いもおと  投稿者:MIO


 畳の上にゴロリと転がると、薄汚い天井が、視界いっぱいに広がった。
 視線をずらすと、四角い窓から、夕日に赤く染まったうろこ雲が見える。
「ハァ・・・」
 今日のは、さすがにこたえたな・・・

 ―――神岸さん、ちょお好きだぁぁぁぁン!!!! 付き合ってくれぇ!
 ―――いいよ
 ―――へ?
 ―――浩之ちゃん、最近、マルチちゃんと仲いいんだ・・・
 ―――はぁ・・・?
 ―――私、もしかしたら、幼馴じみ以上には・・・なれないのかもしれない・・・
 ―――・・・
 ―――振られたら・・・いいよ、付き合っても


「なんだよ、そりゃあ・・・」
 今までの中で、断られなかったけど。一番最悪じゃないか・・・
 結局、藤田にゃ、かなわないってことじゃないか・・・
「あ〜あ・・・」
 なんか、急に覚めたなぁ・・・
 
 ドスドスドスドスッ!

「?」
 階段を駆け上がる音?
 体を起こすと、ほぼ同時にふすまが開け放たれた。
「兄ちゃん!!!」
 そこに居たのは、小学生の・・・俺の妹だ。
「女の子に振られたぐらいで、いつまでもウジウジしないでよ!」
「なんだよ・・・おまえには関係無いだろ」
 妹は、ぐっ、と言葉に詰まったが、すぐに反論した。
「確かに関係無いケド! でも・・・元気無いのは兄ちゃんらしくないよ!」
「・・・」
「何があったか知らないけど・・・でも、元気出さないとダメ。そんなん調子
じゃ、告白のキメ台詞だって、50%も伝わらないんだから」
「まぁ・・・そうかもな」
「兄ちゃんは、十分カッコイイよ、だから元気出してよ」
 こいつ・・・いいやつじゃねぇか。
「ハハッ、おかげで元気でたぜ、サンキュな・・・」
 俺の妹・・・その名は


「―――やじ子!」

 やじ子は、俺に名前を呼ばれたとたん、ビクッと震えた。
「や・・・やじ子?」
 自分の名前を繰り返すと、恐る恐る・・・と言った調子で、奇妙なことを俺に聞い
てきた。
「わ、わたし・・・やじ子って名前なの?」
 はぁ?
「・・・何言ってんだ、生まれたときからそーだろ」
「矢島やじ子!?」
「頭でも打ったか、やじ―――」
「その名前で私を呼ばないでぇっ!!!」
 耳をふさいでイヤイヤするやじ子。
 なんだこいつは・・・
「そ、そんな・・・いくらオリジナルのキャラだからって、SSだからって、そんな
、非常識なネーミングがまかり通るはず・・・」
「ちなみに、おまえの兄貴、つまり俺の名前は、矢島矢島だ!!!」
 やじ子は、ああっ! とか叫んで、へたり込んだ。
「い、いくらなんでも、横暴がすぎるわっ!」
「なんの話だ?」
 妹は、ぶるぶると震えながら、さらに聞いてくる。
「ち、ちなみに聞くけど・・・お父さんと、お母さんの名前・・・」
 なんだ、本当に熱があるのか?
「どうしたんだよ? 親父は『やじ文』お袋は『やじ雪』、ちなみに爺ちゃんは
『やじ蔵』だ」
 やじ子は、聞き終わるやいなや、今にも泣きそうな表情になる。
「どうしたんだよ、ホントに・・・やじ子」
「ううっ!」
「やじ子?」

「うわぁ〜〜〜〜んっ!!!!!」

 ドタドタドタドタドタッ!!!
「やじ子!?」
 やじ子は、現れたときと同じように、騒がしく一回へ降りていった。
 ったく、何しに来たんだ?
 ・・・
「・・・ハァ・・・」
 ため息が、再び漏れ出る。
 俺は、バッタリと畳の上に転がった。


「かぁ〜〜〜みぎぃ〜〜〜〜しさあぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ン」


 ゴロゴロゴロ・・・