マルチは自転車に乗れない。 いくら練習してもダメだった。 だから、浩之はビックリした。 ちりり〜ん♪ 向こうから来るのは、マルチその人であり、そのマルチが乗っているのは、間違 いなく自転車だった。 「おわ」マルチめ、自転車乗ってやがる。 しかも、軽快にベルなんかならしているゾ。 ちりり〜ん♪ マルチは、自転車を浩之の目の前で止めると、「うんしょ」とおりてペコリとお辞儀 した。 「浩之さんコンニチワ! 今日はとってもいい天気ですね」 「そうだな」自転車に乗れるマルチよ。 「天気の良い日は、キモチイイです」 「それよりマルチ、おまえ、自転車に乗れるようになったのか」おめでとう。 「え?」 「ん?」 「やだなぁ、浩之さん。違いますよー」 「ん? だから、なにが違うんだ?」 「これ、自転車じゃないですよ」 「自転車じゃない?」 「はい、これは―――」 マルチは、自慢気に自転車(にしか見えない)を撫でて、こう言った。 「これは、タイヤ付き、エアロバイクですー」 「・・・」 「・・・」 「・・・そうか、タイヤ付きエアロバイクか・・・」 「はい! あ、それじゃ、浩之さん。また明日ですー」 ちりり〜ん♪ マルチは去っていった。 俺は考える。 すごく、すごく、とても、とても、考える。 翌日・・・ 「同じじゃボケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」 バスンッ!! 「べむらぁっ!!??」 -------------------------------------------------------------------- いかん、気づいたらシリーズ化してるじゃないか・・・ ってワケで、これで終わり。 最終回。http://www.interq.or.jp/black/chemical/