瑞穂の細腕三学期 投稿者:MIO 投稿日:6月8日(木)01時11分
キャラ紹介
 五月雨製鉄の愉快な職員達。

 リアン  蒼髪の眼鏡っ娘。敬老精神絶無の恐るべき若者。
 スフィー リアンの姉。製鉄に命を懸ける魔女っこ。
 けんたろ 犬。人間としての自我を失いつつある。 
 結花   製鉄所の経理。矢沢栄吉ファン。
 みどり  製鉄所所長。酒飲み美女。
 なつみ  廃材処理。愛読書は『人間失格』
 老人   老人会最強の漢。リアンの非敬老精神に憤慨し、戦いを挑む。

 ゆかいな動物たち

 ラオウ  本当の名はポルナレフだが、現在記憶喪失。
 メーテル ラオウに一途な思いを寄せる黒ウサギ。キャベツ。
 パッキー ベトナム帰還兵。ポルナレフの戦友でメーテルの幼なじみ。
 震電   火星将軍ロボ。ブリキのナイスガイ。
 


「眼鏡とは、すなわち無限である」

      ―――小出由美子著『メガネだって生きいてるんだ』より抜粋。


 まぁ、それはいいとして―――
 五月雨堂が、どうして骨董屋という、なんだかカビ臭い萎びた商売ではなく
て、製鉄所という、男らしく逞しい、ほとばしる汗と熱気に満ち、六機の鉄釜
に1200度の、赤熱し、液化した鉄鋼を満たした、この世に地獄の一端を引きず
り込んだような、正視に耐えない壮絶な商売を営んでいるかは・・・

 社長、高倉みどり女史に起因する。

 高倉みどり・・・彼女の父は、高名な一人馬賊であった。
 彼は特に機械などに精通しており、満州に駐屯していた日本軍から戦車を盗
むなどの派手な活躍で、瞬く間に特一級の賞金首となる。
 拳法や射撃の達人であった彼は、満州軍や結社、多くの馬賊を煙に巻き、生
きながらの伝説と化した・・・だが、さしもの英雄にも最期の刻が訪れる。
 アジトを、かねてより因縁のあった中国の結社『土爪』に囲まれた彼は、壮
絶な打ち合いの末に、その波乱に満ちた生涯を終えたという。
 風聞によるならば、そのときの彼は、たった一人で200もの敵を迎え撃ち――
 実に、敵の3分の1を道連れにしたというのだが・・・

 それは高倉みどり女史が、酒に酔った勢いで話した、ウソ臭い自慢話である。

 製鉄所とは、ちっとも関係ない。
 話を変えよう。
 彼女は以前、骨董茶碗に魅せられた、駆け出しの蒐集家であった。
 んで、茶碗を集めてたら茶器の全てが好きになり、茶釜を購入して南部鉄器
に魅せられ、南部鉄器が好きになり、南部鉄器を集めはじめて、そのうち――

 鉄なら何でも良くなった。

 オタクにも、こういったことは良くある。マルチ萌えとか言っておいて、し
だいに、メイドでロボットなら何でも良くなり、メイド萌え〜とか言うのであ
る。彼らに罪はないし、はっきりいって――

 関係のある話題でもない。


 とにかく・・・だ。  

 磁石をビニール袋にいれて、それを引きずりながら砂場を歩いたか?
 手が白くなるのもかまわず、薄汚いガードレールをなでまわすか?
 フランス料理よりも、料理の横のナイフやフォークが気になるか?

 以上の質問に『○』を三つも書いてしまった高倉みどり女史・・・ 
 結局、彼女は製鉄所をつくってしまったのであった。
 しかも―――

 五月雨堂の(正確には、五月雨堂を中心とした)土地を使って・・・である。

 彼女が土地の権利書を奪うために、どんなに卑劣な、かつ淫靡な手段を用い
たかは、各人が、夜寝る前に床の中で想像していただきたい。
 夏、店のすべてを任されていた、まだ歳若いあの青年を、魔女、高倉みどり
がいかにして篭絡したかは、各人が、その豊かすぎる想像力にモノを言わせて、
思うがままにビジュアル化していただきたい。
 ここで語るべきことは、もはや、なにもないのだ。
 貴方達が想像した、
 艶然と微笑む、高倉みどり女史の、成熟した色香。
 微笑と、囁きかける声と、吹きかけられた吐息。
 五感を満たす、その甘露な誘引。
 そう、それだ。
 たぶん・・・それが正解のはずだ。

