瑞穂の細腕日本書紀 投稿者:MIO 投稿日:7月21日(金)22時13分
 
 1999年7月18日 AM08:27
 太平洋(ハワイ、オアフ島より北へ3000KM)
 K・A・L海上基地『エクスプローラー07』

 基地は、赤い炎と黒煙に巻かれている。
 近代建築技術の粋を結集して創られた近未来の海上基地も、いまや、乗組員
もろともに、その身を青い海原へ沈めつつあった。
「HEY理緒! アレはなんデスか!?」
 かなり無茶な姿勢でMP5Kを構えたレミィが吼える。
 応える理緒は、首を横に振る。
「わかんないよ、そんなの!」

 ハァ、そりゃそうデスネ――

 レミィは嘆息すると、再び身を乗り出してMP5Kを乱射した。
「死ネ、死ネ! 死になサァイ!」
 マズルフラッシュがほとばしり、銃身は弾丸をバラ撒く。
 硝煙の香り。
 鼓膜を打つ激しい発射音。
 時折、跳弾の甲高い音が混じり、例えようの無い音色を(これを音楽と表現
するのはレミィくらいのものだが)響かせる。
 だが――
 敵はいっこうに倒れる気配がない。
「ッ!?」
 レミィの射撃の腕に間違いはない。ならば、敵はカラダに銃弾の雨を受けて
平気でいるということになる。
 あっと言う間に空になったマガジンを放り捨てると、理緒が新しいマガジン
を投げてよこした。
「それが最後だよ!」
「●△■×ッ!!!」
 下卑た雑言を吐き捨てて、レミィは再び銃を構えた。

 状況は絶望的である。
 

 アメリカ合衆国を本拠地にするカルト教団『星の智慧派』は、当時、太平洋
の海底遺跡調査中であった、来栖川グループの施設を襲撃。
 来栖川グループに属する部門の一つ、K・A・Lの管理する海上基地『エク
スプローラー07』に甚大な損害を与える。
 また、当の調査グループに同行していた合衆国海軍の駆逐艦『イリノイ』に
も、無視できない損害が出ている。
 しかし、教団の代表ナイ=ラテープは、今もなお、この事実を否定している。
  
 
「だ、ダメだッ! ここはもうもたないッ!」
「・・・」
「そんな! やつらを放っておけばどんなことになるかッ!」
「・・・」
「データは回収できたからいい!? お嬢様! この基地を捨てていけと!?」
「・・・」
「しかし、それでは来栖川の面子はどうなります!? たかがカルト教団に基
地を――」
「・・・いい・・・です」
「お嬢様・・・!?」
「このままじゃ・・・みんな・・・死ぬから・・・」
(みぃんな・・・死んでしまうから)

 来栖川はこの事件の三ヵ月後に、謎の崩壊を迎え、証拠等の提出は不可能と
なった。
 また、関係者も大半が行方不明、もしくは政府特務機関に組み込まれており、
その証言は大掛かりな検閲を通すことになる。
 さらに、米国政府も来栖川の崩壊と同時に、『星の智慧派』の糾弾を撤回。
 『イリノイ』が極秘艦であったことが関係していると思われるが、まことし
やかにささやかれる噂を信じるのであれば、政府内部に教団と通じている者が
おり、なにかしらの圧力がかけられたらしい。


「雛山さん。わ、わたしが残ります・・・」
「えっ!?」
「誰かが残らないといけないんでしょう? 誰かが・・・残らなきゃ」
「だ、だからって、あなたでなくてもッ!」
「いいんです、わたし、ロボットだから――」
「・・・ッ!」
「ロボットが死んでも、ホラ、誰も哀しまないじゃないですか・・・」
「そんな! そんなことないッ!」
「でも、人間さんが死ぬより、ずっといいですよ・・・ね?」
「ま、待ってッ! それじゃあ藤田クンはどうするのッ! きっとあなたのこ
と待ってる! あなたが死んだら、彼、イチバンに哀しむよッ!」
「あ、えと・・・」
「ね、戻ろうよ・・・行かなくても、なんとかなるよ・・・だから」
「ダメ、ごめんなさい、わたし・・・やっぱり残ります。ごめんなさい」
「マルチさん! マルチさんッ!!!」

