瑞穂の細腕反抗期  投稿者:MIO 投稿日:6月28日(水)20時45分
小出由美子(以下、小)「眼鏡は西洋のモノだという偏見があるようですね」
相田響子(以下、相)「え? 違うのですか?」
小「はい、眼鏡はですね・・・実は東洋のものなんですよ」
相「それは知りませんでした」
小「中国の奥地に焚族という――」
相「フン族・・・ですか?」
小「ええ。古来より暗殺を営む一族でしたが、大戦中、疫病が原因で滅びてし
まったんです・・・惜しい事です」
相「その一族が、眼鏡を最初に考案した・・・と、小出さんは考えておいでな
んですね?」
小「はい、彼らが扱う暗殺道具の中に、眼鏡の原型とも言うべき、硝子を磨い
て嵌め込んだものがあります。つまり・・・本来、眼鏡は武器なんですね」
相「興味深いお話なんですが・・・」
小「確かに信じにくい話だとは思います。ですが、これは本当のことなんです」
相「失礼とは思うのですが・・・わたし、にわかには信じられません」
小「ええ、それは当然だと思います。もちろん、相田さんが信じようと信じま
いと、わたしの話が嘘だろうと本当だろうと・・・眼鏡の価値が失われるワケ
ではありませんからね。それに、わたしだってときどき思んですよ? ああ、
なんだか男塾みたいな設定だなって」(笑)
相「男塾ですか」(笑)
 笑いあう二人。
 しばらくして、ようやく笑いが収まる。
相「その・・・フン族でしたか? その一族に関する知識はどちらで?」
小「残念ながら、それはお教えできませんね。本当に残念ですが」(笑)

 ――レディジョイ2000年3月号『侠女探訪』インタビュー記事より抜粋


 まあ、それはそれとして・・・

 瑞穂たちの決戦の場から、少し舞台を移そうと思う。
 時間を半年ほど撒き戻した、東京は銀座の貸しビル『高倉ビルヂング』の四
階、『小出探偵事務所』に・・・

 ホコリっぽい部屋の奥で、部屋の主たる小出由美子は、白板に向っていた。

「――であるからして、太田香奈子が駆使する、古式いざなぎ流っていうのは
高知県は加美群物部村に伝わる民間宗教の一つで、陰陽道を源流に・・・」
 リアンの居眠りに気付いた小出由美子は、
「まったく・・・」
 ため息を吐いて、講義を中断した。
「う〜ん、ムニャムニャ・・・もう食べられないよぅ」
 居眠りの王道を行く寝言に、由美子は嘆息する。
 いっそたたき起こして、実戦訓練に持ち込もうかとも思ったが、それを止め
たのは助手の立川郁美だった。
 可愛らしい顔立ちの少女である。華奢な体を、オタク好きのするメイド服に
包んだ姿は、なにやら浮世離れした雰囲気がある。
「このまま寝かせておいてあげましょうよ、所長」
 繊細な印象をもつ彼女だが、実は密教の流れを汲む邪法、立川流の後継者で
もあった。
 将来的には邪淫な奥義に身を窶す定めだが、今は天真爛漫な少女である。
「郁美ちゃん、そうは言ってもねぇ・・・」
「まぁまぁ・・・」
 郁美は、小盆にのせた香ばしい煎茶を由美子に勧める。
「仕方ないですよ所長。リアンさん、お昼はお兄ちゃんと格闘技の訓練ですか
ら・・・」
 郁美の兄、立川雄蔵は『如来活殺』『九頭竜』と並び称される神技『長瀬流
格闘戦術』の使い手である。
 まこしやかに囁かれる噂を信じるならば、長瀬流は鬼一法眼流の分派とされ、
剣術をベースにした奇妙な格闘技であるという。
 また、長瀬流は歩法を重視する特異な格闘体系を確立しており、使い手の妙
技は”歩ヲ以ッテ刀ヲ折ルコトモ能ウ也トカ”(巷説見聞百選/江戸中期)と
恐れられていたようである。
 立川雄蔵はその恐るべき格闘技の後継者なのであり、リアンは日中、雄蔵か
ら手ほどきを受けていたのだ。
「眠っちゃうの、無理ないと思います」
 由美子は、そうだけどさぁ、と郁美の煎れてくれたお茶を喫する。
「このコを連れてきた智子ちゃん、あ、わたしの昔の弟子なんだけどさ・・・
半年中に仕上げてくれないかって言ってるのよ」
 眼鏡の技とは、一朝一夕で身につくものではない。
 たしかにリアンは、眼鏡では由美子も舌を巻くほどの才能を秘めていた。
 だが、半年という期間はあまりにも短すぎる。
 ハッキリ言って、今のスケジュールでも怪しいものだ。
「それなんですけど・・・どうして半年なんですか? そんなに急ぐ理由って
なんなんでしょうね?」
「え? あ、ああ・・・そうね」
 郁美の無邪気な質問に、由美子は口を濁した
 半年後・・・その理由を、実のところ、由美子は知っている。

