災いを呼ぶ女 投稿者:NTTT
休み時間に、廊下をブラブラ歩いていると、琴音ちゃんに出会った。
「こんにちわ、藤田さん」
ぺこり、と頭を下げる琴音ちゃん
いつも礼儀正しいなあ。でも、心なしか、顔が赤い。
「どうしたの?熱でもあるの?」
「えっ・・・そういえば、今日は朝から体がだるいような感じがしてたんですけど・・・」
額に手を当ててみる。
げっ!こりゃすごい熱だ。
「琴音ちゃん、保健室へ連れてってあげるよ」
「大丈夫ですよ、一人で行けます・・・あっ」
「いいって、無理すんな」
俺は、琴音ちゃんを抱きかかえるようにして、保健室に連れていった。





保健の先生から貰った薬を飲むと、琴音ちゃんはすぐに眠ってしまった。
先生は会議に出席するため出ていってしまったので、俺はしばらく琴音ちゃんに付き添う事にした。
ベッドの傍らに椅子を持ってきて、腰掛ける。
琴音ちゃんは、薬と、熱で消耗していたせいだろうか、死んだように眠っている。
かすかな寝息と、それにあわせて小さく上下する胸だけが、琴音ちゃんの「生命」の証のように、俺には
思えた。
俺は、そのままずっと琴音ちゃんの寝顔を見続けていた。





異変が起こったのは、そう、30分もした頃だろうか。いや、実際には、もっと早いのかもしれない。
俺が気がついたのは、髪の毛だった。枕の上で広がっていた琴音ちゃんの髪が、少しずつだが、まとまっ
て、垂れ下がっているように感じたのだ。
掛け布団をまくった。
そう、琴音ちゃんの体は、ベッドの上10センチほどの空中で、静止していた。
いや、静止ではない。ゆっくりとだが、確実に、上昇していた。



「琴音ちゃん!!」
叫んでも効果はなかった。薬か、それとも熱のせいか、琴音ちゃんはトランスのような状態にあるらしい。
無意識に超能力を発動しているのだ。
慌てて琴音ちゃんを揺すり起こそうとしてその肩に手を触れると、まるで石のようだった。
胸に目をやる。
琴音ちゃんの胸は、もう上下はしていなかった。全身を石のように固くしたまま、呼吸もおそらくは最小限に
留め、上昇を続けているのだ、琴音ちゃんは。



なすすべなく立ち尽くす俺の目の前で、琴音ちゃんは上昇を続ける。もうすぐ、俺の肩に届くだろう。
天井を見る。天井に届けば、上昇は止まるのだろうか。
もしも、止まらなければどうなるのか。天井に押しつぶされるのか、それとも、天井を破壊して上昇を続ける
のか。琴音ちゃんの超能力の最大限は、俺も琴音ちゃんも知らない。
だが、もしも天井で止まったとしたら、いつ降りてくるのか。
琴音ちゃんが浮いている状態で保健の先生が帰ってきたら、どうなるのか。
琴音ちゃんの超能力は、まだ、かろうじて「噂」の段階を保っている。
はっきり確定した超能力が琴音ちゃんにあるとわかった場合、どうなるのか。
ためらううちにも、上昇は続く。
俺は、決心した。



ためらったせいで、琴音ちゃんの体は、いまや手を伸ばさないと届かない所まで上昇していた。制服の上着
を脱いで、琴音ちゃんの胴に放り投げる。二本の袖が垂れ下がった。ロープ代わりにして、琴音ちゃんの体
に登る。登りきるまで袖がもった事に、ちょっと感心した。
琴音ちゃんの腿に膝を乗せ、肩を掴んで姿勢を安定する。体重をかけたせいか、こころなし上昇が止まった
ような気がした。
だが、上昇自体は止まっていなかった。
俺の背中に、天井が触れた。



ゆっくりとだが、天井は俺の背中に押し付けられていく。いや、俺が天井に押し付けられているというのが、
正しい表現だろう。膝をそろそろと移動させ、姿勢を低くする。琴音ちゃんの体は、まるでデコボコした石の
マットだった。天井は次第に俺の背中を圧迫していく。サンドイッチ状態の俺は、すでに抜け出すチャンス
を失っていた。後頭部に天井があたる。背骨がきしむ音が聞こえそうだった。肺も圧迫されている。声を出
す機会はもうすぐ失われるだろう。残った空気をすべて吐き出すつもりで、叫んだ。


「琴音ちゃああああああああああああああああん!!!!!!」










よかった事

1.琴音ちゃんがギリギリで目を覚ましてくれた事
2.ベッドの上に落ちたため、双方とも怪我がなかった事
3.最初、何が起こったかわからず泣いていた琴音ちゃんも、後日、事情を話したら、感謝してくれた事

悪かった事

1.誤解した琴音ちゃんに泣かれた事
2.叫び声のせいで、保健の先生他何人かの生徒がやってきた事
3.停学になった事
4.「鬼畜」、「ケダモノ」等のあだ名がついた事
5.口を聞いてくれる人間が極端に減った事
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