甘い新婚生活のアレ  投稿者:MIO


ずずっ・・・
「・・・」
 マルチの作った味噌汁。
 口に含むやいなや、俺は渋面で箸を置いた。
「おい、マルチ・・・」
 返事が無い。
「マルチッ!」
 強い調子で呼ぶと、やっと、台所から顔を出すマルチ。
「なんでしょうか?」
 なんでしょうか? ・・・だと?
「なんでしょうかじゃねぇだろ! なんだよ、この薄い味噌汁は!」
「・・・」
「んだよ、何で黙ってんだよ!」
 怒鳴ると、マルチはもごもごと、何か言った。
「あぁ? 聞こえねぇよ」
「わかりました! 今すぐ取り替えますっ!」
 こいつ・・・
「取り替えますじゃねぇだろ! 俺が聞いてんのは、なんでこんなに薄いのかっ
てコトだろーが!!」
 俺は激昂したが、マルチはそれに怯えることは無かった。
 反対に、憤ってすらいるようだ。
「わたしはっ! わたしはただ・・・ご主人様の健康のことを考えて! 塩分の
とりすぎは良くないって、テレビで言ってたっから・・・だからっ!」
 健康だぁ!?
「んなのは、どーだっていいんだよ! 朝っぱらから、まずいもん食わせやがって
! せっかく料理が美味くなったと思ったら、これかよ!」
 俺は、味噌汁を床に叩きつけた。
「こんなもんは・・・・こんなもんは残飯と一緒だ!」
「な・・・、なんてことを! ひどすぎますっ!」
「うるさい! 黙れよ! ロボットの癖に!」
 マルチは一瞬、言葉に詰まったが、すぐに烈火のごとく反論した。
「そのロボットを妻にしたのはご主人様でしょう!? 妻が夫の健康を気にして
何が悪いっていうんですかっ!」
「ご主人様!? また、ご主人様かっ!? ホラ、見ろ! 結局おまえは・・・
プログラム通りにしかできない、できそこないのオモチャだ!」
「そのオモチャが居なきゃ、何にも出来ないくせに! 私がオモチャなら、ご主
人様は、そのオモチャを抱いて喜んでいる変態です!」
「あぁ! そうとも、俺は変態だっ! だが、今、目が覚めたぞ!テメェみたい
なガラクタとは、今日でお別れだ! こんなことなら・・・・」
 マルチが、俺をにらみつけている。
 ・・・マルチの癖にっ! 
「こんなことなら、あかりと結婚すりゃ良かったぜっ!」
 決定的な一言。
 マルチの顔から、一瞬だけ表情が消えた。
「わかりました・・・」
 マルチはそう言って、左手の薬指から指輪を抜き取ると・・・
「これで、お別れです、浩之さん」
 ごみ箱へ、落とす。
 指輪は、紙くずに受け止められて、かさり、と音を立てた。

 俺の給料三ヶ月分と、二人で過ごした日々は、妙に軽い音と共に、永久に失わ
れたのだ。

 ・・・・って、言われてもなぁ・・・
 ・・・・なんか、精神的につらすぎるぞ、この―――


 夫婦喧嘩ごっこは。


「はい、カットですぅ!」
 マルチが元気に言った。
「ふぅ・・・、どうだマルチ、初めて夫婦喧嘩した感想は?」
「はぁ、とってもエキサイトしましたです、はい」
 エキサイト・・・
「しっかし、ごっことはいえ・・・もうしたくねぇなぁ」
 ストレス溜まりまくりだぜ。
 最後の台詞なんか、こう、胃がキリキリと・・・
「な、そうだろ、マルチ?」


「いいえ♪」


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 なんか、いろいろ問題あるナァ・・・
 コレ