 店長五輪大武会

 由美子自身が開催する武闘大会である。
(・・・相変らず小賢しいわね、智子ちゃんも)
 智子は、武闘大会にリアンを出場させるつもりらしい。
 その判断について、由美子は口を出すつもりはなかったし。興味もなかった。
 薄情かもしれないが、由美子が企業間の争いから身を引いてずいぶんになる。
今回の事は、かつての愛弟子に頭を下げられて、無碍に断れなかった・・・そ
れだけだ。
 あの時代に立ち返る気はさらさら無かった。
 だから――
 由美子は、リアンを鍛えるだけ鍛えて、あとは無関心を決め込むつもりだっ
たのだが・・・
 どうやら、それは出来ないのかもしれない。
(太田香奈子が絡んでいるとなると・・・ねぇ)
 
 Leaf三侠星。
 闇に轟くその名前が、初めて公のものとなったのは、企業間のスパイ合戦が
激化の一途をたどった1995年のことである。
 血で地を洗う戦いの果て、闇に咲き闇に散るハズだった三つ華が、光の元に
ひきずりだされたのは、成り行きといえばそうなのかもしれない。
 血染めの女神たちは、戦場で畏怖と憧憬の的であった。
 Leaf三侠星、その名を・・・

 眼鏡不敗、小出由美子
 マッドクック、柏木千鶴
 そして―― 

 死神、太田香奈子

(太田香奈子・・・あの日何があったのか、今もわからない)
 NASA偵察任務を終え、アメリカから戻ってきた彼女は、以前の彼女では
なかった。太田は黙して語らなかったが、彼女の変化は一見してわかるものだ。
 もともとがストイックな女だったが、アメリカから帰ってきてからというも
の、笑うことが無くなった。
 そして――
 アメリカから帰還して以降、小出由美子の太田に関する思い出は、すべて血
の赤で塗りつぶされている。
 彼女は殺した。
 戸惑いも躊躇もない。殺して殺して殺しまくり、死骸に呪詛(スソ)を与え
て六道(ロクドウ:いざなぎ流で言うところの怨霊)へ貶める。
 それは・・・死者を冒涜し、式王子として使役する邪法であった。
 術者は強大無比なチカラを手に入れることになるが、死者は無限にも等しい
苦痛に苦しむ事になる。
 そんなことは門外漢の由美子だって知っていた。
 それは、人間のやることではないハズだ。
 今思えば、由美子が戦いの日々から身を引いた原因の一端は、間違いなく太
田香奈子の凶行が原因しているのだろう。
(彼女がまた動きだしたのなら・・・やはり、店長五輪大武会でなにかあるん
だろう。智子ちゃんも、それを狙ってる。しかし――)
 由美子は、寝こけるリアンを見やる。
(この娘を切り札にしようってのは、酷だと思うけどね・・・)
 今更言っても、栓のない事なのだが。
「所長?」
「そだね・・・今日の講義はここまでにするわ」
「いえ、そうじゃなくて・・・」
「うん?」
「この、所長の机の『探偵』って書いてある三角錐・・・なんとかなりません?」
「なんで? かっこいいのに」


 瑞穂の細腕反抗期 
 ―ファントム―
 
「だぁぁぁぁぁぁいっ! ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! じぃぃぃぃんっ!」
 
「リアンさん、目標は戦隊モノのセオリーを遵守してるようです」
「あー、巨大化した後は知能低下するっていう、あれですね」
「そうです」
「古い芋羊羹なんぞ食うからですな、バレバレですよ」 
「貧乏は嫌ですね」
「そうそう。貧乏で哀れな老人が、国の援助で家に住めるのは、ゲゲゲの鬼太
郎の世界ですよ」
「天邪鬼のお話ですね」
「そうそう」
「天邪鬼といえば、諸星大二郎の天孫降臨ですね」
「おー、あの漫画を読んでいるのですかマルチさん」
「はい、芹香お嬢様の愛読書だったんですよ〜」
「なるほど、納得の行くお話でございまス」  
 
 
「だぁぁぁぁぁぁいっ! ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! じぃぃぃぃんっ!」


 大老人 VS リアンカイザー
 その激闘は、今も続いていたッ!
 激しい、熱量さえ伴うようなにらみ合いッ!
 
