綾香に頼まれて、来栖川の新製品のモニターになった。

『電動つまようじ』

　一見してごく普通のつまようじだが、来栖川が新開発した超極小モーターにより、
ヤスリ状になった先端が高速回転する。
　歯に挟まったゴミどころか、タバコで黄色くなった歯のヤニまで落とすスグレもの
だ。
　俺はタバコを吸わないがな。

　使うチャンスは、スグにきた。
　マルチがやたら筋っぽい料理を俺に食わせたせいで、歯の間という間に、なにか
つまっている。
　泣き喚いて謝るマルチをよそに、俺はさっそく『電動つまようじ』を使うことに
した。
　妻はないのに、妻用事とはこれいかに・・・

　うぃーーーーーん。

　おぅ、しっかり回っておるわ。
　極限まで普通のつまようじに似せた製作者の意図は、イマイチ理解不可能だが、こ
のテクノロジーだけは賞賛にあたいするゼ。
　では・・・

　チョイーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ！！！

　うっ・・・

　チュイ、チュイ、チュ、チュ、チュキィュィィィィィィィィィィィィンっ！

　ぬ・・・

　ィィィィィィンッ！　ィィィィィィィィィィィィィンッ！　ィンッ！　ィィンッ！

　ぐ・・・

　チュイーーーンッ！　ガリッ！　ザリザリザリザリザリザリザリッ！！！

　・・・
「アホかっ！！！！」

　俺は絶叫して『電動つまようじ』をへし折ると、床に叩きつけた。

「なんで我が家で歯医者体験せにゃならんっ！　ってーか、危ないわっ！！！」

　歯茎けずったらどーすんだ、歯茎っ！！

　はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
「・・・」
　よく考えたら・・・
　使う前に気付きそうなもんだよな。
　馬鹿か俺は。
　くそぅ、なんでこんなもんのモニターになんかなったんだ・・・？
　気付けよな、あんなことになるって！
　・・・
「あ・・・そうか」
　そうだ。
　俺が、こんな馬鹿なもんのモニターになったのは・・・

　―――ねぇ浩之？　新製品のモニターになってくれない？
　―――いいけど・・・なんのモニターだよ？　
　―――つまようじよ
　―――はぁ？　つまようじ？
　
　綾香は、俺につまようじを手渡しながら言ったのだ。

　―――いちど、わたしが使っちゃったんだけど・・・

　そうだ、俺がこんなに馬鹿なことをしたのは・・・

「これが・・・綾香の・・・使用済みだからか・・・」


　・・・
　俺はへし折れたつまようじを拾うと、もう一度口に含み・・・


　Ｑ1：使用感は？
　（たいへん悪い）　（悪い）　（普通）　（良い）　（たいへん良い）


　黙って『たいへん良い』に○をつけた。　

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