瑞穂の細腕カツラ剥き(後) 投稿者:MIO 投稿日:6月19日(月)16時18分
 瑞穂の細腕カツラ剥き
 ―ファントム―

 足立は、会長室の扉の前で躊躇している自分に気付いた。
「・・・」
 十代の頃から鶴来屋で働き、時代の移り変わりと会社の成長を見守ってきた。
 鶴来屋は、彼の家も同然であり、知らぬことなど無い。
 だから足立は、扉の向こうの会長室がどんな間取りか十分に知っている。壁
にかけられた絵も、窓からの展望も、絨毯の柄だって知っている。
 そして、その部屋の主である柏木千鶴も知っている。彼女が赤ん坊の頃から
のつきあいなのだ・・・知らぬことのほうが少ない。
 だから、足立は自分に言い聞かせる、この扉の向こうにいるのは自分の良く
知る柏木千鶴なのだと、あのちーちゃんなのだと・・・
 意を決してノック。
 誰何の声に応えると、扉が開いた。
 先ほどまで部屋に満ちていたであろう冷気が、扉の間からこぼれだす。

 暗い部屋に、柏木千鶴がいた――

「か、会長・・・」
 声が上ずる。
 そんな足立に、千鶴は艶然とした笑みを向けた。
「足立さん、頼んでおいた調査、終わったのですね?」
「は、はい」
 一ヶ月前、千鶴は足立に、潜り込んだ来栖川のスパイを割り出すよう命じた。
 来栖川のスパイなど、足立はにわかには信じられなかったものの、入念な調
査の末、それが冗談などではなかったことが知れる。

 来栖川十傑衆『爽やかなる雅史』

 それが、来栖川から放たれた間者の名である。
 爽やかな微笑みと、さりげない気遣いで、いつのまにか周囲に溶け込んでい
た彼は、既にいくつかの重要機密の持ち出しに成功しているもの思われた。
「失態ですね、足立さん」
「はッ・・・も、申し訳ありません」
 千鶴は、結局最後まで冷笑を崩す事は無かったが、足立は生きた心地がしな
かった。
 20分の後、報告を終えた足立が立ち去る。
 千鶴一人かと思われた、暗い会長室に――

「いいのかよ、千鶴姉ぇ」
 いつの間に現れたものか、梓の姿があった。
「いいのか・・・とは?」
「来栖川のスパイを泳がせるって指示さ」
「・・・」
「最近になって来栖川の末端が、妙に活発だ。中央が消滅したってのに、おか
しなハナシだろ? だから、アタシは独自に調べてみたんだけど・・・」
 来栖川グループの中枢である来栖川重工が倒れたのだ、本来ならその末端で
ある各子会社も大打撃を受ける。
 実際、飛ぶ鳥を落とす勢いであった来栖川グループは、急激な衰退ぶりを見
せて、ライバル企業を喜ばせたものだ。本来が、ワンマンの気があったグルー
プである、当然予測されていた結果だった。
「とこがどっこい、散り散りだった来栖川が再び動き出した」
 来栖川の名前自体が忘却の彼方に消えるのも、時間の問題だと思われた矢先
のことである。
 土壇場に来て、散り散りだった来栖川の各子会社が徐々に盛り返し始めた。
「奇妙だもんな。だから、かおりに調査を命じてみた」
「・・・」
 数日後、日吉かおりからもたらされた報告は、驚くべきものであった。
 何者かが、来栖川各末端企業に指示を与えているという。
「何者か――って言うだけ野暮だよな。来栖川を動かせるのは来栖川だけだろ
う。来栖川芹香が太平洋から帰還したってハナシは聞かない。おそらく――」
「来栖川綾香が生きている・・・と?」
「十中八九、間違いない」
 千鶴は、くすくすと、少女のような忍び笑いをもらした。
「千鶴姉ぇ?」 
 訝しむ梓には応えず、
「初音はいる?」
 その声に、暗闇から一人の少女が歩み出る。
 ぐぶぐぶぐぶぐぶぐぶぶ・・・
 全身から黒い布を被った、奇妙な少女だった。
「応、吾主、千鶴大姉」
「ヨークはどうか?」
「七割復元也」
「動くのか」
「否、竜魂魄不覚醒、起動不可。螺旋陰陽炉、起動不可」
「原因は?」
「未見遺伝形質発見、現在調査続行中。推測、裁定者罠。否、緑色種」
「ふふん?」
「強引起動、竜体退行可能性大。或、第四階級退行」
「わかった、ヨークの復元はそのまま続行しなさい」
「吾魂魄、千鶴大姉腕内。謹拝命也」 
 不気味な黒マント、柏木初音は、そのまま闇の奥へと消えた。
「楓ッ」
 千鶴は三女の名を呼ぶ。
 その瞬間、カタリ――と小さな音が鳴った。
 机の上に置かれた、姉妹の白黒写真。
 右端に映っていた楓が――千鶴のことを見上げた。
「何用ですか、千鶴姉さん」
「次はお前だー」
「は?」
「ごめん、なんでもないわ」
「はぁ」
「で――耕一さんの居場所は掴めた?」
 柏木耕一。
 彼女達柏木四姉妹の従兄弟にあたる青年で、鶴来屋のホテルマンとして働い
ていた好青年である。
 その彼が、鶴来屋を出奔したのは、一週間前のことであった。
 楓は逡巡していたが、やがて言い難そうに口を開いた。
「それが、自衛隊に――」
「自衛隊?」
「自衛隊の特殊国防部科学特戦研究室に匿われているわ」
「科特隊か・・・」
 自衛隊特殊国防部科学特戦研究室――俗称を科特隊――といえば、日本がN
ASAの六部衆に対抗するために組織した、一騎当千の戦闘部隊である。
 国防担う彼らは、あらゆる任務遂行を徒手空拳にて行う事を旨とする、いわ
ば超人集団で、特に最近は、旧来栖川十傑衆のメンバーを何人か吸収したとい
う流言も聞く。
 厄介な事態である、そして――

