暗黒スフィー 投稿者:MIO 投稿日:10月31日(火)23時41分
 みにょーん・・・みにょーん・・・

 どうも、様子がおかしいぞ――と、俺、健太郎は思った。
 どうも様子がおかしい。
 グエンディーナから帰ってきたスフィーの様子が、

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 おかしいんだ。
(まず、髪の毛だ)
 出会った頃の、あの派手でけばけばしい色の髪の毛は何処に行ったんだ?
 墨を流したみたいに、真っ黒じゃないか。
 それにあの肌!!
 血色の良かったあの肌は、いまじゃモノクロ映画の登場人物のように白い!
 脱色したみたいだぞ!!

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 それだけじゃない!
 帰ってからというもの、まったくの無言だ!
 あのかしましいスフィーが!
 口にする言葉といったら、金属が軋むような怪音ばかり!
「ぎーぃ、ぎぎぎぃーい、ぎぃーぃ」
 まったく釈然としない!!

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 店内をウロウロと歩いては、

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 奇妙な音を発する謎の光線を放ち(たぶん、魔法だ)、骨董という骨董を真っ黒
に変えているんだ! 

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 ああ!
 五百万もする絵皿が、煤けたみたいに真っ黒に!!
 おかしい!
 あのスフィーは絶対おかしい!
 あれは絶対にスフィーじゃないぞ!
(でも・・・)
 あなたはスフィーではありませんね? と訊いて、もし本人だったりしてみろ!
 ヘソを曲げるに決まってる!
 せっかく帰ってきたんだ、俺だってねぎらいの言葉をかけてやりたいじゃないか!
 
 みにょーん・・・みにょーん・・・

 ああ!!
 長瀬さんから借り受けている美人画が、墨汁に浸したみたいに!?
 なんてことを・・・
 なんてことをするんだよ、スフィー!!

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 ああ、みどりさんのために買い付けておいた茶碗が!!
 茶碗が木炭のような色になってしまった!
 黒い!
 黒いぞ、どこまでも!!
 スフィー!
(し、しかし・・・)
 あれは本当にスフィーなんだろうか!?
 もし別人だったなら、俺は無実のスフィーをなじることになるんじゃないか!?
 そんなことは出来ない!
 スフィーは俺にとってかけがえの無い存在なのだ!
「ぎーぃ、ぎぎぎぃーい、ぎぃーぃ」

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 ああ、しかし!
 店の壁紙までも、墨汁のような色に変わっていくぞ!?
 どうすればいいんだ!?

「けんたろー、いるー?」

 あ、結花!?

「あれ!? スフィーじゃない! いつのまにかえって――」

 みにょーん・・・みにょーん・・・

「黒はとってもスバラシイ・・・そういうふうに思ってしまう結花なのでした」
 奇妙な独り言をいって、結花は立ち尽くしてしまった!!
 ああ、なんてことだ!
 結花までモノクロになってしまった!!
 ちくしょう、俺がモタモタしているから!
 しっかりしろよ健太郎! お前は骨董屋のセガレなんだぜ!
 贋物か、そうじゃないかくらい、しっかり見分けるんだ!!

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 ああ、店の名物である狸の置物までもが、墨のように!!
 床も!
 気付けば店の外までも!!
 白黒映画の世界!?
 色の無い・・・
 黒の世界!?
 急げ! 健太郎! あいつは・・・あの黒いスフィーはホンモノか!?
 それとも――

 みにょーん・・・みにょーん・・・

 黒い霧が、俺の体にふわりとまとわりついた!
 なんだ!
 なんだこれは!?
 ぞくぞくとした、悪寒に似た感覚が背筋を昇るぞ!?
 ああ、俺の手がモノクロォムになっていく!?
 視界が、視界までもモノクロォムに!?
 なんてこった!
 俺も黒くなるのか!?
 髪も、肌も!
 血液さえも墨汁のように!?
 でも、でもわかったぞ!
 コトの元凶である、目の前のスフィーは!!
 このスフィーは!!

 みにょーん・・・みにょーん・・・

「贋物だ!!!!!!!」

 うはぁ!
 言い終わったとたんに、黒いヨ!
 脳みそまでもが黒くそまったヨ!
 ラララ、もうどうでもいいや!
 楽しい気持ちがイーッパイ!
 うふふふ
 くすす
 
 暗黒ばんざ〜い☆

http://www.interq.or.jp/black/chemical/