなったね、浩之」
「だらしないって、言うのよ。ああいうのは・・・」
「浩之に、言ってやればいいのに・・・」
「どうせ、聞きゃしないって。頭に花咲いてるようなもんなんだから」
「いいじゃない、幸せで」
「ま、まーね。別に、いいけど・・・」
「ねえ、プレゼント、買いに行こうよ。もうすぐデパート閉まっちゃうし」



結局、変な柄のペアルックのセーターと、時計にした。志保の提案だ。帰り道、寒くなったから、喫茶店に入
る事にした。デパートを出てからずっと黙っていた志保は、紅茶をスプーンでかき回しながら、小さなため息
を一つもらした。

「あかりってさあ、どうしてかなあ・・・」
「え?」
「どうして、ヒロのこと、好きなのかなあ・・・」
「・・・・」
「ねえ、どうしてだと思う?」
「・・・志保は、どうして、浩之の事、好きなの?」
「・・・・」
「『好き』って、どうしてなのか、わからないけど、でも、『好き』なのは、どうにもならないんだよ・・・」
「・・・・」
「お互いが、お互いを、『好き』って言えたら、いいんだけど・・・」
「・・・そうよね・・・」
「僕は・・・」
「・・・あかりでしょ?」
「・・・前はね」
「え!?」
「・・・今は・・・」
「うん、今は?」
「・・・・」
「ねえ、誰なのよ、教えたんさい。あんた、女の子の間でも人気あるし、優良株じゃない。協力したげるわよ
ん。ほれほれ」
「・・・今の志保じゃ、無理だよ」
「な、なによ、あたしじゃ役不足って言うわけ?」
「・・・言葉も違ってるけど、ホントに、今の志保じゃ駄目なんだ・・・浩之を、まだ、好きな志保じゃ・・・」
「・・・・・・・・・」
「さ、遅くなったし、そろそろ出よう」




「・・・いつからよ・・・」
「・・・さあ・・・いつのまにか、かな」
「・・・嘘なんでしょ・・・」
「嘘で、こんな事、言わないよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・もしも、あたしがさ、このまま、ずーっと、一生、ヒロの事、好きでも、好きなの?」
「・・・ホントは、浩之の事、好きでもいいんだ・・・」
「・・・・」
「・・・好きなものは、やっぱりしょうがないんだ・・・」
「・・・・」
「だから、僕も、しょうがない・・・」
「・・・・」
「しょうがないから、待つよ。今まで、いろんな物を、長い間、待ってきたんだし、これからだって、待つ」
「・・・ね、ねえ・・・」
「ん?」
「・・・ズルいけど、待てなくなったら、さっさと、よそ行ってくれて、いいからね・・・」
「・・・僕、待つ事では、自信あるんだ・・・」
「・・・・あっ、雪!!」



僕らは、そのまましばらく立ち止まったまま、降ってくる雪を見続けた。街灯に照らされた中、雪は、静か
に、アスファルトの地面に吸い込まれていった。そして二人で見ているうちに、降り続ける雪は、アスファル
トを少しづつ、けど、確実に白く染めていった。

気が付くと、志保が僕の横顔を、見ていた。


「・・・あ、あのね・・・」
「何?」
「・・・あ、あんまり、待たせないから・・・」


志保は足早に僕の前を歩いていく。僕は追いかけた。

今、志保はどんな顔をしているのだろう。



僕の顔は、きっと笑ってる。



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うわ、BOY’S   BEか、俺
どうしちまったんだ、俺

あ、そうだ、takataka様、例の岡マリモ、「タンブルウィード」とか、言ったはず。ヤドリギの一種と記憶してお
ります。