(おもしろくなってきた)

 千鶴は、そうも思うのだ。
 久々に、全力が出せるかもしれない。
 鶴来屋の会長に就任し、組織の長となった千鶴は、自分ではあの戦いの日々
を過去のものとしたつもりであった。
 だが・・・心も体も、忘れてはいなかったのである。
 千鶴はずっと戦いを渇望していた。
 そして今、小出由美子が、太田香奈子が、再び自分の前に立とうとしている。
 それだけではない、

 天才、来栖川綾香。
 焔の女皇帝、神岸あかり。
 最後の歌姫、森川由綺。
 雷帝、牧部なつみ

 未知の才能達と、拳を交えることも出来る!
 そう、それが――

 店長五輪大武会ッ!!!


 瑞穂の細腕カツラ剥き
 ―ファントム―

 えーっと・・・
「誰?」
 リアンの至極当然な問いに、その怪しげな人物は――
「はわわ〜っ!」
 と泣き叫びまス!
 テレビの中でッ!
 そう、その怪しげな不信人物は、なぜか、真っ赤なバイクに装備されたディ
スプレイに写る、電子映像なお人だったのでス。
(うわべり・・・)
 リアンの脳髄に、謎の単語が浮かび上がりましたッ!
「っていうか、誰ですか、そこの映像の国から来た、緑の髪のヒトよっ!」
 映像のヒトは、悲しそうにクビを傾げまス。
「知りませんか?」
 む?
 ちょっと待つでス・・・
 ・・・
 あ・・・

 あぁぁっ!!!

「堀江由衣?」
「ち、違いますよぅ〜! 声は似てるけど、違いますぅー」
「泣くなロボットッ!」
 古き良きSFでは、ロボットの涙は新時代の呼び水であったハズ! なにを
そんなにホイホイと泣くデスか? 涙はもっと大切にするものでス!
 なぜならここは戦場ッ!!
 ある意味、コート!
 コートの中では泣くなロボット!
 それがヒロインの生き様と違うのか! 生き様と違うのかッ!

 生き様と違うのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!

(なぁ、体操・・・)
「あのうぅ」
「なにかッ!? このデク人形めっ! リアンが一人エキサイトするのを邪魔
するのですねッ! あぁ、わかったサ! お前もアレかッ! 母さんとおなじ
かッ! 喰らうか! わたしの指を喰らうかぁっ! 一撃サ! ティは一撃が
信条なのサ! てーいっ!」

 ぽふ

「し、しりませんよぅ〜! わたし、犯罪とは無縁に生きるロボッ子ですぅー」
「犯罪者はみぃんなそう言う! みんな! みんなネ!」
「ちちち、違いますぅ! わたしは犯罪者じゃ――」
 ほ〜う・・・(CV:千葉繁)
 このリアンに嘘ばつくとね?(CV:千葉繁)
 よかよか、よかたい! そぎゃんこつ言うなら、こっちにも奥の手ば出すも
んねぇッ!(しつこいようだが、CV:千葉繁)
「じゃあッ! これはいったいなんねッ!?」
 リアンは、懐にしまっていた新聞の切抜きを広げましたッ!!
 記事の内容に、マルチさんが目を剥きまス!


 メイドロボの食い逃げ事件続発ッ!

 食べられないのに何故――
 開発者の長瀬氏、国外逃亡! 責任逃れか!?
 ユーザーに募る不信感! ゆらぐメイドロボ産業!

