夢に惑いて、現に迷う 投稿者:MIO 投稿日:10月25日(水)23時54分
「葵ちゃんッ! いまだ、カメ●メ波だッ!!」

 先輩の声に、わたしは首を横に振りました。
「ダ、ダメです!」
「葵ちゃんッ!?」
 出来ない・・・
 カメ●メ波は、わたし・・・出来ないんですッ!
 漫画で読んで、
 もしかしたらって思って、誰も見てないところで、練習したんです。
 何度も、何度も・・・
 真剣にッ!
「でも、ダメでした! やっぱりアレは漫画なんです、わたしには・・・」
 出来ないんだ・・・わたしは、ただの松原葵。
 ただの・・・

「葵ちゃんは強いッ!」

「え!?」
 先輩の声・・・
 それは、とても力強い応援でした。
「葵ちゃんは強いッ!! 俺が保証する!!」
「せ、先輩・・・」
 先輩は、わたしに優しく微笑みます。

「葵ちゃん、キミは俺がいれば・・・スーパー松原葵になれるんだろう?」

 そうだ・・・
 わたしは・・・
 先輩さえ、先輩さえいてくれれば・・・
「葵ちゃん! 俺はいつも一緒だ!」
 先輩!
 わたし・・・
「スーパー松原葵に・・・なりますッ!」
 勇気が、そしてチカラが漲ってくるッ!
 先輩と一緒なら、きっと、きっと出せる!
 わたしのカメ●メ波がッ!!

「はぁぁぁぁッ!」

 ここまでは、いつもどおりだ・・・
 問題はここから先だ! 漫画みたいに、本当に光線が出るだろうか・・・!?
 そのとき!
 先輩が、わたしに向かって叫びましたッ!

「葵ちゃん、手首だ! もっと手首をきかせてッ!」
 
 手首をっ!?

「それから、もっとしっかり足を地につけるんだッ!」

 そ、そうか・・・
 わたしが、いままでどんなに頑張ってもカメ●メ波が出せなかったのは、この違
いだったんだ!!
 目の前の闇が晴れていくような感覚!!
 やっと解った!!
 違いを正した瞬間、全身にチカラが溢れだす!!
 『気』だ!
 そして、今こそ放つ!!
 放ってみせる!!
 カメ●メ波!!

 私の手のひらに、光が収束して――
  

「てぁ! はっ! せいッ!」

 ビシッ、バシッ! バシッ!

 秋の空に、サンドバックを蹴る音が響く。
「はぁぁッ! はっ! てぇぇいッ!」

 ビシビシッ! バシッ!! バシッ! バシィィィッ!
 
 最後に上段回し蹴りを決める。
 サンドバックが、ひときわ高い悲鳴をあげて沈黙。
 ぎしぎし揺れるサンドバックにもたれて、葵は荒い呼吸を整える。
「ハァハァ、ハァ・・・」
 それにしても――

(それにしても、今日はすごい夢、みたなぁ・・・) 

 まさかカメ●メ波だなんて・・・
「・・・」
 たしかに葵は、マンガに影響をうけて、練習してみたことがあった。
 もしかしたら、出来ると思って、
 誰も見ていないのを確かめて、
 それから、光線でモノが壊れるといけないから、窓のほうに体を向けて、
 「はっ!」とか「やぁ!」とか、真面目にやってみたのである。
 葵はまっすぐな子供だった。
 でも、出ないものは出ないのである。
 
 ちょっとガッカリしたのを、葵は今でも覚えている。

 夢を思い返して、葵は無意識にポツリと呟く。
「・・・手首と、足かぁ・・・」
 ・・・
(はっ!? わ、わたし、なに考えて・・・!)
 ぶんぶんと頭を振る。

 もしかしたら、出来るかもしれない。

 ――一瞬、そう思ってしまった。
「で、でも・・・」
 あの時は知らなかったコツを、今は知っている。
 手首と、足だ。 
 子供の頃は知らなかった、カメ●メ波を出すための・・・テクニック!!
 もしかしたら。 
 それさえ、そのコツさえ間違えなければ、もしかしたら・・・
「・・・」
 夢では出来た。
 すっごくリアルだった。
 先輩も、出来るといってくれた。
 なにより、あの感覚!
 出たときの達成感・・・!!
「・・・も、もも、もしかしたら」
(コ、コツはわかってるんだから・・・で――)

 出来る気がする。

「ッ!」
 葵はサンドバックから離れると、あたりをキョロキョロ見回して、人がいないこ
とをシッカリ確認する。
(大丈夫だ!)
 葵は、「すぅはぁ」と深呼吸。

「よし!」

 パチンと頬を叩いて、気合充実!
 肝心なのは手首をきかせること、足はしっかり地につけて・・・
 全身の『気』を、手のひらに集める!! 
「はぁぁぁぁッ!」
 いける!
 いける気がする!!
 
「かぁ〜めぇぇぇぇ・・・」

 手首をきかせて!

「はぁ〜めぇぇぇぇぇ・・・」 

 足は、しっかりと踏みしめる!!
「――ッ!」
 葵は、極限まで集中した!
 手のひらが熱い!
 いけるッ!!

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


 出るワケがない。

 秋風が一陣吹き抜け――

 葵はひどく赤面した。


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ヨカッタネ、誰もいなくて。
 
  

 

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