未来からの贈り物 投稿者:MIO 投稿日:6月16日(金)00時33分
 PM01:30 骨董市――

 というわけで・・・
 泣く子も老ける骨董市にやってきた。

 所狭しと並べられた骨董は、その独特の魅力を存分にかもしだしており、あ
たりを特有の雰囲気で包んでいる。
 あたりには、風情漂う一品から、珍奇なことだけが取り得の代物、ガラクタ
一歩手前のものまで、ピンキリで並んでいる。

「――で、どうしてわたしにお金を渡すの?」

 訝しげな顔で首を傾げるのは、スフィー。
 泣く子も笑う魔女ッ子だ。
 今、彼女の手には万札が数枚、握られていた。
「なんでもいいからさ、おまえが『これだッ!』と思った骨董、一つ買ってき
てみろよ」
「え? なに? どうしたの、けんたろ」
 訝しげな顔のスフィーに、俺は続けた。
「金を払って買うとなると、真剣に値踏みしなきゃいけないだろ?」
 のんびり見て回るよりは、よっぽど骨董に詳しくなれる。
 いわば、鑑定眼を養う修行で、俺も親父に金を握らされたもんだ・・・
 俺がそう言うと、スフィーはいっきに闘志を燃やした。
「よーっしッ! けんたろがビックリして腰ぬかすくらいの、すんごい骨董を
見つけてくるからねーっ!」
「おぅ、期待しないで待ってるぜ」 
 スフィーは土煙を上げながら骨董市に駆け込んでいった。
 元気だねぇ。
「・・・」
 あのときの親父も、こんな気持ちで俺を見送ったのだろうか。
 ちなみに、あのとき俺が見つけたのは常滑焼き・・・の贋物だった。
(あれは、かなり悔しかったよな・・・)
 ――とか思い出に浸っているところへ、スフィーが帰ってきた。
 手には、掛け軸のようなものを持っている。

(掛け軸か・・・門外漢なのは否めないが、まったく解らないワケでもないよな)
「どうだった、いいもの手に入ったか?」
 俺の問いに、スフィーはチョキ。
 かなり自信があるらしく、俺の目の前で広げて見せた。
(へぇ?)
 見事な装丁の掛け軸には、立派な書がしたためられている。
「どう、けんたろ!」
 スフィーは胸をはって――


「アーノルド・シュワルツェネッガーの辞世の句だよ〜ッ!」


 ベシッ!!

「い、いったぁ〜〜いッ!?」
「アレはまだ生きとるわいッ!!!」
「え? そうなの?」
「そうなのッ!!!」
 ――と、そこまで言って、俺は気付いた。
 そうか、スフィーは、この世界の人間じゃなかったんだ・・・
 しまった。
 じゃあ、アーノルド・シュワルツェネッガー知らなくても、無理ないん
じゃないか・・・?
 悔いた俺は、慌てて謝ろうと・・・

「でも、アーノルド・シュワルツェネッガーだよ、あのハリウッドスターの」

「知ってて買ったんかいッ!」
「ああーッ!」
「な、なんだよ・・・」
「名前のところ、英語じゃなくてカタカナだッ!」
「最初に気付けよなッ!!!」
「親日家もここまで来ると立派だよね〜」
「アホだ! キサマはアホだッ!!」
「あれ?」
「あ、まだなんかあんのかッ!? 拇印でも押してあったかッ!?」
「印鑑が、山田って名前になってるよー」
「だぁぁぁぁぁぁっ!?」
「誰?」
「知るかぁーーーーーっ!」
「あっ、シュワルツェネッガーって名前、芸名で――」
「本名が山田なワケあるかッ!」
「じゃあ、源氏名」
「なおさらないわいッ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「えっと・・・」
「なんだよ!」
「もしかして・・・贋作なの?」
「っていうか、贋作と呼べるレベルですらないッ!」
「でもさ、辞世の句だよ?」
「彼はまだ生きてるのッ!」
「知ってるよ。でも将来的に死ぬんじゃないの?」
「それを言ったら誰だってそうだろーがッ!」
「じゃあさ、何十年か待てば、きっと価値がでるよね☆」
「何百年待っても出んッ!」
「なんで?」
「本人が書いたんじゃないだろうがッ!」
「そうなの?」
「そうなのッ!」
「じゃ、じゃあ・・・これって、まさか・・・!?」
「やっと気付いたかッ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「――いや、まさかねぇ〜」

「騙されたんだよッ! 騙されたんですッ! 騙されてんじゃねぇよッ!!」

 騙された。
 その単語に、スフィーの肩が大きく震えた。
「わ、わたし・・・騙されたの?」
「え? あ、ああ・・・」
 思えば・・・
 スフィーは、グエンディーナじゃお姫様なんだよな。
 騙されるって、初めての経験だったりするのだろうか? だとしたら、俺は
なんて酷な事をして――


「じゃあ、この『千利休のメキシコ帽』も贋物だって言うの、けんたろっ!」
 


「いっぺん、死ぬけぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」



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 こ、殺さないでください。

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