 花びらが散り、月が昇り、疲弊しきった健太郎が、邯鄲から目覚めた朝。
 土地の権利書は、みどりの胸に抱かれていた。


 瑞穂の細腕番外地
 ―ファントム―


 二階の事務所から身をのりだしたみどりは、一升瓶の中身を一度あおってから、
階下で、大きな廃材をかついでいる少女に声をかけた。
「なッつみちゃ〜ぁん」
 酩酊しきったみどりの声は、ふにゃふにゃと風にのり、ひどく時間をかけて
から少女・・・牧部なつみの鼓膜に届く。
 呼ばれたなつみは、胡乱な動作で二階を見上げた。
「なんスか・・・社長」
 なつみは、眠そうな顔で問う。
 彼女はいつも眠そうな顔だ。
 就職試験に片っ端から落ちて、挙句の果てに製鉄所に就職してしまっても、
やっぱり彼女は眠そうだった。
「社長・・・?」
 なつみの眠そうな問いに、みどりはベロンベロンになって応える
「うぃ」
「うぃ・・・って、なんスか?」
「う〜? うん、うへへ・・・9*9の六番、廃材になぁい?」
 ふにゃりと窓枠にもたれるみどり。
 今にも落ちてしまいそうだが、「あんなにふにゃふにゃなら怪我なんてしな
いだろう」と、なつみは半ば本気で思った。
「六番材・・・足りないんスか?」
「指示書の修正版がぁ、スフィーちゃんとこに届いてなくてサァ〜・・・」
 ガポッと一升瓶をあおる。
「鋼板が十枚、出ないのよぅ〜、ウエヘッヘッヘ・・・」
「十枚スか?」
 廃材から、混じり無しの六番出すのなら、鋼板十枚分は少し多い。
 もう五年も廃材処理で飯を食べているなつみは、素早く計算してから、首を
かしげた。
「所長・・・廃材からだと、ギリギリじゃないスか?」
「うひひ・・・十枚程度だったら、なんとか出るでしょォ? 工事用のヤツだ
からぁ、実際の精度はなくてオッケーなのネ〜・・・ぃひ、ってワケで廃材ぃ〜」
(そんな事だから、手抜き工事だなんだと、業者が責められるんだ・・・)
 という考えはおくびにもださず、なつみは忠実に頷いた。
「わかりました。それで・・・実際に、どれくらい必要なんスか?」
「ぅぃ? う〜〜・・・リフトに一杯あれば足りるンじゃないノ?」
「わかったっス」
 なつみは適当な返事をすると、酔っ払いを放って廃材置き場へと足を向けた。
 それは・・・
 その光景は・・・
 
 いつもの五月雨製鉄である。

 某骨董屋経営魔女ッ娘ゲームのプレイヤーなら若干の違和感を覚えるかもし
れないが、それは過去の話だ。
 骨董屋である五月雨堂は、永遠にこの地上から失われてしまった。
 過去にしがみつくのは、もうやめたまえ。
 みっともないぞ。
 ここにはもう、五月雨製鉄しかないのだ。そして・・・
 五月雨製鉄では、それが、それこそが、いつもの光景なのである。
 だが、その敷地の外では・・・

「老人っ! カーロスリベラはベネズエラ出身でス! 東北出身ではないでス!」
「いいやっ! あの顔立ちは、東北以外にありえねぇっ!」
「何を言う! ベネズエラでギアナ高地の空気と、河イルカとの戯れを経験せ
ねば、あんなコッテリした顔立ちにはならないんでス!」
「んじゃなにか、メガネの娘よ! フジキやヤマネがベネズエラ体験すれば、
顔がコッテリするってか!?」
「そりゃぁ、さくら○もこの画力の問題なのでス!」
「ほう! じゃぁアレか! さく○ももこがベネズエラに住めば、浦○太郎み
たいな絵になるんか!?」
「その可能性は、否定できないナァ」
「アホじゃ! 若者はこれじゃからッ! カーロスは、間違いなく東北出身な
のじゃ! あの眼差しは、青森のリンゴを食った者にしか備わらんのじゃ!」
「なぜに東北でスか! 猿に鈴でもつけましたか!」

 そんなかんじの、熾烈な戦いが繰り広げられていたのであるッ!

「東北じゃ、東北なんじゃ、東北がいいんじゃ!」
「お前はそこで乾いてゆけ!」
「もぉ干からびとるんじゃ! 見れ! 老人の肉体をっ!」
 老人は、分厚いタンゼンを、自らの体から毟り取り、その瑞々しさが欠落し
た、ナナフシのような肉体を、うら若きリアンの前にさらけだしたのでス!
 その肉体わっ!

「さるらーま!」

 まさにハムナプトラ!
 木乃伊の如く、水分を排除しきった肉体は、老人が悩ましげに体をゆすると、

 カサカサッ! カサカサッ!

