まとりっくす  投稿者:MIO


 放課後、廊下を歩いているとマルチを見つけた。
 マルチは、いつものように鼻歌を歌いながら、楽しそうに廊下を磨いてる。
「お〜ろちお〜ろちどっぽ〜♪」
 なんの歌だ。
 まぁともかく、声をかけることにしよう。
「お〜い、マルチ」
 俺の声に、マルチの耳センサーがピョコッと反応した。
「あ、この声―――」
 すぐさま嬉しそうに振り返る。
「浩之さん!」
「よっ!」
「こんにちわー、今お帰りですか?」
「ん? ああ、まあな。・・・そーいうお前は、また掃除かよ」
「はい! 私、お掃除大好きなんですよー」
 ったく、こいつは・・・
「他の奴らの分まで、お前がやる事はねェだろーが」
「はあ・・・、でも私、ロボットですから。人間の皆さんの、お役に立ちたいです」
 お役に・・・ねぇ。
「あのな、マルチ。掃除ってのは、生徒を立派な社会人にするために、当番制になっ
てんだぞ? だから、ヤツらのためにも掃除はやらせろ」
「そーなんですかぁ。あ、でも皆さんは、今日はなにやらご用事があるとかで・・・」
 ウソに決まってるだろーに。
「ったく、しょうがねぇな〜! 今日も手伝ってやるよ、掃除」
「え? あ、でも・・・」
「いいから、モップ貸せって。おっ、それと―――」
「?」
「バカなヤツらを甘やかした罰だ、それ! デコピン―――」
 俺は、マルチの額にデコピンを食らわそうとした。
 あかりにやるみたいに、上手くいく筈だった。
 俺はヘラヘラ笑いながら、手を伸ばす。
 その瞬間、マルチはスッと真顔になり・・・

 ギュンッ!!!

 残像が見えるほどのスピードで動いた!
「っ!?」
 速い! よけたのか? いや、まだだっ!
 俺は動揺を隠しつつ、矢継ぎ早にデコピンを放つ!
 右側頭部へ、えぐりこむように!
 バッ!
 また避けた!
 次だ! 次はフェイントであごを狙う!
 まさかデコピンがあごに来るとは―――
 バッ!
 これもかわしたっ!?
「くそっ!」
 右頬! ギュンッ! 左頬! ひゅん! 額、鼻面、額とみせかけて、左即頭部!
キュン! バッ! ヒュンッ! ブゥアッ! バッ! ぜ、全部かわしやがった!?
 いや、まだだっ!
 俺はすかさず足払いを放つ! デコピンに気を取られている今なら!
 だが、俺の目論見は浅かった!!
「やーっ!」
 マルチの裂帛の気合!
 まるで俺の攻撃を予測していたかのように、すばやく軽やかにジャンプ!
「なっ!?」
 マルチがふわりと宙を舞う!
 そして、マルチの指先が、俺の額を―――

 ぺしっ!

 !?
 お、俺がデコピンされた!?
 愕然とする俺の目の前に、マルチはストッと降り立つと、
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 にやり、と笑った。


          HMX−12型マルチの秘密は

              残念ながら

             話す事は出来ない