みつばちのコスプレをした初音ちゃん。『ぶーん』  投稿者:MIO


 俺、柏木耕一の言いたいことは、もはやタイトルの時点で終っている。
 そんな気がする。
「・・・俺だけじないよな」
 そう、俺だけじゃないはずだ。
 あの、秘密の単語―――


 はちみつ


 その秘密の単語に、言い知れぬエロティシズムを感じてしまうのは、絶対に
俺だけじゃないはずだ!

 はちみつ

 可愛らしく咲き乱れる花園から、みつばち達がせっせと集めた、甘い蜜。
 トロリとした黄金色の、液!

 はちみつ

 甘露の極み、まろやかな甘味と香りと、そしてエロス!

 はちみつ

 神の与えたもうた、秘密のエロス!
 脳髄を甘く震わせる、甘美なる衝撃、エロスな単語!
 それが―――

 はちみつ

 この誘惑に抗うのは、
 ゲームショーで「『デス○リムゾン』は、クソゲーじゃない!」
 と叫ぶよりも困難な試練だろう!
 いや、ちょっと後者の方が困難な気もするが・・・
 しかし!


「俺だけじゃない!」
 そうとも!
「俺だけであるはずが無い!」
 はちみつという単語に、どうしようもない劣情を漲らせる人は、きっとほかにも
いるにちがいないんだ!
「というわけで、千鶴さん!」
「はい?」
「はちみつ!」
「・・・あぁ、はちみつでお菓子を作るんですか?」
「・・・」
「わたし、お菓子には自信あるんですよ! 今作りますから待っててくださいね!」
 ダメだ! 千鶴さん失格!
「梓! はちみつ!」
「台所。ぺろぺろ嘗めるなよ、クマの○ーさんじゃないんだから」
 ダメ! タスマニアタイガーも失格!
「楓ちゃん! き、キミなら!」
「・・・」
「は、ははは、はちみつ!」
「嘗めると甘いですよね」
「・・・ふ、普通じゃん!」
 彼女も失格! って言うか、普通に答えたってほうがショックだ!
 書き終わったばかりのSSが、なんらかの原因でいきなり消えてしまった!
ってくらいショックだ!
 心臓止まるかと思った! っていうか、ちょっと止まった!
 止まったら死ぬじゃん、とか思うだろうが、人間ってワリとしつこいので、ちょ
っとなら平気だ。
 試しにちょっと止めてみるといい。 たぶん死ぬから。
 そういや、小学校の頃、意図的に気絶を体験するという、チベットの修行僧でな
きゃやらないような、ディモールトにデンジャラスな遊びが流行った事があった。
 マジです。
 俺は遠目に見てただけなので、詳しくは知らないが、被験者を壁に押し付けて、
全力で胸を圧迫するんだったと思うな。たぶんな。
 自ら望んでそれを食らった豪気な輩は、急にぐったりする。これはスゴク怖い。
 んで、ぐったりした友人を、みんなしてビンタかまし、無理やり起こすのである。
 かなりウソっぽいが、真実だ。
 俺の目を見ろ!
 ・・・それでだな!
 時々だが、なかなか起きない事があって、そうすると、みんなかなりビビる。
 子供心に、このまま彼岸に行かれてはいろいろ厄介だ、というのがあるらしく、
みんな、かなり強めにバシバシ叩く。ほとんど泣きながら叩く。
 昼休みの体育館が、冒険家に牙を剥く雪山に見えてしまう一瞬だ。
 んで、漸く起きると、被験者はほっぺたが痛いので泣き出す。
 みんな泣く。友情が深まっていくんだな。まるで三年B組の生徒たちだ。
 ごめん。
 みんなで泣くくだりはウソ。あとは本当だ、信じてくれると俺は嬉しい。
 で、まあ・・・
 それは見てて面白かった記憶がある。でも、ぐったりしてるのは怖い。
 怖い怖い。(←川澄綾子風に)
 そーいう具合なモンだから、
 もぉ、小学生である彼らにとって『気絶』とは、ほとんど神の領域である。
 ってーか、漫画でしか見たことの無い気絶を体験するってのは、一種のステ
ータスであるし、神秘体験に近い感覚がある。
 ネイティブアメリカンがへんなクスリ使ってトリップするのとちょっと似ている。
 でも、全然に似ていない気もする。
 似て無いか・・・いや、似てるような・・・どっちでもいいや。
 しかしまあ、その、なんだ。
 友人を彼岸に追いやる彼らの姿に、人間の根源的な、神秘へのチャレンジ精神
を垣間見たような気がしないでも無い。
 しない気もする。
 あ、いかん―――

 めちゃくちゃ、話しがそれた。

「初音ちゃん!」
 やっぱりこの娘か!? この娘なのか!?
「なあに、お兄ちゃん?」
 にっこり微笑む初音ちゃん。
 日の光を反射して、金色に輝くその髪は、まるではちみつだ。
 ごくり
「は、初音ちゃん・・・は―――」
「は?」
「はちみつ!」
「えっ!? あ・・・やだ」
「は・ち・み・つ」
 初音ちゃんは、ポッ、と頬を染めて俯いた。
「も、もぉ・・・お兄ちゃんのえっち!」
 可愛い!
「はちみつ!」
「や、やだ・・・」
「はちみつ!」
「も、もぉ、やめてよお兄ちゃん・・・」
「はちみつはちみつ」
「い、いや〜ん」
 初音ちゃんは、真っ赤になって、テテテテテッと逃げ出した。
 俺は後を追う。
「初音ちゃん、はちみつ!」
「や、やめてよぉ〜」
「はちみつ!」
「は、恥かしいよぉ」
 俺は、イヤイヤしながら逃げ惑う初音ちゃんを、じりじりと追い詰めながら思
った。
 間違い無い! この娘こそ・・・
 この娘こそが俺の―――
「初音ちゃん! 俺のみつばちになって―――」

「くぉの、バカ耕一がぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ごん!
 梓の、容赦のないフライパンによる一撃が、俺の頭頂部を強打した。
 薄れていく意識のなかで、俺は神に祈る。
 神よ、願わくば・・・
 今宵もはちみつの夢を―――


「耕一さん! お菓子が出来ましたよ!」




 はちみつ味噌