正月が楽しみで・・・ 投稿者:MIO
 長瀬は、数々の危険を冒してここまでたどり着いた。
 全ては、マルチの心をあるべき所へ返すためだ。
 彼女の記憶が保存されている場所は、ネットワークを介した電子的な侵入に対し
て、完璧といえるほどの防御能力を有していた。
 自分の設計したシステムが、自分の最大の障害になろうととは・・・長瀬は苦笑
するしかない。
 だが、諦めたくはなかった。
 方法は一つ、単身乗り込み、直接アクセスするしかなかない。
 危険は多い。
 だがマルチは、マルチだけは、長瀬の中で特別なのだ。
 娘みたいなものだ。
 どうしても助けたい。
 長瀬は、危険を顧みず突っ走り、侵入に成功した。
 ちょっと、若返った気分だった。
「マルチ・・・」
 一応、マルチを呼び出してみる。
 ココの設備なら、マルチの人格を機能させるに足りるスペックがある。

 ・・・長瀬主任?

 ディスプレイの文字が、長瀬の名を呼んだ。
「そうです! 私ですっ!」
 よかった、本当に良かった。
 長瀬は、藤田浩之のところで暮らしてもいいんだ、とマルチに告げた。
 マルチは、好きな人とずっと一緒にいていいんだ!
 これでマルチは幸せに・・・

 ・・・いま、何月でしょうか?

「え?」
 妙な事を聞く。
 そんな事、どうだっていいじゃないか。
 なぜ、彼女は喜ばないのだろうか?

 何月でしょうか?

 とりあえず、長瀬はキーボードに打ち込む。
「三月」
 しばらくの沈黙があった・・・

【マルチの思考】

 三月→ 春→ 出逢いと別れの季節→ 忙しい→ かまってもらえない→ なで
なでしてくれない→ 性の不一致→ 破局→ 燃えないゴミの日

【以上、マルチの思考終わり】

 ごめんなさい、長瀬主任・・・

 ディスプレイに表示された文字を見て、ナガセは目をむいた。
「ごめんなさい!? どういう意味です!?」
 わからなかった、いったいどういう事なのか。
「いったいどうして!?」

【再びマルチの思考】

 12月→ 正月→ お年玉→ わ〜い

【マルチの思考、終了】

 12月にもう一度来てください。

「12月!? 12月にいったどんな意味があるというんです!?」
 
 おやすみなさい、長瀬主任・・・

「あ、ちょっと! オイ! コラッ!」
 プツン・・・とマルチとの接続が途絶えた。
 ディスプレイには、「おやすみなさい」の文字だけが残っている。
 長瀬は混乱した。
 人生で一番混乱した。
 そして思った。

「もう少し賢く作れば良かった・・・・」


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 まだ三月じゃないんですがね・・・
 ま、いいのさぁ
 ハハハ〜ン