オッス、俺が矢島だ！
 他の何者でもない！ 俺が、この俺こそが！ 
 イカすアメリカンバイクのようにタフで、吹き抜ける薫風のごとくさわやかで、
幼稚園児の書いた父親の似顔絵のごとく、人をホッとさせるホットな漢！！
 それが、俺だ！
 矢島だっ！
 その矢島様が、ナイスなアイデアを閃いた。
 ズバリ言って、スゲェんデス！
 みんなも知っての通り、俺には恋焦がれる片思いの相手がいる。
 神岸あかりさん・・・
 その美少女具合は、もはや周知の事実であるから、多くは語るまい。
 その超絶美少女あかりさんと、ＮＡＳＡ的にイイ男である俺が、二人並んで歩い
たら、どんなに素敵なカップルになるだろう・・・
 だが、俺は彼女に振られまくっているのだ。
「おかしい！ 絶対におかしい！ だが・・・悔しい事に現実だ！」
 どうすればいいのか！？
 そこで、さっきのアイデアが活かされるワケだ！
 ん？ どんなアイデアかって？ よぉし、聞いてくれ！

 まず、ゲーム『Ｔｏ Ｈｅａｒｔ』を購入する。
 そして、主人公の名前を『矢島』っと入力するのだ！
 これだけで、俺はあかりさんとラブラブになれる！
 ふふっ、完璧だ・・・
 まぁ、ストーリー途中で登場する『矢島』には、涙を飲んでもらうさ。
 俺があかりさんとラブラブになれれば、それでいいのだ！
 では！
 さっそくプレイスタート！

 『姓を入力してください』
「ＯＫ！ えぇっと、や・じ・ま・・・っと」
 よっしゃ！ これで主人公の名前は矢島だ！
 ニックネームはなんにしよう？
 ヤジーとか、ヤジーンとか・・・やっぱヤジーマかな？
 と、考えていると―――

『名前を入力してください』
  え？ 名前？
「俺・・・名前なんていったっけ？」
 はっ！？ わ、わからんっ！？
 って言うか、俺、名前がないのでは？
『名前を入力してください』
 ・・・・・
 ・・・・・
 ・・・・・
 し、しかたあるまい！
「デ、デフォルトで頼む！」

 ふぅ、若干の誤算はあったが、無事終了したぜ！
 あとは、プレイするのみ！
 さぁ、あかりさん！ あのアホな浩之の事など忘れて、俺とラブラブに！
 さぁ、その甘いボイスで俺の名を呼んで―――

『おはよう浩之ちゃん』

「・・・」
  それは、当然の結果だった・・・
『おはよう浩之ちゃん』
「・・・う、うぅっ・・・」
 涙が、涙が止まりません・・・

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ！！！」

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 泣け。
 今はただ、がむしゃらに泣くがいい。
 矢島よ・・・キミこそが漢だ！
 たぶん。