 面妖なリズムで、地獄のフルート音楽を奏でまス!
「老人が乾いているーッ!!!」
 リアンの悲鳴に、老人は愉快そうに顔をゆがめまス。
「みたか! これが老人力! 定説さえも現実にする、ブラックすぎるジョー
クじゃよ! ジョーブラックにはよろしく言っとけ、不敬な若人よッ!」
 
 カサカサカサッ!

「らいあんきるまーくど!」
 なんという干からび具合!
 梅雨の日、急に晴れたりすると、あんなかんじのカエルが道路に張り付いて
いまスが・・・
 まさに脅威!
 仁王立ちする老人は、ほのかな風に揺れる、立ち腐れたセイタカアワダチソウ
の風格を備えていたのです!!
 
 肉体美を超えた肉体美!!
 ひきしぼられたダイアモンドッ!!
 美しすぎるダイ・アモンッ!! 
 
「リアン、大興奮!!」

「じゃろう!」
「・・・」
「・・・」
「んなワケあるかーーーーーーーーっ!」
 リアンに流れる緑の血液が脈打ちます!
 
 『ワハハハ、緑の猿は世界を滅ぼすのだよ、わかったかズボラな本屋めッ!』

 あれは・・・師匠の声ッ!!?
 ピキューンッ!
 リアンの体内で、緑の石が輝きます!!


 ――そのころ、都内某所では・・・

「あーっ・・・すっかり貧乏生活にも慣れたわねー、セリオ〜」
「そうですね、綾香お嬢様」
「最近ねぇ、このうっすーいカルピスも、美味しいって思えるのよ〜」
「そうですね、綾香お嬢様」
「雛山さんにレクチャーされた、アウトドアテクニックがなかったら、今ごろどう
なってたことやら・・・雛山さんに感謝だわ」
「そうですね、綾香お――」
「?」
「お嬢様、半径200メートル以内に、メガネ反応です。パターンG」
「・・・」

 ござを巻きつけただけ・・・というラフなスタイルの、綾香は・・・

「始まるわね」
 ニヤリと笑った。


 ――んで、五月雨製鉄。

 リアンの拳の先端で形成されたショックコーンが、あたりの砂利をぶっ飛ば
し、粉塵を巻き上げる。
 老人は見た。
 土煙を引き裂いて、メガネっ娘が拳を突き上げるのを!!

 リアンパンチ!

「サモハン!」
 老人の悲鳴ッ!
 常人ならば絶命して然りッ!
 しかし、リアンはなおも攻撃を放ちまス!

 リアンキック!

「キンポーーーーーーーーーッ!!」
 めり込んだ脚を枯れた細身から、ズボッ! と引き抜き、半歩後退!
 そしてッ!
 万感の思いを込めて! 今必殺のぉぉぉぉっ!!
 リアン体当たり!!! 

「じょんうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅーッ!」

 体当たりが決まった瞬間、リアンのX線メガネは、その魔法的超機能を発揮
し、老人の背骨が砕けるのを目撃しました。
 Xray-バイオレンス!!!

「り・・・りんちぇぃ・・・」

 老人死すべし。
 若人の微笑みの中に、小さな涙の一滴と変わって、刹那の星となれ!
 それぞまことの、漢的死にざまぞ!

 終劇

 ――とか思った、そのときっ!!!
「がぁっ!」
「蘇る老人!?」

 カサカサカサッ!
 
「こんなところで若者なんぞに挫けては、愉快老人七珍種にもうしわけがた
たんわぁっ!」
「ゆかいろうじんななちんしゅ!?」
 このおかしな老人を上回る老人が、他にもいるというのでスか!?
 『若人殺し老人地獄』
 あんまりよくわかんないんですが、そんな単語がリアンの大脳新皮質に浮か
びました!
 ぶるる、おっそろし〜ッ!
 そのときです! 先ほどからボンヤリと「にゃあにゃあ、千紗はお兄さんが
大好きですよ、焔も大好きですよ、だから千紗は、幸せなんですよ」とか呟い
ていた黄色い仔猫が、ぴょこんと跳ね起きたんでス!

