「葵ちゃんッ! いまだ、カメ●メ波だッ!!」 先輩の声に、わたしは首を横に振りました。 「ダ、ダメです!」 「葵ちゃんッ!?」 出来ない・・・ カメ●メ波は、わたし・・・出来ないんですッ! 漫画で読んで、 もしかしたらって思って、誰も見てないところで、練習したんです。 何度も、何度も・・・ 真剣にッ! 「でも、ダメでした! やっぱりアレは漫画なんです、わたしには・・・」 出来ないんだ・・・わたしは、ただの松原葵。 ただの・・・ 「葵ちゃんは強いッ!」 「え!?」 先輩の声・・・ それは、とても力強い応援でした。 「葵ちゃんは強いッ!! 俺が保証する!!」 「せ、先輩・・・」 先輩は、わたしに優しく微笑みます。 「葵ちゃん、キミは俺がいれば・・・スーパー松原葵になれるんだろう?」 そうだ・・・ わたしは・・・ 先輩さえ、先輩さえいてくれれば・・・ 「葵ちゃん! 俺はいつも一緒だ!」 先輩! わたし・・・ 「スーパー松原葵に・・・なりますッ!」 勇気が、そしてチカラが漲ってくるッ! 先輩と一緒なら、きっと、きっと出せる! わたしのカメ●メ波がッ!! 「はぁぁぁぁッ!」 ここまでは、いつもどおりだ・・・ 問題はここから先だ! 漫画みたいに、本当に光線が出るだろうか・・・!? そのとき! 先輩が、わたしに向かって叫びましたッ! 「葵ちゃん、手首だ! もっと手首をきかせてッ!」 手首をっ!? 「それから、もっとしっかり足を地につけるんだッ!」 そ、そうか・・・ わたしが、いままでどんなに頑張ってもカメ●メ波が出せなかったのは、この違 いだったんだ!! 目の前の闇が晴れていくような感覚!! やっと解った!! 違いを正した瞬間、全身にチカラが溢れだす!! 『気』だ! そして、今こそ放つ!! 放ってみせる!! カメ●メ波!! 私の手のひらに、光が収束して―― 「てぁ! はっ! せいッ!」 ビシッ、バシッ! バシッ! 秋の空に、サンドバックを蹴る音が響く。 「はぁぁッ! はっ! てぇぇいッ!」 ビシビシッ! バシッ!! バシッ! バシィィィッ! 最後に上段回し蹴りを決める。 サンドバックが、ひときわ高い悲鳴をあげて沈黙。 ぎしぎし揺れるサンドバックにもたれて、葵は荒い呼吸を整える。 「ハァハァ、ハァ・・・」 それにしても―― (それにしても、今日はすごい夢、みたなぁ・・・) まさかカメ●メ波だなんて・・・ 「・・・」 たしかに葵は、マンガに影響をうけて、練習してみたことがあった。 もしかしたら、出来ると思って、 誰も見ていないのを確かめて、 それから、光線でモノが壊れるといけないから、窓のほうに体を向けて、 「はっ!」とか「やぁ!」とか、真面目にやってみたのである。 葵はまっすぐな子供だった。 でも、出ないものは出ないのである。 ちょっとガッカリしたのを、葵は今でも覚えている。 夢を思い返して、葵は無意識にポツリと呟く。 「・・・手首と、足かぁ・・・」 ・・・ (はっ!? わ、わたし、なに考えて・・・!) ぶんぶんと頭を振る。 もしかしたら、出来るかもしれない。 ――一瞬、そう思ってしまった。 「で、でも・・・」 あの時は知らなかったコツを、今は知っている。 手首と、足だ。 子供の頃は知らなかった、カメ●メ波を出すための・・・テクニック!! もしかしたら。 それさえ、そのコツさえ間違えなければ、もしかしたら・・・ 「・・・」 夢では出来た。 すっごくリアルだった。 先輩も、出来るといってくれた。 なにより、あの感覚! 出たときの達成感・・・!! 「・・・も、もも、もしかしたら」 (コ、コツはわかってるんだから・・・で――) 出来る気がする。 「ッ!」 葵はサンドバックから離れると、あたりをキョロキョロ見回して、人がいないこ とをシッカリ確認する。 (大丈夫だ!) 葵は、「すぅはぁ」と深呼吸。 「よし!」 パチンと頬を叩いて、気合充実! 肝心なのは手首をきかせること、足はしっかり地につけて・・・ 全身の『気』を、手のひらに集める!! 「はぁぁぁぁッ!」 いける! いける気がする!! 「かぁ〜めぇぇぇぇ・・・」 手首をきかせて! 「はぁ〜めぇぇぇぇぇ・・・」 足は、しっかりと踏みしめる!! 「――ッ!」 葵は、極限まで集中した! 手のひらが熱い! いけるッ!! 「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」 出るワケがない。 秋風が一陣吹き抜け―― 葵はひどく赤面した。 ------------------------------------------------------------------- ヨカッタネ、誰もいなくて。http://www.interq.or.jp/black/chemical/