「ねぇご主人様? わたし、偉いロボットですか・・・?」


 米国政府は、事件の一週間後、問題の事件があった海域を封鎖。
 原因は『エクスプローラー07』の、発電機関の故障による放射能汚染であ
ると発表した。
 しかし、後の調査で、米国政府は完全封鎖したハズの海域に、調査部隊を送
り込んでいることが確認されている。
 驚くべき事に、対放射能装備は一切無し。
 その代わり、最新型のキルリアン振動探知機が装備されていたことを、ここ
に明記しておこう。
 さらに――
 信頼できる筋からの情報に寄れば、現在、その封鎖海域には、海底火山が原
因とみられる隆起が、島となって浮かんでいるという。
 また、島の上に建物のようなものが見えたという報告もあり、これが来栖川
の調査していた海底遺跡ではないかとも推測できる。

 なお、封鎖される直前、問題の海域で操業していた、カナダ国籍の漁船の乗
組員との接触を図るも、詳しい証言を聞く事はできなかった。
 奇妙な事に、8人の乗組員のうち6人が地元の精神病院に入院しており、残
る2人も、帰港した翌朝には行方不明となっていたからである。
 特に、入院中の乗組員全員が、完全に証言可能な状態ではなかった。

 地元住民の証言に寄れば、行方不明になった二人は、消える前の晩、うわご
とのように「コトネが、コトネが」と繰り返していたらしい。


「なんてことだ・・・ルルイエが浮上する・・・本物の――」


 事件から3ヵ月後、あるオカルト雑誌に、問題の海域で撮影されたという一枚
の写真が掲載された。
 出所は不明、信憑性はゼロに等しく、ピントもボケている。
 繰り返して言及しよう、信憑性は薄い。


 映っていたのは、魚の顔をした人間だった。


       ――以上、相田響子(二週間前より消息不明)の手記より抜粋。  



 瑞穂の細腕日本書紀
 ―ファントム―



「どぉりゃああッ!!!」
 
 ヒートアップしたリアンカイザーが、紅蓮の炎を引きながら、腕部のロケッ
トモーターに点火ッ!
 加速された両腕キャタピラーが高速回転し、エネルギーカートリッジを、薬
莢よろしくバラ撒きながら、プッシュアップ!
 老人のふくれあがった巨体が、弧を描いてぶっ飛びまス!

「萌えてまスか、マルチさん!」
「はいッ! 萌え萌えです!」
「マルチさんも眼鏡をかけりゃいいのに・・・・・・ねッ!!!」

 ドガッ!

 鋼鉄の蹴りが、マッハで老人を蹴り上げまス。


「あはは、ダメですよぅ〜」
「そうでスね、マルチさんが眼鏡かけたら、リアンも大ピンチでスよ」
「いえいえ、リアンさんにはかないませんよー」
「ご謙遜・・・・・・をッ!!!!」

 ガキィッ!!!

『ろ、ろうじん〜〜〜っ!?』   

 転がる老人。
「えーっと、わたしが眼鏡かけると、こんなかんじですか〜」
 モニター上のマルチさんの顔に、パッと眼鏡が現れます。
 最近のCG技術はスゴイね。
 でも。
「やっぱり丸型レンズが良いですよ、マルチさん」
「そうですかぁ?」

『だいろうじぃぃんッ!』
 
 組み付く老人を、リアンカイザーは強力な斥力場で弾き返します。
 出力が通常のウン十倍の今だからこそ出来る技ですな。
「マルチさん・・・」
「はい・・・」
「いまいち、どうも・・・」
「鬱陶しいですね」
「やりますか」
「はいッ!」

 ここで問う。

 破壊力とはなんぞ?

「三種権限で、データエンドルフィン・ロード!」
「ロード終了しましたッ!」
「解凍開始ッ!」
「解凍終了ッ! 18プロテクト強制解除! AFセイフティ、1番から10
番までをブレイクッ!」
「AFブースター、BBファイバー、イナーシャルキャンセラー、フルパワー!!」
「全工程終了!!」
「現状が国連規定AF条約の第5条に該当! 繰り返す、条約の第5条に、現
状が該当! 200006030、臨時管理責任者は・・・あ、藍原瑞穂ッ!」
「え・・・?」

