光(アイドル)になれーーーーーーーーっ!! 投稿者:MIO
「と、いうワケだ」
「だから・・・いったいどいういうワケなんです?」
 いつものように、喫茶店『エコーズ』で皿を洗っていた俺に、英二さんは開口一
番そう言った。
 わけわからん。
「だからさ・・・」
 天才プロデューサーは、面倒臭そうに言う。
「こう、才能溢れる新人を発掘しようかって・・・そういう話さ」
「で? それをなんで俺なんかに相談するんです?」
 英二さんは、我が意を得たりと、にやりと笑う。 
「青年は、美人のガールフレンドが多いだろ? いいコ紹介してくれよ」
「はぁ・・・」
 ま、美人が多いのは否定しないケド・・・
 そのうち二人は、英二さんのプロデュースしてるアイドルじゃないか。
 さらに、弥生さんはマネージャー・・・
 俺の知り合いに、これ以上芸能関係者は要らない。
「いいじゃないか、紹介してくれよ」
「・・・彰ってコがいますよ」
「ほう? どんなコだ?」
「可愛くて、優しくて、お菓子作りが好きで・・・」
「ふむふむ」
「しかも男です」
「ナメとるのか、キミは」
 そんなこと言われたって・・・

 カランカラ〜ン

 ちょうどその時、喫茶店に入ってきたのは・・・
「あ、アイツなんてどうですか?」
「え?」
 はるか。
 そりゃあもう、間違いなくはるかだ。
 あれでも、一応は女の子だし、可愛いじゃないか。
「ふむ、結構可愛いなぁ・・・歌唱力はどうなんだ?」
「そんなの、俺じゃ分かりませんよ」
 英二さんは、そうだよな・・・と頷くと、さっそくはるかに声をかけた。
「あ、そこキミ! ちょっといいかな」
「ん?」
 はるかは、特に警戒するでもなく、トコトコ近寄ってきた。
「誰?」
「知らないかな? 緒方英二って言うんだけど」
 はるかは首をかしげて、俺の顔をチラリと見る。
「由綺とか理奈ちゃんを、プロデュースしてる人だよ」
「おお、なるほど・・・」
「だから・・・お前をアイドルにしたいんだとさ」
 はるかは、分かったのか分からないのか、英二さんのをじっと見詰めた。
「髪が白い」
「あはははっ、面白い子だな」
「ん」
「ところでキミ、芸能界に興味ある」
「興味ある」
「そりゃよかった」
「興味ない」
「・・・どっちかな?」
「どっちでしょう?」
「・・・興味ある方かな?」
「ん、正解、よかったね」
 はるかはニコニコと笑う。
 英二さんは、困った顔で俺を見たが、俺は無視した。
「でさ、キミ・・・俺のプロデュースでアイドルになる気ないかな」
「アイドル?」
「そう、スターダムにのし上がろう!」
「どんなダム?」
「いや、ダムじゃなくって・・・」
「黒部ダム」
「だからダムじゃないって! あ、いや、ゴメン、怒鳴るつもりは・・・」
「あはははははは」
「い、いきなり笑うなぁっ!」
「ん?」
「ん? じゃなくて、だから、アイドル!!」
「アイドルってなに?」
「テレビ出て、歌を歌って・・・」
「スゴイ」
「そう、すごいんだよ!」
「まるでアイドルみたい」
「だからアイドルだっつーの!」
「ん、頑張って下さい」
「だから! キミがなるんだよ! アイドルに!」
「なんで?」
「俺がプロデュースするの!」
「どうして?」
「君に素質があるからさ!」
「ん、素質?」
「アイドルの素質だよ!」
「アイドルなの?」
「そう、アイドルなんだ!」
「サインちょーだい」
「俺じゃなくてキミの話だよ!」
「ん、私は、私のサイン要らない」
「サインはこの際どうでもいいっ!」
「ん? 何の話?」
「アイドルだよ!」
「アイドルって?」
「だから、テレビに出て、歌を歌って・・・」
「おお、まるでアイドルのようだ」
「だから、アイドルだっつーの! スターだって言ってる!!!」
「言ってたっけ?」
「言ってたよっ!! スターダムにのし上がるって・・・はっ!?」
「ダム? どんなダム?」
「うぅっ・・・」
「ん、黒部ダム?」
「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!???」

 英二さんは、錯乱して店の外へ走り去ってしまった・・・
「お、お前って・・・」
「ん?」
 あの天才すら勝てないとは・・・
 恐ろしいヤツ・・・
「ん、コーヒーちょーだい」
「ああ・・・おごるよ」
「わーい」 

 うららかな、春の午後である・・・