瑞穂の細腕管楽器 投稿者:MIO 投稿日:6月27日(火)16時18分
 リアンがファイヤーサイクロンにまたがった途端、小型ディスプレイを真っ
赤なエラー表示ウィンドウが埋め尽くした。
 ハンドルを握ったリアンの手からDNAデータ抽出、体重等の(神岸あかり
は改造人間であるため、体重の誤差が年平均+−53gしかない)誤差検出。
 網膜、指紋、声紋の全てが(あたりまえだが)神岸あかりと一致しないため、
ファイヤーサイクロンの自己防衛システムが、僅か半秒のタイムラグで起動す
る。警告、警報、電撃、失敗したならば自爆という、狂気的なシークエンスを
マルチは逐一解除していく。
 じゃじゃ馬のようなソレを強引に押さえこんだマルチは、エラーウィンドウ
を掻き分けて、ディスプレイ上に顔を出した。

「あの、ユーザー識別とか・・・誤魔化すためにダミープログラムを走らせま
す。それから、エラーの消化と――申し訳ありません、ちょっと時間が・・・」
 しょぼくれマルチに、リアンは首を横に振るでス。
「時間はないんでス。10番〜89番までのエラーはスルーしまス。それから緊急
用のコールドウエアを走らせて、ユーザー識別機能は片っ端から凍結」
 かなり強引でスが、マルチが内側からサポートすればたいして難しい作業で
はないはずでス。
「でも、それじゃシステムダウンしかねない――」
「基地のギガントと繋がってんでスよね。パスワード『GARP』で承認コー
ドは『49037』、ヘカトンケイルを黙らせて、機能はあっちに肩代わりさせる
のでスよ。それでかなり時間が稼げまス。ダミーをちんたら走らせるよりはずっ
といい。手数が多くてもこっちが断然に早いでしょう?」
 リアンが言い終わるとほぼ同時に、マルチの計算も終了する。
「ですね、ずいぶん短縮できます。機能も3割落ちるだけだし」
「わかったら、回線に繋ぐッ! あ、回線の迷彩と偽装中継、忘れないように」
「イエス・サーッ!」
 と返事をしたマルチだが、ふと、困惑した表情になりました。
「あの、リアンさん?」
 マルチの口調はのんびりしたもんですが、裏側ではとんでもないスピードで
演算処理が展開されているハズでス。
 リアンは、そのギャップに戸惑いを覚えるのでスよ。
 機械って便利でスねー。
 わたしも、銀河鉄道にのりこんで黒帽子の女と星を巡りませうか?
「リアンさんのDNAデータ・・・なんですけど、これ・・・」
「うん? ああ、それ以上は言わぬが、身のためでスよ」
「・・・でも」
「マルチさんや。あの藤田浩之さんに、本当のことを知られるのは、あなたも
本意ではないはずでス」
「え・・・」
「太平洋で、あなたは死んだんでスよね?」
「・・・」
「コピーだと言うのは、気が引けるのですか? それは、ロボットさんにしか
わからない感傷なのですかね? リアンは、自身をコピーしたことなぞ無いの
ですよ・・・よって、罪悪感などないのです。舌に油をさすだけでいいのでス」
 あるいは、詠美さんなら・・・って、消えた人間をどうこう言っても始まり
ますまい。
「・・・」
 おや、黙ってしまいましたね。
 確かに、少々酷なやりかたではありました。
 申し訳ないことでス。でも今は――
「マルチさんや、状況は?」
「ファイヤーサイクロンの制御、取り戻しました。通常運転可能です」
 うむ、お仕事はつつがなく進んでいましたか。
「お見事、では行くでスよ! 老人を倒すためッ!」
 後輪の摩擦コントロールタイヤが、アスファルトを削って唸りをあげました。 


 坂下好恵。
 彼女は藍原瑞穂のコーチだった。
 産業スパイには必要だからと、格闘技から化粧のしかたまで教えてくれた。
 厳しい女性だったけれど、瑞穂は心から尊敬していた。

 ――その日、彼女は瑞穂に、行け、と吼えた。

 閉じてゆく隔壁の向こうで、空手着の彼女は仁王立ちしていた。
 彼女の背中が、瑞穂に何も言わせなかった。
 既に彼女は、松原葵の崩拳を三発も喰らっている。
 立っているどころか、息をしている事自体が奇跡に等しかった。
 愛用の空手着は、元の色を疑うほど、血にぬれて赤かった。
 彼女は、再び吼えた。

 ――瑞穂、行け!

