午前11時35分――― 空は抜けるような青空である。 夏の風は、気休め程度の涼しさを運ぶ。 強い日差しに彩られた街は、平日ということもあってか、人影はまばらだ。 季節の風を享受する街角で・・・、男は暗い表情を浮かべて立っていた。 額に、頬に、首筋に、汗が浮かんでいる。 暑いからではない。じっとりとした・・・冷や汗。 男は厭な汗をぬぐうこともせずに、一歩踏み出した。 自動ドアがゆっくりと開く。 そこは、銀行である。 一瞬、誰も事態を把握できなかった。 把握しそこなった。 自動ドアの向こうから現れた男は、サングラスと、マスク――― 手にナイフ。 安直すぎる格好だ。だって、本当にそんな格好をして現れるのだろうか? 大概の人間は、自分がそんなものに遭遇するなんて考えてもいない。 だがしかし、有り得ない話ではないではないか・・・ でも、まさか、本当に? 「銀行強盗?」 当の本人に問い掛ける、誰かの間抜けな声。 それはパニックを誘発した。 「銀行強盗だっ!」 「助けてっ!」 有象無象の混乱の中、逃げ惑う人々を無視して、銀行強盗と呼ばれた男は、 「あ、あ・・・っ」 恐怖にすくみ、逃げ遅れてしまった、哀れな窓口嬢に歩み寄る。 ぴたり・・・と、首筋に押し付けられた、冷たい刃。 彼女は、もはや声を上げることも出来ない。 サングラスの向こうに、胡乱な瞳を見た気がした。 「お、お金なら・・・あげますから」 助けて。 やっとの思いで絞り出した声、命乞い・・・ 無駄だ。 男は、やたらに緩慢な動作で、首を横に振る。 「俺が欲しいのは金じゃない」 意外に若そうだが・・・しわがれた声。 「・・・」 男はしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。 「金なんかいらねぇから・・・、金も、名誉もいらんから・・・」 男は泣いている。 「神岸さんの愛をくれぇっ!!」 「えっ?」 「PS版、何度もプレイしたんだよう・・・。矢島エンディングないじゃん・・ ・、もうなんでもいいからさぁ、俺と神岸さんが結ばれる話をさぁ・・・」 「・・・」 「なんつーかさぁ、もうさあ、神岸さんしか見えないわけでさぁ・・・」 「・・・」 「あーっ! 神岸さぁんっ! すきだーーーーーーーーーーーーっ!」 「・・・」 「えるおーぶいいーっ! あーかーりちゃーーーーんっ!!」 ああ、そうか・・・ そうだったのか・・・ 彼女は、やっと納得がいった。 (矢島だ・・・) 逃げ惑っていた人々も、立ち止まり、そして理解した。 (矢島だな) (なんだ、矢島か) (矢島ね) (ああ、矢島?) (矢島) (矢島よ・・・) 矢島だ! 矢島なのだ! くぉれでぇいいのぉーだぁ! 矢島だし! 季節は夏である。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ちはーっ! & はじめましてーっ! MIOですよーっ! っつーワケで今日だけ復活ですよ。 あぁ、忘れている人も多いでしょうね。 初めての人もいるよね。 うん、俺、こういうSS書くヒト。 しっかし・・・ブランクが祟ってるなぁ。 書いてなかったもんなぁ・・・ ま、今日だけだしっ!