 投稿告白コーナー『団地妻の憂鬱』
 

「あっ・・・あぁぁぁッ!?」
「天知る地知る、人が知る・・・お前の嘘を知っているッ! このスベタめ!
声が堀江由衣だからって調子に乗るんじゃないですよッ! リアンの声優は絶
対に千葉繁ッ!! どうだ、犯罪者めッ! この・・・食い逃げロボット!
くやしかったら、うぐぅ、って言ってみな!」
 リアンの猛烈な雑言が、大気を震わせまス!
 画面の中のマルチが、顔を覆って泣き崩れましたッ!
「知らなかったんです! あの頃は、食い逃げが犯罪だなんてッ! 知らなか
ったッ!! ただ、食って逃げる快楽に身を任せて・・・若かったから! 若
かったら、わたし、身を委ねてしまった! それが犯罪なら・・・若さも犯罪
なのですか!?」
「あたりまえだぎん! すがいきんッ! 若人はそれがすなわち犯罪であり冒
涜なのだッ! 若さは過ちの根源なのでス!」
「そんな! わたし・・・知らなかったんですぅっ!!」
「知らなかった? 若かった? そんなコトバで済めば、警察も公安も、hp
潰しが趣味のネットウォーカーも、面倒くさいネチケットも存在しなくて済む
のです! この犯罪の権化! 緑の髪の死刑囚! 特異遺因子保持生物甲種めッ!」
「あぁぁっ! わたしは、わたしはぁぁぁぁぁぁっ!」
 
「なにをやっているのかッ」
 
 バコッ!

「痛いッ!」
 リアンの美しき後頭部に、謎の激痛っ!?
「お告げかしら?」
「んなわけあるかッ!」

 バコッ

「だぁれッ? リアンの後頭部に、なにやら便所スリッパのようなものを叩き
つける、素敵なおひとはッ!? もしかして、スペックさん?」
 リアンは、剃髪の奇怪な白人を想像して、胸をときめかせました!
 嗚呼、振り返ったリアンを、剃髪の白人男性が「奇しくも同じ構えだねぇ、
お嬢ちゃん」とかいって抱きしめてくれるのッ!
 大丈夫よッ! 大丈夫よスペックさん!
 リアン体は男性に触れられた瞬間に位相反転!! 反物質と化したリアンの
肉体は、日本を分断する巨大クレータとなって地軸を揺るがすでしょうッ!
 これぞ敗北!
 正義の敗北なのッ!
 ヤマトのために祈りつづけるリアンは、そろそろ爆裂したい気分なの!
 せーのっ!
「せつなさぁ〜〜っ! さくれーーーーーーーつっ!」

 ゴキッ!!

 ――おばあちゃん? 三年前にヨモツヒラサカを下ったおばあちゃん!?
 ――リアンや、こっちにきてはいけないよ・・・
 ――何故ですか! リアンもそっちへいきますよ!
 ――リアンや、こっちにきてはだめ・・・
 ――なぁに、このリアン、河泳ぎには自信がありますヨ! しばしお待ちを!
 ――だめ・・・リアンや、来てはダメ・・・
 ――いざ! 此岸より彼岸へのスイミングッ!
 ――リアン・・・
 ――彼岸? 彼岸? ひ・が・ん・・・ひがんっ!? 彼岸の世界ですかッ!?

 ――リアン、来るんじゃないよッ!!!!

 ハッ!?
 ・・・ゆ、夢?
 ・・・なにやらノスタルジックな記憶を喚起する、彼岸の幻夢!?
「よぉ、目がさめたか?」
「・・・あなたは誰でスか、目つきの悪い男性のひとよ」
「俺か? 俺はマルチの保護者だ」 
 あ。
「藤田浩之さん?」
「ぇ? な、なんだよ、なんで俺の名前を――」
「あなた、死んだのでは?」
「イキナリに、メラ失礼なことを言うなッ!」
「しかし、わたくしリアン三等兵の記憶がバッチリなら、藤田さんは塩になっ
て死んでしまったと思うのでスがッ!」(瑞穂の細腕倦怠期を参照のこと)
 あ、そうか!
「詠美さんと同じで、不死身とか!?」
 藤田さんは、んなわけねーだろ、と肩をすくめますッ!
 外人くさいその動きは、日本人が自国に対する敬愛を忘れてしまった証拠な
のだと、リアンは思いまス。
 もちろん、リアンは日本を愛していますよッ!
 だってリアンは、日本に輪をかけて愛国心の薄いグエンディーナ出身ですも
のッ!!
「んなことより、どーして見ず知らずの青髪メガネッ娘が、そんなプライベー
トな事まで知ってるんだ? あのとき一緒にいたのは、委員長とあかりと・・・」

「そりゃあ、もちろんリアン的スーパーシークレッツ!」

 ビシィッ!