 超眼鏡合体リアンカイザー
 削岩戦車”ドリルローダー”、音速バイク”ファイヤーサイクロン”そして、
あんまり関係ないけど、雛山良太が合体して完成する、超ロボットである。
 インベーダーが残した巨大人型生物兵器『ビックマルチ』を、来栖川の科学
者チーム『K・A・L』が分析、改良、改修を重ね、『カイザー兵器』として
完成させた、空前絶後の超戦闘ロボットだ。
 人類の文明の粋ともいえる来栖川の科学力と、インベーダーの技術が合わさ
ったカイザー兵器は、人類が唯一インベーダーに打撃を与える手段であり、最
後の切り札なのであるッ!

 唸るキャタピラが奇跡を起こす! メガトンファイヤーパンチが炸裂か!


 大老人
 かつては純粋な人類であったが、老齢化による特異体質の取得、さらには、
謎の存在”愉快老人七珍種”によって与えられたチカラによって、人類を超越
した、超老人へと変化したのだッ!
 鋼鉄をへし折り、コンクリートを砕くパワー!
 サブミッションによる巨大化!
 
 老人は、若人への憎悪に燃えるッ!

 
 これは聖戦である!
 老人と若者ッ!
 人類の未来を別つ二つのエネルギー!
 そのぶつかり合いなのであるッ!

 世界の終焉をかけた戦いの果てを、割目して見よッ!
  
 
「とか言ってますよ、リアンさん」
「言わせておけば良いのです」
「そりゃそうですけどー・・・」
 まぁ、確かにッ!
 リアンは戦うために合体したのですよッ!
「イマイチ鬱陶しい展開ではありますが――」
 リアンカイザーの力、とくとご覧あれッ!!
「端子を全機展開ッ! 周囲800mをスキャンッ!」
 
 バパパパパパッ!
 
 リアンカイザーは巨大人型兵器、でっかいぶん、いろいろと厄介なのです。
 戦闘直前に周囲の状況を把握する必要があるのでスな。
 背部からファン●ルよろしくすっ飛んでいったのはF・A・Pでスな。周囲
の空間を徹底的にスキャニングして解析するのでスよ。
 キルリアン振動の検地で生命体の分布までわかるので、ヒトに優しい闘いに
は必要不可欠なモノなのでス。
 発展型に量子振動によってゾーンを編成するイカスやつがあるんでスが、サ
イズはでけぇは、コストはかかるで実戦配備はムリムリですな。 
 ソフトのダウンサイジングすらできていないんだから、半年くらい待たなきゃ
だめでしょう。
 登場は番組の中盤くらいですな。
「番組ってなんですか」
「子供は知らなくて良いのですっ!」
 えーっと・・・
「状況確認ッ!」
「生命反応複数、人口密集地ですッ!」
「んなことは見ればわかります! 回避シークエンスを全部まとめてマニュア
ルにシフトッ!」
「でもッ!」
「状況特例A−A2参照ッ! こんな込み合った場所でオートかましたら、ア
シモフ・プロテクトがクラッシュしまス! いーからコントロールッ!」
「りょ、了解ッ!」
 言いながら、リアンも作業をこなしますス。 
 強引な起動のせいで、いろんなところに無理がきてまスからねー。
 側面のパネルをこじあけて、予備スロットにエラー回避の為のスクランブル
ボードをぶち込みます。
「ケーブル邪魔ッ! かたずけといてくださいよう!」
「はわ〜! だって、まだ実戦配備前なんですー!」
「知ってまスけどねッ! いまは実践中ッ! 敵状況は!?」
「あれッ!?」
「なになにっ!?」
「老人の老人力が一箇所に集中を始めましたッ! 場所は・・・目ッ!?」
 光学兵器ッ!?

「老人レーーーーーザーーーーーーッ!!!」

 リアンはフットペダルに右足を叩きつけて、体勢を変えまス。
 緊急回避。
 左側面の大出力スラスターが、2秒の噴射。
 猛烈な横Gがリアンをぶん殴ります。
 うぁ、鼻血でそぅ・・・ってーかっ!?
 避けけきれないっ!?
「やべっ!」
 老人の目が凄まじい閃光を放つと同時に――

 ドッ!!!