 松原葵が、量産マルチの群れが、いっせいに坂下に飛びかかる。
 隔壁が閉じた。
 瑞穂が最後に見た坂下は、
 笑っていた。

 

 瑞穂の細腕管楽器
 ―ファントム―
   

 社長室にたどり着いた瑞穂、詠美、柳川の三人が見たものは、
 ボロボロのセリオと来栖川綾香、それに太田香奈子であった。
 綾香が言った言葉、
 太田香奈子が訥々と語った事実、
 そのどれもが、瑞穂の理解できないものだった。
 ただ・・・
 詠美が怒りに顔をゆがめ、柳川が太田香奈子に襲い掛かったことだけは、鮮
明に覚えている。その後に、何が起こったのかも・・・鮮明に。
 太田香奈子が、柳川を一瞥した。ただそれだけで――

 柳川の両脚が千切れ飛んだ。

 その隙をついて、綾香とセリオが脱出を図る。
 来栖川本社のビルを爆破し、太田香奈子を葬るつもりらしかった。
 綾香たちの後を追い、自分も脱出しようとする太田香奈子。
 しかし、
 
 ――っ!?
 ――地獄には付き合ってもらうぞ、太田香奈子!
 ――や、柳川っ!?
 ――鬼がリードしてやるんだ。地獄行きは・・・確定だなぁ


 両脚を失った柳川が、まさしく鬼気迫る表情で、太田香奈子を羽交い絞めに
した。その隙に、綾香とセリオはまんまと脱出を成功させる。

 ――きっさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 太田香奈子が吼える。
 柳川の抵抗は無に等しかった。彼の体は、太田香奈子に触れていた両腕を残
して、一瞬で腐敗した。
 タール色の、悪臭を放つ肉塊となって、柳川が死ぬ。
 断末魔さえ許されぬ、あっけない死・・・そして――
 死神、太田香奈子が振り返る。
 立ちふさがったのは、意外なことに大庭詠美だった。

「あんた、どうかしてるんじゃないのッ!」

 詠美の怒りに満ちた台詞を受けて、太田香奈子は唸った。
「邪魔だ。古い者に、用は、ない」
「あれを――あんなものを動かして、どうなるかわかってんの!?」
「わかっているから、やっている。さぁ、そこをどけ――」
「どかないもんっ! あんたを放逐するわけにはいかないわッ!」

 大庭詠美の胸部装甲が、左右に展開した。
 質量保存の法則を無視した、地上最小にして最強の粒子砲・・・通称ギガス
マッシャーの凶光が最初の炎を灯す。
「あれを――本物の姫川琴音を・・・」

 本物の姫川琴音?

 胸部の、眼球にも似たゼリー状の生体機関に、光が収束する。
「復活させるわけには、いかないッ!」
 詠美が叫ぶ! と同時に、光の奔流が唸りを上げて、空間を白熱させた。
 粒子砲の光が、敵意をもって、太田香奈子へと放たれる。
 だが――
「なッ!?」
 膨大なエネルギー量をもった光の渦は、しかし、太田香奈子に到達すること
はなかった。
 光は、太田香奈子の掌に渦巻く闇に呑まれて消える。
「墜ちたな、グレートワンズ」
 太田の指先が、中空を縦に撫でた。

 瑞穂の目の前で、大庭詠美の体が真っ二つに裂ける。

 大庭詠美は殺された。
 不死身の女、その長すぎる人生の終焉を暗示して、二つに割れた制御金属球
が、血の海に転がる。
 何事も無かったかのように、太田は呪を展開する。
 来栖川本社ビルは、まもなく――内側へ向って爆発する。
 周到なことに、本社周辺は空間的に閉鎖されていた。
 いくら太田香奈子といえど、あと数十秒というタイムリミットでの脱出は、
困難といえた。
 方法は、一つしかなかった。そして・・・
 太田香奈子は、生きるために躊躇をするような女ではなかった。

「ごめんねぇ・・・」

 小さな声が、瑞穂の鼓膜に届いた。
「ごめんねぇ、みずほ・・・ごめんねぇ」
 太田香奈子は泣いていた。
 彼女の手には、いつのまにか小さな赤い肉塊がのっており・・・
 それは、規則正しいリズムで脈動していた。
「跳躍するにはねぇ・・・瑞穂の心臓、生贄に捧げなきゃいけないんだぁ・・・」
 太田香奈子は、泣いていたのだ。
 瑞穂は、もう、どうでもよかった。
「ごめんねぇ・・・」