「まさか! あの七珍種が日本へ!?」

 にゃあにゃあ仔猫の千紗ちぃが、電波ヒゲから怖い怖い電波をとばしまス!
 怖い怖い!
 ほむら、怖い!
「なんでスか!? 愉快老人七珍種とは!?」
「にゃぁ! 怖い怖い! しんでん! 震電! にゃあにゃあっ!」
「いいから応えろ、このチビ猫ーーーっ!!!」
「ほむらー!」
 とそのときなのでス!
 驚くべき事がおきたんでスな! それはロードランナーの到来でも、加速剤
をまとめてブチ込んだ日光月光でも、ましてや、それに乗ったドルゴンでもな
く! 自殺体でも、EMPバラージでも、D+でも、怒り狂ったルノア教官で
もなくッ!
 死を超える眠りより復活した、秘密の触手ですらなく!! 虹のあぶくでも
這い回る混沌でもなく!
 ドン・ゴロでも虎王でもドアクダーでもなく!
 ヒロポンの切れた印南でも、染み渡るビールの誘惑でもなくッ!
 トルメキア軍でも、王蟲の群れでもなくッ!
 同人作家に襲い掛かる、勘違いしたオタク野郎でもなかったのです!!!
 それよりも恐ろしいなにか!
 彗星帝国的におそろしい、突発的な危険!!!
「やまとはしぬなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


「老人力! 三十八の関節技の一つ、巨大化ッ!!!」


「なんでスか!? 巨大化ですか!? え!? マジですか!?」
 事実は、シベリアンブリザードにも似て辛辣でした。
 極限まで高められたサブミッションは、人体の巨大化を実現したのです!
 本当です。
 関節技を知るものは、巨大化を制す!
 カメハメもまた、山の如し!
 格闘ファンに喧嘩売ってんのか! コラ!
 それはともかく―――


「大老人!!!」 


「だいろうじん!」
 なんてコトでスか!
 リアンはスパークレンスどころか、幽波モンも、持ち霊も無いのでスよ!
 碁も打てないし、食べればフォルテの、悪魔の実だって無いのです!
 英霊やどりし外骨格も、ミミナガ族の守護神も存在しないのです!
 財布の中身はベルマーク!
「うぬぬ!」
 まったくの徒手空拳!!
 リアンのメガネ技は、全長80メートル体重8トンの老人には通用しないのでス!
 北斗の歴史はここで終わるのかぁーーーっ!?
 しかしながらッ!

 神はリアンを見捨てていなかったのでス・・・

「はわわ〜! おっきいお爺さんですねー!!」


 あの女、ついに登場―――ってカンジで、次回へつづく!!



 んで、そのころのポルナ・・・違った、ラオウ。

 ――帰って頂戴、パッキー!

 メーテルの様子がおかしいことには、パッキーも気付いていた。
 最初、それは微笑ましい変化だったようにも思う。
(どこで間違っちまったんだ)
 追い出されたパッキーは、工場のそばの公園で、ベンチに腰掛けてタバコに
火をつけた。久々に吸うソレは、なんだか妙な味がする。
 メーテルの涙で、妙な具合にしけっているのかもしれない。
(我ながら、ロマンチストが板についてるね・・・)
 苦笑する。
 戦争しかしらないウサギに、ロマンもないだろう。
 パッキーは、ひとしきり笑ったあと、考えをまとめにかかる。
 鑑みるに・・・
(俺が、ポルナレフを見つけちまったから・・・か)
 結果から言えば、パッキーを見ても、ポルナレフは過去を思い出せなかった。
 だが、なにかの足がかりにはなったかもしれない。
 メーテルはそれを恐れているのだろう、とパッキーは思う。
 生まれついての戦争屋で、戦う事しか知らなかったパッキーには、色恋沙汰
は荷が勝ち過ぎる。だが、だからといって無視するわけにもいかなかった。
 パッキーは、珍しく弱気な顔で後頭部を掻く。
「ったく、ポルナレフもつくづく女運のねぇヤローだナァ」
 メーテルの想いは、朴念仁のパッキーにもわかりすぎるほどわかった。
 そして彼女は、ポルナレフの記憶が戻る事と、彼が去ることとを、まったく
同義だと信じている。
 そしてそれは――パッキーが知る限り――間違いではない。
 ポルナレフには、記憶を失う前に、愛していた女がいる。
 メーテルには酷なハナシだが、彼女の淡い恋情は、決して成就することはな
いだろう・・・
(も・ん・だ・い・は・・・)
 記憶を失ったポルナレフ・・・いや、ラオウが、メーテルのことを気にかけ
ている節があるってことだ・・・
 考えにつまって、パッキーは頭をかきむしった。
 苦手なのだ。
 戦争のこと以外は、ちっとも頭が働かない。
「しゃーねぇな。この手のハナシは、カネギンのおっさんにでもまかせるか」
 パッキーは腰をあげた。
 とにかく、ポルナレフがいなければ話にならないのは事実だ。
 ヤツには、たとえ嫌でも参加してもらわなければならない。
 三ヶ月後に行われる――

  
 店長五輪大武会にッ!


 そして・・・
 伝説の闘技大会『店長五輪大武会』への招待状は、
 泥酔して寝こける高倉みどりの、デスクの上にも存在した。

「ちーーーーーーんッ!」

 結花がそれで鼻をかんだ。

http://www.interq.or.jp/black/chemical/