春うらら・・・ 投稿者:MIO 投稿日:4月16日(日)01時59分
 うららかな午後・・・

 日差しはとっても暖かくて、ときどき強く吹きすさぶ風さえも、どこか心地よいです。

 舞い散るサクラの花びらは、淡いピンク色の雪のようにも見えます。

 そしてマルチは・・・

 小さくて、華奢で、ドジで、ロボットで、

 でも、優しくて、強くて、頑張り屋の、

 サクラの葉にも似て、きれいな緑色の髪をした、

 世界一頑張るメイドロボットのマルチは、

 今日もお掃除をしています。

「るるるりら〜・・・・るりらるるりら、るるるりら〜♪」

 とっても、ご機嫌です。
 天気がいいからです。
 そんなホンワカムードのマルチを、遠くから呼ぶ声がしました。

「おお〜い! まるちぃ〜っ!!」

 マルチはその声に振り向きます。
 また隠れられては困るので、急いで振り向きました。
 だって、マルチを呼ぶその人は、マルチに意地悪をします。
 隠れるのです。
 マルチを呼んだあと、サッと隠れます。
 マルチは振り向くのに、その人は見えないのです。
 哀しくて、寂しいです。
 マルチはその人がとっても好きなので、その人が隠れていなくなると、とっても哀しい気
持ちになります。
 このあいだなんか、思わず泣いてしまいました。
 その人の名前は、ふじたひろゆき。
 ちょっとだけ意地悪。
 でも、優しくて、大きくて、かっこよくて、とってもステキな人です。
 ひそかに、マルチのご主人様候補でした。
 浩之さんがわたしのご主人様だったらいいナ。
 それは、マルチの心の中だけの、秘密のお願いです。
 セリオにも言ってないのだから、とっても秘密です。
 マルチは、浩之がご主人様だったらなぁ・・・と想像して、一人で赤くなったり、笑ったりする
のが、毎日の日課でした。
 (マルチには秘密ですが、セリオは、マルチが浩之好きなのを知っていました)

「浩之さん!」

 よかった!
 浩之さんは、マルチが振り返ったとき、ちゃんとそこにいました。
 本当によかった。
 浩之さんがいなかったら、マルチはきっと、また泣いてしまったでしょう。
 
「よぉ、マルチ! また掃除してんのか?」

「はい! わたし、お掃除、好きですから」

 本当に好きですから。
 好きですから。
 大好きですから。
 大好きなんです。
 とってもとっても・・・ほんとうに、大好きです・・・
 浩之さん

「ふうん」

 そっけない浩之さん。
 マルチは、自分がいかに掃除が好きか伝えたかったのに、そこでお話しは終わりのようでした。
 ロボット的にちょっと残念です。

「それよりマルチ、聞いてくれよ」

「はい?」

 浩之さんのお話しを、マルチはとっても好きでした。
 彼はいっつも、マルチに面白いお話しをしてくれます。
 このあいだなんか、佐藤雅史さんという方が、サワヤカに蛇を捕まえてブンブン振り回すオハナシ
をしてくれました。
 雅史さんという方は、蛇を捕まえても、ドブにはまっても、先生を「お母さん」と呼んでしまって
も、サワヤカなのだそうです。
 サワヤカ万歳。
 マルチは、おなかがよじれそう。
 あっはっは

「俺は、新たなる必殺技を考えた」

「ひっさつわざ?」

 必殺技。
 必ず殺す技。
 怖いけれど、浩之さんが言うと、とってもカッコイイなぁ〜・・・とマルチは思います。
 あ、でも、
(セリオさんが言ってもカッコイイかしら)

「必殺技はカッコイイですね、浩之さん」

 マルチはにっこり。

「ああ」
 
 浩之さんは、鷹揚に頷きます。
 そして、必殺技の事をマルチに教えてくれました。

「『砕け炎の ドリル・デコピン』と『今だ友情 マシンガン・デコピン』だ」

 すごい!
 とマルチは感心しました。
 デコピンは、マルチが知っているなかでも、イチバンに『痛いこと』です。
 それなのに、そのデコピンが『ドリル』と『マシンガン』にぱわーあっぷしています!
 はわわわわ〜
 これは、スゴく痛いぞー

「すごいですねぇ〜」

 すごいすごい。

「で、マルチは、どっちを喰らいたい?」


「はぇ?」

 え? え? え? え? え? え? え? え? え? え?

「だからさぁ・・・ドリルとマシンガン、どっちがいいんだよ」

 え〜っと・・・

「わ・・・わたしが喰らうんですか!?」

「お前は試射だ。お前が終了次第、あかり、雅史、志保の順だ」

 浩之さんは、冷淡に言い放ちます。
 これでは、どっちがロボットかわかったものではありません。

「ど、どりるというのは・・・」

 気になっていたマルチは、恐る恐る、浩之さんに尋ねます。
 浩之さんは、待ってましたとばかりに、得意げに話し始めました。

「かつて先輩を困らせた『ぐりぐり』を、デコピンに合わせたものだ。ヒットすれば、回転する指先が
頭蓋骨を貫通する」

 マルチは、浩之さんがレンガに指を押し付けて、穴をあける様を見たことがありました。

「方やマシンガンの方は、一秒間に20発のデコピンを連続発射する。一発の威力は弱いが、連続して当
てることにより、頭蓋骨を粉々に粉砕する」

 浩之さんが、テレビゲームで一秒間に20連射を可能にしたというのは、学校ではもっぱらの噂でした。
 浩之さんは、「運良く生き延びても、まず再起不能は免れないな」と言って、ゲラゲラ笑いました。

「あ、あのぅ・・・わ、わたしは・・・」

 いやです。どっちもいやです。
 痛いのは、嫌いで、怖いです。
 でも、浩之さんだけは、とぉっても楽しそう。

「なにも、今すぐにとは言わん」

「いえ、先延ばしにすればいいという問題では〜・・・」

「ゆっくり考えてくれ」

「あ、あのぅ、ゆっくり考えても、やっぱり、わたしぃ〜・・・」

「じゃ、明日な、まるち!」

 あ、あぁ・・・
 浩之さんのご帰宅です。

「さようなら」

 マルチは、律儀です。
 ですから――



「また明日」



 会いたくないのに、そう言うのでした。

「おうっ! まるち、また明日な〜っ!!」

 会いたくないのに・・・


「あ!」


 マルチは、唐突に思いました!
 浩之さんに会えないというのは、それはそれで嫌かもしれません。
 明日も浩之さんに会いたいな。
「ふふふっ・・・るるるるりらりら、るるるりら〜♪」

 結局マルチは能天気です。
 そのお天気な脳みそに、浩之の必殺技が炸裂したのは・・・


 三日後のことでした。

http://www.interq.or.jp/black/chemical/