 藍原瑞穂の心臓が――太田香奈子によって握りつぶされた。

 呪が成就し、太田香奈子の姿が瑞穂の視界から消えた。
 同時に、瑞穂の視界が白く塗りつぶされる。
 崩壊が始まったのだ。
 だが、瑞穂は死ぬ事を恐れなかった。
 太田香奈子は泣いていたのだ。だから、瑞穂はどうでもよかった。
 少し哀しかったけれど。

「香奈子ちゃんLOVE!!!」

 声が出たかどうかはわからなかったが、届いたとは思う。
 思い残す事はなかった。
 だが、そのとき――

 瑞穂は真っ白な視界の中で、何かが動くのをみたような気がした。

 ・・・さん?
 ・・・ンさんってば!
 ちょ・・・リ・・・さん、聞いてますか?

「リアンさん!?」
「・・・なんでスか?」
「ボーッとしないでください〜」
「してませんよ」
 ディスプレイ上のマルチは不可解そうな顔をしまスが、リアンは超無視です。
 マルチは傷ついた表情で、それでも健気にお仕事を続けました。
「目標との距離が、合体成功の最終ラインに到達しました。これ以上接近すれ
ば、合体作業が敵に妨害される恐れがあります・・・っと」
「なんでス?」
「最終ラインをオーバー! 合体成功確率、下がります。現在80%!あ、70%に・・・」
 しかたありませんな、いまいち鬱陶しい展開ではありますが――
 了解でス!
「合体ッ! スーパーファイヤァァァッ、チェーーーーーンジッ!」
「声紋とパスワードを三種権限で認証! カムヒヤ! ファイヤーローダーァァァァッ!!!」
 マルチさんの雄叫びッ!
 そして――
「たらったらー♪ たらったらったらった、たららら〜♪」(CV堀江由衣)
 おいコラ!
「なんでスか、その鼻歌はッ!」
「なにって、もちろんキング●クスカイザーが合体するときに流れる、BGM
に決まってるじゃないですかぁ〜!」
「いらんッ!」
 ってーか、何人のヒトが解るんでスか、それはッ!?
 とにかく――
 次元の壁を叩き砕いて、ドリル装備の巨大なデコトラが出現しましたッ!
 こーなっては仕方ないッ!
「やってやるゼッ!」


 リアンカイザー合体のテーマ『眼鏡合体、リアンカイザー!』
 作詞:MIO
 歌 :遠藤正明
(※印は台詞)

 街に忍び寄る 邪悪な影だ!
 出動 合体 奇跡をみせろ!
 唸るドリルが 閃光(ひかり)になって 人々を救うんだ!
 嗚呼 後悔なんか 今はもうない
 明日に向って 撃ちまくれ

※由宇「今や! 買うんや! 小豆の株をかたっぱしから買うんや!」
※智子「違う! 売るんや! 小豆の株は今が売り時なんやッ!」

 合体完了! 覚悟を決めて 鋼の体で迎え撃て!!
 丸いメガネに ネコミミ添えて オタクのハートを狙い撃つ!!
 最強、眼鏡、青い髪、飛びたて僕らの

 リアンカイザー!!!!



「超眼鏡合体! リ・ア・ンッ! カイッザァァァァァァァァァッ!」

「内圧安定、各部異常なし、システムエラーが13コ、すべて修正可能範囲以内ッ!」
 マルチさんは「状況良し、花マルですッ」と報告します。
 リアンはニヤリ。
「OKマルチさん、細かい事はいいのでス! 最終的に現状はッ!?」
 彼女の震える声が、ひどく嬉しそうに叫びました。


「――が、合体成功ですーッ!」


 人類の英知!
 来栖川の誇る超科学技術の総決算!
 対インベーダー最終決戦人型戦闘車両が、ついに、我らの前に姿をあらわしたのだッ!! 

 ――とか、小林清志ふうに嘯きつつ、次回へッ!! 


 あれ? ポルナレフは? 
 あ、忘れてたーッ!


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あんまりにもあんまりなんで、自分のhpでの展開を考えるっスよ。(涙)

http://www.interq.or.jp/black/chemical/