 藍原瑞穂。

「――承認コードM−1203! 国連所属地球防衛最終兵器、登録番号X−07
正式名称『あかりカイザー』は、現時刻をもって――」
 あー、鬱陶しい。
 あー、疲れる。
 あー、噛まずに言えた。


「ハイパーモードの発動を宣言するッ!」


 破壊力とは――

 リミットブレイクしたBB炉のエネルギー放射。
 過剰反応で強力に帯電した、レーザー・コーティング・アカリ装甲は、その
色を、炎のような赤から、まぶしい金色へとチェンジ!
「座標軸、固定ッ!!!」


 握力(アカリニウム合金製の五指は、最大で50トンの握力) X(かける)


「右腕クロウラー、回転開始ぃぃッ!!」
「回転速度上昇! 100・・・200・・・回転数、最大値へ到達ッ!」


 体重(リアンカイザー:重量630トン) X(かける)


「拳頭灼熱ッ!」
「超ッ!」
「ひっさぁぁぁぁぁっつ!!!」


 スピード(拳頭、最大加速時マッハ3を記録) =(イコール)

   
「すーーーーぱーーーーーーっ!」
「めがとーーーーーーーーんっ!」
「ふぁいやーーーーーーーーっ!」

「「ぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーんちっ!」」


 それが、破壊力ッ!!!!


(老人めッ!!)
 めり込む拳頭ッ!
 灼熱するキャタピラッ!
 ぶよぶよした老人の肉体に、リアンカイザーの拳頭がめり込んでいきます!
「中心部到達しましたッ! リアンさん、老人核です!」
「確保ッ!」
「カイザーーーーッ、ヘヴン!」
 老人核、回収ッ!
「クロウラー、リバースッ!、焼却処理ッ!」

  


 最終敬老福祉術奥義、超若者的、老人殺し火葬地獄ッ!





『だだだッ! だぁぁぁぁーーーーい、ろぉぉぉーーーじぃぃぃぃん・・・!』
 燃え尽きる老人ッ!!!
 その悲鳴は、復讐の達成目前で力尽き、もがき苦しんで死んで行く火星のス
ペースノーツにも似た哀しさをもって、茜色の空へ、そして宇宙へ飛び立って
ゆくのですッ!!!

 リアンカイザー完全無欠の大勝利ッ!!!!!

「いやぁ、老人の干からびきった肉体は良く燃えますねッ!」
「メガトンパンチの焦点温度は最大で二万度ですぅ、大概のものは小ギレイに
燃えちゃいますよー」
「おう、勝利の快感に水をさしまスか、このロボット三等兵は! マルチさん
はアレですか、映画が終わったらエンドロールを最後まで見ずに帰る人ですか
そうなんですかぁっ!?」
「えー、エンドロールは見たって意味ないですよぅ」
「バカなッ! それだからマルチさんは、いつまでたっても牛乳ヒゲなのでス
よ! ときめく魂に緑の髪と耳パッドまで装備しておきながら、後一歩で天下
を取れないのは、その辺の機微を理解できない泣かせ系ギャルの開祖だからな
のでスよ!」
「わ、わかりませ〜ん」
「アレでスか? 人としてオタクとして、ネコミミメイド服で緑髪の『にょ』
とかそんなのがOKか!? いや、そうではないはず! 眼鏡! リアンの魂
は、きっと輝く涙星! もるゆにっともるゆにっともりゅゆにっと、あれ〜!?」
「うぅ、どんどん難解になっていきますぅ〜」
「わからないで結構、理解を拒否するダンディズム! エンドロールはやはり
映画の余韻を楽しむためにあるのですよッ! 余韻! それはつまり魂の喫茶
店! 魂の、喫茶店ッ!」
「はぁ」
「たぁまぁしいぃぃぃのぉぉぉッ! 喫茶店!! テレ●・テン!!」
「・・・」
 うぉぉぉ、萌えて来ましたよぉおおおおおぉぉぉぉっ!


「香奈子ちゃんラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァヴッ!!」


 夕焼けに吼えるリアンカイザー。
 その雄姿に、藤田浩之は――
「なにやってんだ、あいつらは」
 ため息一つ。

「にゃあ、千紗もいるですよぅ〜」   


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 やぁ、間をあけてしまいました。申し訳ない。
 なお、この妙なノリは、あと一回です。
 あと一回。

http://www.interq.or.jp/black/chemical/