そんなマルチにゃ裏がある  投稿者:MIO


 俺は、財布から一万円を取り出すと・・・
「ホレ」
 と、マルチに渡した。
「?」
 ビックリした顔で、俺を覗き込むマルチ。
 俺は、なんとなく目をそらして、言う。
「なんつーかさ・・・普段からお前にゃ、世話になってるし―――」
 そこまで言えば、流石のマルチも勘働くのだろう。
 ぶんぶかぶんぶか頭を振って、一万円札を俺に押し返した。
「ダッ! ダダダダダッ! ダ―――」
 そこで一息ついて、
「ダメですよぅ!」
 何故か半泣きで叫ぶ。
 うわ、鼻水が・・・
「と、とにかく! いいから、受け取れって」
「ダメです! こんな・・・一万円あったら、お家が一つ買えるじゃないですかぁ
ー!」
「逆立ちしたって買えねぇよ」
 何時の時代の人だ。
「でも―――」
「普段世話にもなってるし。まぁ、色気がねぇのは悪いと思うが・・・労う意味も
含めてだな」
「そ、そんな」
「服の一着でも買って来いよ。お前が選んだ、お前の服・・・まぁ、その・・・な
んだ? その・・・見てみたいっつーか」
「・・・ご主人様」

 と、このような経緯があって、俺は家で留守番している。
 本当はついて行ってさ、デート臭いことをしても、良かったんだけどな・・・
「・・・我ながら、思いつくことが稚拙だぜ・・・」
 俺は、家の廊下をヒーヒー言いながら雑巾がけしていた。
「ったく、なんでこんな無駄に広いんだよっ!」
 廊下だけじゃない、家中全部ピカピカだ。
「マルチ・・・驚くだろうなぁ」
 また、わたわた慌てるかもしれない・・・
『はわわっ! わ、私がやりますからーっ!』とか言ってな。
 まぁ・・でも、せめて、コレくらいはしないと、俺の気が済まない。
 こうでもしないと、あいつぁ、休もうとしないからな。
 それに―――
 俺たちゃ、対等であるべきなんだと・・・最近つくづく思うしさ。
  
 掃除も終り、火傷しながら作ったシチュー(思わず二人分作ってしまった)が
完成に近づいた頃。

「ただいま帰りましたぁ〜」

 マルチが帰ってきた。
 彼女はまず、掃除の行き届いた部屋に驚き、わたわた慌てて、台所をみてフラフ
ラとソファに崩れ落ち・・・
 イキナリ泣き出した。
「ど、どうしたんだよっ!?」
「うぅ・・・だだっで・・・これはもぉ、私に仕事をするなという意思表示にしか
思えませんー」
 だぁだぁと泣く。
 慌てたのはこっちだ。
 俺はしどろもどろで事情を説明した、俺はいっつも家事で忙しいマルチに、休んで
欲しかっただけなのだ。
「ほんとーですかー!? ホントに本当んなんですかー?」
「本当だって」
 マルチはやっと泣き止んだが、どうにも気まずい。
 話をそらそうと、マルチが手に持っている買い物袋を指差し・・・
「何買ったんだ?」
 マルチは、こくっと頷くと「よいしょ」と、それをテーブルの上に―――


「こけしです」



「こけしっ!?」
 こけし・・・・こけしって、アンタ!?
 一万円だぞ!? 好きなモノを買えって、俺はそう言ったはずだ!?
 服を買えと! そう言ったはずだ!?
 何故、俺の好意の全てをこけしなんぞにっ!?
「一万円でした。消費税は私が払ったんですよー」
 マルチは、てへへと笑う。
 一万円!?
 俺はこけしをジロジロとねめつける。
 これは・・・一万円の価値があるようには、到底見えない!
 どっからどう見たって、主に東北地方で売られる郷土土産の一種だ!
 俺様鑑定によれば、千五百円程度だっ!(税込み)
 それにっ!
 じぃっと見つめてると、気味が悪いぞ!
 一体どうして、こんな―――
「いや、待て! 待つんだ藤田浩之っ!」
「?」
 マルチはこんなでも、以外に思慮深いやつだ!
 一見すると、何にも考えて無いオッペケペーに見える!
 実際、言動の全てがオッペケペーなことが多い!
 しかし、ときおり事実を穿った、鋭い発言をするじゃないか!
 計算高いときもある!
(現にこのあいだも、俺の目覚ましを、夜中にドアの近くまで移動させていたのだ
! おかげで俺は早起きできたが、その日は日曜だった・・・まぁ、それはいいや)
 考えろ・・・考えろ俺! 秘密のチカラを全開にして、マルチの思惑を読み取れ
ぃっ!
「・・・」
「ご主人様ぁ、テレビ見ても良いですかー?」
 そうか・・・
 そうだったのか!?
 俺の頭に、閃光の如く閃いたぜ!
 つまりっ!!
 こけしとは『子消し』・・・
 大昔、食うに困った百姓達が(何故か理緒ちゃんの姿が頭に浮かぶぜ!)、あまり
の空腹に耐えかね、自分たちの子供達を殺し、食料にしたという伝説がある!
 空腹が故の人食い! それは決して残虐でも、珍しい事でも無い!
(快楽のためであれば別だが)
 それはモラルの欠如でも無い!
 嗚呼! しかし、なんという悲劇か! 悲劇悲劇!
 いたいけな子供達が、尊い、しかし哀しすぎる犠牲となった! こんな馬鹿な話
はない!! 遣り切れない!!
 そして・・・いや、だからこそ! 親達は・・・自らの過ちを悔いたのだ!
 子供達を供養すべく、木彫りの人形を我が子に見たて、供養したのである!
「・・・そうだったのか・・・そうだったのかぁっ!?」
「あぁっ! カンパンマン頑張ってくださいぃ! 禁断症状を乗り越えて、正義の
ヒーローへとカムバックですー!」
 俺は泣いた。
 不覚にも涙したね!
 マルチはさ、ようするに・・・供養したかったんじゃないかなぁ・・・
 だってよぉ、自分が産まれるために、沢山のロボット達が死んで行ったんだぜ。
 いや、それだけじゃないよな・・・
「・・・ハッ? そうか・・・」
「ハァ、続きが気になりますねぇ、ご主人様ぁ」
 兄や、姉達だけじゃない・・・妹たちだって、マルチよりも先にくたばることが
あるだろう。
 でも、誰があいつらの墓を作る?
 誰があいつらを弔うんだ?
 燃えないゴミの日に出して、それでお終いだぜ・・・?
 だから! だからこそマルチがっ! 同じロボットであるマルチが!
 供養しなきゃぁ・・・いかんのよ。
 そうなのよ。
 それがマルチの、いや、マルチしか出来ない事なんだよなぁ・・・
 なぁ・・・?
「そうだろ? マルチ・・・お前がこけしを買ってきたのは―――」


「とっても可愛かったからですー」
 

 
 



 
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