川の字  投稿者:MIO


 ぽーっ、としている。

 HMX−13型マルチは、藤田家のリビングで、けだるい午後を過ごしていた。

「いーてんきですねー・・・」

 掃除も洗濯も、全て終らせてしまった。
 甘えるべきご主人様は、車の免許を得るとかで、
「教習所へお出かけですねー・・・」
 着いていきたかったのだが、

『あのなぁ・・・メイドロボはべらせて教習所にいけるかよ』

 と、にべも無く断られた。
 じゃあ、自分も習いたい、と言うと。

『金がねぇっての』

 実につれない。
『それによ、メイドロボってのは確か・・・それだけで運転資格があっただろ』

 ・・・マルチは知らなかった。
 でも乗りたいとは思わない。
 もし自分が運手したら・・・

『マルチや・・・こっちへおいでぇ〜』
『あぁっ! 川の向こうでお爺さん(P2)が手を!? おじいさ〜ん!』

 マルチは、彼岸華の咲き誇る河原を―――

 ぶぶぶぶぶぶぶっ!
 だめだめ、ダメです! 壊れちゃダメです!
 わかいみそらで!

『でもな、ちゃんと留守番してたら、初ドライブの助手席に乗せてやるぜ!』

 初心者の隣に乗るほど、マルチの回路は丈夫ではないのだが・・・
 心遣いが嬉しい。
「・・・ご主人様」
 へらっと笑う。
 
 ご主人様大好き。

「・・・まぁ、それはそれとしてですねー」

 それにしてもヒマだ。
 ヒマでヒマでヒマ過ぎて、マルチはいろんなことを考えた。
「どうして・・・」
 どうして人間のみなさんは、みんな仰向けに寝るんでしょうか?
 マルチは、体を横にして寝るという経験が・・・あまり無い。
 起動前は横になっていたらしいが、起きた時は座っている状態だった。
 メンテも、座った状態か、立った状態で行ったし、
 充電も、座った状態でやる。
 夜中、スリープモードに移行している時は、リビングのソファに座っている。
 たまに横になっても、当然仰向けだった。
  
「・・・」

 不思議だ。
(どうして今の今まで、私はうつ伏せで寝たことが無かったんでしょー!?)
 良く考えたら、センサーが邪魔なんだから・・・
「そうです! メイドロボはうつ伏せに寝る方が自然なんですー!」
 大発見である。
 早速実行に移す。
 
 ぺちゃ・・・

「はわ・・・」
 鼻がつぶれる。
 仕方ないので、座布団をあてがう。
 ぽふ
「お〜!」
 さっきまで縁側に干していたので、
「お日様のにおいですー」
 吸う。

 ぴす

 太陽の臭いを、思いきり吸いこむ。
 
 ぴすぴすぴす
 
「お〜!」
 マルチが、うつ伏せの状態で、感動のため息をついた・・・その時である、
 リビングの扉が開かれ・・・

「マルチさん?」

 セリオだ。
 マルチはそのままの格好で応えた。
「あれぇ、セリオさんー! いらっしゃいー」
 座布団で声がくぐもる。

「マルチお姉様・・・」

 量産マルチもいるらしい。

「呼んでも返事が無く、玄関が開いていましたもので・・・」

 セリオが申し訳無さそうに言うと、マルチはうつ伏せのまま、わたわた暴れた。
「あわわ、これはうっかりです!」
 
「それにしても―――」

 量産マルチが小首を傾げる。
「マルチお姉様は・・・一体何を?」
 
「何をって・・・うつ伏せに寝ているんですよぉ」

 当のマルチは、さも当たり前だと言わんばかりだ。
 量産マルチは、思わずセリオを見上げ・・・
「・・・」
 セリオは、静かに目を閉じ、無表情でそれに応える。
(聞いてくれるな)
 そう言いたいのだと、量産マルチは推測した。

 困惑気味の二人を放って、マルチは続ける。

「気持ち良いですよぉ〜♪ そうだ、お二人も試してみてください! きっと
気に入るはずですー!」

 そう言って、座布団を放る。
「・・・」
「・・・」
 量産マルチは、
(お姉様がそういうのなら、きっと楽しいことに違いない)
 そう思い、あっさりとマルチの言葉に従った。
 セリオは・・・
「俯け、うつ伏せ・・・下向きに寝ること」
 半ばやけくそ気味に、マルチの言葉に従う。

 3人でうつ伏せに寝る。
 背筋をピンと伸ばし、気をつけの姿勢だ。
 普通は息苦しいのだが、ロボットの3人には無関係である。
 セリオは、ちょっとだけ胸がきつかったが、それは我慢できる。
 寝る。
 3人で、うつ伏せに寝る。
「・・・」
「・・・」
 セリオも量産マルチも、ほんの少しだけ驚く。
 以外にあんばいが良い。
 そう思ったら、あとはどうでもも良くなった。
 3人で、うつ伏せに寝る。

 縁側に干していた座布団は、太陽の臭いがした。

 ぴすぴすぴすぴす・・・
 ぴすぴすぴすぴす・・・
 ぴすぴすぴすぴす・・・


 その時―――
 ちょうど帰ってきた家の主、藤田浩之は、
 茜色の夕日に照らされて、うつ伏せで寝こける3人のメイドロボを目撃し・・・
 

「な、なにやってんだお前らっ!?」



 もぉ、本当にビックリしたという・・・


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 そろそろ、ちゃんとしようかな・・・と。
 2000年ですから。
 ・・・
 ちゃんとした内容か!? これは!?  
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