火が・・・  投稿者:MIO


「うっ・・・うっ・・・ひっく」
「か、神岸さん・・・元気出してください・・・」
 
 愛する神岸さんが、藤田のアホンダラに振られてしまった。
 いつもの俺なら、ここぞとばかりに猛アプローチするところだろうが・・・
「うぅっ・・・浩之ちゃん・・・」
 なんか、見ていられない。
 下心なんて、沸いてもこなかった。
 彼女の力になりたいと、純粋にそう思った。
 でも、藤田の名前を呼びながら泣きじゃくる彼女に、俺は何もしてやれない。
 彼女の傷を癒せるのは、藤田しかいないんだろう。
 今まで、ずっとそうだったんだ・・・
 だが、その藤田が別の女を選んだ以上、それは無理な話だ。
 そして、認めたくはないが・・・俺じゃ役不足なんだ。
 なら・・・
 ならせめて、俺自身のわがままを通そう。
 彼女の涙なんて、見たくない。
「神岸さん、あの、ハンカチ・・・洗濯したばかりで、清潔ですから。これで・・・」
「・・・」
「あっ、アイロンかけてないからシワシワっスけど、ほんとにきれいな―――」
「ありがと・・・」
 予想外なことに、神岸さんは素直にハンカチを受け取った。
 いつもなら『ざけんじゃねぇ、この矢島野郎!!!』とか言うのに・・・
「・・・」
「あの、神岸さん?」
「・・・なに?」
「鼻かんでもいいっスけど・・・」
「・・・どうして、そういうこと言うの?」
「あ・・・いや」
 俺の知ってる神岸さんは、ここでチーンっとやって、『食え!』とか言うんだが。
 さすがに弱っているんだな・・・
 沈んだ表情の神岸さんを見ていると、胸が痛むほど心配になってくる。
 あと、ちょっと物足りない気もする。
「神岸さん!」
「?」
「元気出してくださいよ! いつもの、俺を蹴飛ばす元気は、何処にいったんスか!?」
「そんなこと、したっけ?」
 記憶に無いと言うのか!?
「ま、まあ、とにかくです! ふ、藤田くらい・・・」
 その名前に、神岸さんはピクリと反応した。
 可哀想だが、でも、俺は続けた。
「藤田くらい、いつも俺にやるみたいに、ぶっとっばしてやれば良いんです!」
「・・・」
「・・・」
 俺の言葉に、神岸さんは急に黙り込んだ。
 気まずい沈黙が続き、俺がたまりかねた頃・・・
「浩之ちゃんを・・・」
 小さな声が、俺の鼓膜をかすめた。
「え?」
 思わず聞き返すと、彼女は伏せていた顔を上げて・・・
「・・・ぶっとっばして・・・みようかなぁ・・・」
 神岸さんは、吹っ切れたような、爽やかな笑みを俺に見せた。
 ・・・ドキッとするくらい、可愛らしい、素敵な笑みだ。
「そうっスよ! その意気っス!」
「よぉし! 矢島は今日から、あたしの舎弟『くまちゃん一号』だよ!」
 舎弟・・・か。
「わかりました! 神岸さん!!」
 ちょっとだけ、格上げしてくれたのかな?
 俺の視線に、神岸さんはクスリと笑い、さっそく命令を下した。
「くまちゃん! わかったらガソリンとマッチ持って来なさい!」
「ガ、ガソリン・・・!?」
「もぉ、早く!」
「ら、らじゃー!」
 俺は慌てて、ガソリン&マッチを持ってきた。
 ちょうど一揃え、俺んちの車庫にあったからな。
 実にスピーディだ。
「で・・・神岸さん」
「なぁに?」
「これ、なんに使うんスか?」
「なにって・・・火をつけるの」
「・・・」
 ご、極悪な・・・
 いくら自分を振ったからって、藤田の家に火をつけなくても・・・
 とは言え、俺はいまや神岸さんの第一の舎弟!
 彼女の言うがままよ!
 許せ藤田!!!!
「さぁ、ガソリンをまいて、くまちゃん一号!!」
「らじゃー!」
「さぁ、火をつけて! くまちゃん一号!!!」
「ららら、らじゃ〜♪」
 ボッ! メラメラ・・・
 紅蓮の炎が、その赤い舌を建物の壁に這わせる・・・
 まるで地獄絵図だ。
「・・・神岸さん、これでいいんですね?」
 同意を求める俺の言葉に、神岸さんは頷き、真っ赤に燃える炎に向かって手を広げた。
 炎の照り返しに、赤く染まった彼女の笑みは、まるで炎の女神だ・・・
「・・・女神」
 そう、女神・・・俺の、俺だけの女神・・・
「燃えろ!」
 俺の女神は、ものすごく楽しそうに叫んだ。



「燃えろ、矢島邸!!!」



「って、俺んちかいっ!!?」


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 いかん・・・矢島いじめてばかりだ・・・
 心がすさむなぁ。


>R/D様
 追悼 上下 読みました。
 遣り切れないカンジが、もう、なんというか、ツボです。
 こんなSSばっか書いてますが、じつは、ああいったノリが大好きなMIOです。
 矢島もカッコイイし。


>闘魂秋吉様
 俺、会長なんスか?
 ・・・
 ・・・
 ・・・親に言えない秘密が増えてしまった。(笑)
 ってーか、俺なんか追い越してガンガン行って下さいな。
 俺はホラ、すでに天井見えてるけど(泣)、貴方は違うはず。
 これからも、がんばってください。