石地蔵  投稿者:MIO


 雨月山・・・
 
 それは、現代において、なおも鎮守の森を頂く、古い山である。

 多くの人が、その名を忘れてしまった現在、雨月山を雨月山たらしめているのは
旧い過去の呪縛に捕らわれつづける、柏木の者たちだ。

 そのなかの一人、柏木耕一は山を見上げた。


 この場所が雨月山だと知ったのは、つい最近の事だった。
「・・・」
 見上げると、山頂部は深い霧に覆われているようで、かなり不気味だ。
 苔むした石段は、白濁とした煙霧に覆われる、山の頂へと続いている。
 石段の脇には、無数の石地蔵が立ち並んでいた。
「不気味だな・・・」
 少なくとも1〜2年は、手入れのされていないであろう、苔むした石地蔵。
 いったい、どれくらいの数があるのだろうか?
 
 石地蔵、石地蔵、石地蔵、楓ちゃん、石地蔵、石地蔵・・・・

「・・・ん?」

 石地蔵、石地蔵、楓ちゃん、石地蔵、石地蔵、石地蔵・・・・

「な、なんかおかしいな・・・」

 石地蔵、楓ちゃん、石地蔵、石地蔵、石地蔵、石地蔵・・・・


「・・・楓ちゃん?」
 石地蔵の間に、楓ちゃんが挟まっている。
「・・・耕一さん」
 楓ちゃんは、俺の名を静かに、そして愛しそうに、震える声音で呼んだ。

 石地蔵の間から。

「・・・な、ななななな、なにやってんのさ、楓ちゃん!」
「・・・地蔵の間に・・・」
「間に!?」
「・・・ぎゅっ、て体を押し込みました」
「な、なんで!? どうして!?」
「・・・乙女の秘密です」
 むぅ!
「と、とにかく帰ろう! 皆心配するよ!」
 俺は、少し強めの口調でそう言うと、楓ちゃんの腕を掴んで―――

 すぽんっ!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 抜けっ! 抜けッ!?」
「・・・耕一さん、痛いよう・・・」
「わぁっ! ごめん! 今すぐ救急車を―――」
「・・・うそです」
 ・・・
 ・・・
 ・・・うそ?
 うそ・・・うそかっ!?
「オモチャ・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 くっ・・・
 そういうことなら、いたしかたあるまい!
「俺・・・きっと、また来るからね!?」
「?」
「また来て、そのときこそ、キミを連れて帰るから!」
「・・・」
「・・・」
「・・・待ってます」
「それじゃあっ!」
「バイバイ・・・耕一さん」

 
 耕一が去り、一人残された楓は、ふるりと身を震わせた。
「・・・さむいです」
 言って、くちんっ、とクシャミをする。
「・・・耕一さん」
 しくしくしく
 楓は泣いた。


 ホントは、体が抜けなくて困っていたのだ。