地獄のハイテクマシーン VS 蘇ったローテク野郎  投稿者:MIO


「そりゃなんだ、マルチ」

 浩之ちゃんが、厳しい口調でそう言ったのは、マルチちゃんがお買い物に失敗し
て帰ってきた直後だった。

「え、えと・・・ご主人様に頼まれた―――」

 おずおずと分厚いA4サイズの本を差し出す。
 それは、マルチちゃんが『お茶葉』と間違えて買ってきた『アジャンター石窟の
全てをカラフルな写真と丁寧な解説で紹介する本』(どういう勘違いをしたのかな
ぁ?)だ。
 浩之ちゃんはそれを眺めて、深ぁ〜いため息を吐くと、大儀そうに立ちあがって
、糸とテープと紙コップを取り出した。

「まあ、マルチ、そこに座れ」
「あ、はい!」

 元気にお返事して、浩之ちゃんと差し向かいに座るマルチちゃん。
 浩之ちゃんは、さっきの材料をテーブルに並べると、素早く工作を始めた。
 そして、出来あがったのは―――

「すごかろうマルチ、これでも昔は、工作魔王のヒロちゃんと呼ばれたもんだ」

 本当にそう呼ばれてたんだから、笑っちゃうよね。

「はぁ〜、なんだかすごそうですー」
「ホレ、そっち持って耳に当ててみろ」
「この紙コップですかぁ?」
「ああ、すごいぞ」

 浩之ちゃんに言われるまま、マルチちゃんは耳に紙コップをあてた。
 浩之ちゃんは頷き―――

「聞こえるかマルチ」
「!?」

 マルチちゃんの肩が、ビクリと震えた。

「もしも〜し?」
「は・・・はわわっ!?」
「おーい」

 驚愕の表情で、それでも、恐る恐る紙コップに口を当てる。

「あ、あの・・・えと、その・・・も、もしもし?」
「おう、聞こえたかマルチ」
「きゃっ!?」

 マルチちゃんは、小さな悲鳴を上げて、飛び退いた。
 紙コップと、浩之ちゃんと、私を交互に見る。
「・・・」
 あわあわと紙コップを指差し、浩之ちゃんを指差して、それから自分のセンサー
をなで回した。
 糸電話・・・知らないんだね。

「マルチ・・・これはな、糸電話と言う!」
「い、いとでんわ!?」
「文字通り、糸による電話だ! ちなみに、電話とは名ばかりで、電気的な仕掛け
は一切ない!」
「おぉ〜っ!」

 マルチちゃんは、風邪をひいたチワワみたいに震えて、紙コップに手を伸ばした。
 現代化学の結晶と、○研の科学ですら付録にしない、超ローテク通話装置の出会
いの瞬間だった。
 って・・・浩之ちゃんは一体・・・
(あっ! そうか、きっと浩之ちゃんは・・・)


「マルチ、この糸でさえ物事をきちんと伝達する能力があるってのに!」
「あぅっ」

 やっぱり・・・

「お前は、聞き間違いばっかりか? この糸を見習え!」
「あうぅ〜っ」

 なんだかんだ言って、マルチちゃんいじりが一番好きなの、浩之ちゃんだよね。
 うん、きっとそうだよ。

「で、でもでもでもでも、ご主人様!」

 悔しそうに糸電話を眺めていたマルチちゃんは、急にしてやったりの表情になっ
た。
 得意そうな笑顔で、糸電話を掲げる。

「見てください! 底に穴をあけたばっかりに! コレではジュースが飲めません
!! 紙コップの風上にも置けない―――」
「そういうお前で、ジュースは飲めるのか?」
「えっ!?」
「確かに、加工した後でジュースを飲むのは難しい!」
 
 飲めないこともないと思うけど、テープでふさいでるし・・・

「だがな! お前だって、俺にジュースを飲ませる事はできないだろ!」
「・・・」
「糸電話でジュースが飲め無いように、お前でジュースを飲むことも不可能だ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あ、あの・・・」
「ん?」

「き、きれいな水なら・・・ご主人様に・・・その・・・」


 浩之ちゃんが、雷に打たれたように激しく震えた。
 ものすごく困った顔でマルチちゃんを見て、私を見て、それから自分のつま先を
じっと見つめる。・・・浩之ちゃん、困ってる。
 まあ・・・当たり前だけど。
 マルチちゃんはマルチちゃんで、自分で言っておきながら、真っ赤になって俯い
ていた。

「・・・」
「・・・」
「あ、あ〜」
「・・・」
「え、えーっと・・・」
「・・・」



「だ、そうだ・・・あかり」


 いや、わたしに振られても。


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AE様の読んで、ドラマCD聞いて、メイドロボ関係のSSあさりまくったら、今
日一日は、メイドロボの日でした。
 う・・・目つぶっても見える。
 うぁ、開いても見えた。
 あんまり関係無いけど『メダロット』見たし・・・

>AE様
 最高です!
 俺が一年前にあの栞を描いたのは、きっとこの作品に出会うため!
 そうに違いない!
 今日がメイドロボの日になった、最大の要因はズバリ言ってこのSSなんス。
 うん。

http://www.interq.or.jp/black/chemical/