 見て見て! リアンのシークレッツ・ポーズ!
 脚を交差させ、腰を折り、100度のお辞儀ッ!
 両手は、背後にまわして、天井へ高々と掲げますッ!
 腕はVの字になるよう、軽く広げ、ピンと伸ばした指先は、やや外側へッ!
 全身が『Y』の字になっていれば大完成でス!
 反省のポーズッ! グエンディーナふうに言うと、『トビイカ』のポーズ!
 さぁ、みんなもレッツエンジョイ・プレイッ!
「あのな・・・んなことよりも、アレだろ!」
「まぁ、アレっていうと、つまりアレですか?」
 ぽっ
「何故に頬を赤らめるかッ!」
「大丈夫、今日は大丈夫の日です! 人として快楽を貪っても、なぜだか罪に
は問われない誘惑の日ですからッ! そういうことですからぁッ!」
「ち、違うだろッ! アレってのは―――」
 浩之さんが、はるか後方を指差しました。

「だーーーーいろーーーーーーじぃーーーーーーーんっ!」

 街を破壊し、人々を踏み潰す巨大老人ッ!
「な、なんですかアレはッ!?」
「今まで展開をスッパリ忘れるなッ!」
 やだな、リアンっぽいパーティージョークなのになぁ。
 あーやだやだ、大人はやだなぁ。
「見て見て、藤田さん。リアン得意の照れ照れフェイスですよ? この赤ら顔
によって、オタク1000人がドキンコです。照れッ」
「やかましい! いいから、なんとかしろよッ! 途中までの展開があるんだ
からッ! 進めないといろいろヤバイだろッ」
「ってーかですね、このSSで、途中までの展開云々ってーのは無意味でス」
「それはそうだがッ! やっぱりなんとかしろよ! なんとかッ!」
「えー?」
 そうは言われても、リアンの出来る眼鏡技が、あんな化け物に通用するかど
うかは、怪しさ爆発ですよぅ。
 リアンを、やっちゃいたいからやっちゃうような、昨今の情緒不安定な若人
と一緒にしないでください! プンプン!
「オラ、コイツ貸すからさッ!」
 藤田浩之さんが、例の赤いバイクを指差します。
「バイクですね、マルチさんが映ったディスプレイがマウントされています」
 わお、リアンったらなんて説明上手!
「うむ、これは――」 
「金田のバイクですね。らっせらー」
「違うッ!」
 違うのですか? それはつまんないですねー! ゲラゲラゲラ!
「こいつは、ファイヤーサイクロン」
「ダサッ!」
「いいから聞けよッ! ・・・こいつ、ファイヤーサイクロンは、来栖川の
『AF計画』で生み出された亜音速バイクで――」
「なるほど、このバイクで大老人の向こう脛に突貫、後に自爆、散華せよと――」
「最後まで聞け」
「聞きません! 不退転戦鬼軍団の長として、人の話を聞いたらオシマイです!
はららさまぁッ! うわぁーーーーんっ!」
「勝手にエキサイトしてんじゃねぇ!」
「そーりー・さー」
「・・・ったく! いいか、このバイクはなぁ!」
「ドリルローダーと合体。巨大ロボット、あかりカイザーへと変形・・・」
「へ?」
「はい」
「な、なんで知ってんだ・・・?」
 はい、もっと知っていますよっ!
 リアンはッ!
「設計図をひいたのは雫商事の月島瑠璃子ッ!」
「・・・」
「ウエッヘッヘッ! 『瑞穂の細腕頑丈記』を参考にねっ!」


 ED『めんめんメガネは良いメガネ』
 作詞作曲:?
 歌   :久川綾

 
 そのころのラオウ・・・

「シッルバァァァァァァァァァァ! チャリオッ!」
「ウサーギ、ウサウサウサーーーーギッ!」
「にゃあにゃあ! にゃあぁぁぁぁん!」
「あぶどぅーーーーーるっ! あぶどぅーーーるっ!」 
「うさうさーウサーーーーギ!」
「キャット・シット・ワン! キャット・シット・ワン!」
「シッルバァァァァチャリオッ!」
「にゃーーーーーんッ!」


 翻訳機(快適翻訳ムツゴロウ/ザルソフト)の故障により、ラオウ・・・も
といポルナレフ達の会話を正確にお伝えできません。
 まことに申し訳ありませんでした。

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 なんだかなぁ。
 瑞穂のサクセスストーリーというのは、どこに行ったんだろう? 

http://www.interq.or.jp/black/chemical/