 ッ!!!
 っかーっ! 右肩かぁッ!?
「リアンさんッ! 右肩部ドリルに直撃ッ! ダメージは軽微ッ!」
 あぁん!?
「ドリルにダメージッ!? アカリニウム合金にッ!?」
「外装にキズは無いです! でも内部独立駆動系に影響が出たんですぅ!」
「それだって十分とんでもないですよッ! ありゃなんですか!? 米軍の熱
核レーザー砲ですら、あれと比べりゃヌルイでスよッ!?」
「敵の光学兵器の原理は不明! おそらく老人力を収束した特殊な力場で太陽
光線を収束し増幅したものかとッ!」
「って、その原理の光学兵器が、大気圏内であんな威力でスか!? 冗談ッ!」
「そ、そうですけど現実ですッ! 本体に直撃をうけたら・・・」
 本体はレーザー・コーティング・アカリ装甲。
「胴体に直撃を受けりゃ、リアンカイザーは――」
 ぶっ壊れる。
「フレームはともかく、電子装備とパイロットの命はナッシンッグですよぅ!」
 THE END
「わぉ! 最悪っス!」
 乗っているのがあかりさん本人なら、もっと楽チンに勝てるんですが・・・
「はわわわっ!? 老人力感知ッ! 第二波きますッ!」
「ハッハァーーーーーーーーッ!」
 ちゃんちゃらおかしいやッ!
「リアンさん!?」
 同じ技は喰らいませんよグランドファザー!
「端子を一機呼び戻しまスッ! マルチさんOK!?」
「あ・・・ナルホドッ! 001011001101110100ッ!」
 リアンの意図を知ったマルチさんは、展開していた端子を呼び戻し、リアン
カイザーの眼前に停止させました。
「グゥゥゥゥゥッドッ! ベリィベィッ!」
 いけるっス!!
「空間接続端子No.12、トリップバイパス破棄、オーバーロードッ!」
「ナイス手際ぁぁぁぁぁッ!」
 眼前の端子、その周囲の風景がぐにゃりと歪みますッ!
 どろどろやね。
 その瞬間――

「老人レーーーーーザァーーーーーーー!!」

「バーーーカッ!」
 老人の光線が、リアンの眼前で激しくスパーク!
 リアンはAOコーティングされたリアンカイザーの両手で、そのスパークを
挟み込みます。
 端子の巻き起こす空間タービュランスにエネルギーを絡め獲るでス!
 キャッチさ!!
「小出流眼鏡戦闘術、裏奥義ッ!」
 そう、それは、あのニンジャがッ!
 眼鏡を装備していればこその技――



「光線白刃取りぃぃぃぃぃぃッッ!!!!!!!!」



 端子によって歪められた空間が乱気流状態を収束安定させ、掌中で擬似クラ
イン空間(約12光年単位の広がりをもつ閉塞空間)を生成し、老人の光線を
捕縛するのです。
 わはははッ!
 非科学的ィッ! 
 しかしッ!!!

「勝ったもんが科学じゃぁぁぁぁぁぁいッ!」

「だーーーーーーーいろぉーーーーーーーーじぃーーーーーーーーんッ!」
 
 ふはははははッ!
 老人、その長すぎた余生にグッバイ!
「返すぜ・・・」
 奥義成就ッ!

 必殺必至、光線返しッ!

 リアンの掌中にあった端子が限界にきたところで、光線を捕縛していた空間
に穴をあけます。
 もちろん、老人に飛んでゆくようにサ!

 バビーーーーーーーーーー!!

 アンティークなSEとともに老人を穿つ光線ッ!
 そして、
 
 ドーーーン!

 安っぽい大爆発ッ!!!
「ワハハハハハッッ! 老人め、若人に歯向かったのが運のつきでス!」
 勇気、友情、郵パック!!!
 勝利の三文字でブイ!
「リアンさん、まだッ!!!」
 マルチさんの叱咤に、リアンは我に返りました。
「へ? 何?」
「攻撃は回避されたんですぅ! 敵は上空に・・・あぁっ!」
 え? え? え?
 とにかくとにかくとにかくぅぅッ!!!
「かかかか、回避運動ッ!!」
「ダメ、間に合わないッ!」
「バカッ! それならシールドッ!」
「あ、了解――」
 言いかけて、マルチさんが悲鳴をあげました 。
「老人の質量が増大!? ・・・は、八千トン!?」
 なッ! 
 リアンカイザーの耐衝撃限界値の2倍じゃないでスかー!?
「ス、ステッピングフィールド最大展開――」

 その瞬間、とんでもない質量が、リアンカイザーを襲ったのでした。


 つづく〜♪
 
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 ハッタリだらけやな・・・
 
 えーっと、この妙なノリは、あと数話だけです。
 ガンバ

http://www.interq.or.jp/black/chemical/