夢? ああ・・・なるほど、夢ね 投稿者: MIO
 街を歩いていると、セリオとマルチが、仲良く買い物しているのを見かけた。
 いいねぇ・・・あの二人が並んで歩いてると、なんとなくホッとするぜ。
 ヒマだった俺は、二人に声をかける事にした。
「お〜い! マルチ! セリオ!」
 俺の声に、振り返る二人。
 キョロキョロするマルチに、セリオが俺を指差して教える。
 俺に気づいたマルチは、急いで駆け寄ってきた。
 タタタタターーーーーッ!
「こんにちわ、浩之さん!」
 ペコッ!
「こら、マルチ、気づくのが遅いだろ」
「すっ、すいませ〜ん」
 よしよし、言い訳しないのは、いい心がけだぜ。
「特別に許してやろう」
「わあ! ありがとうございますー!」
 マルチは、心の底から嬉しそうに微笑んだ。
 なんか・・・ふざけ半分だった俺の方が、馬鹿みたいだな。
「よぉ、セリオも元気にしてたか・・・ん?」
 あれ? 
 ふと、セリオに目をやった俺は、やっと異常に気づいた。
「セリオ・・・おまえ」
「なんでしょう?」
 糸・・・糸だ。
 セリオの胴体や頭、それに手首や足首にも、糸が生えてる。
 蜘蛛の糸のように細いソレは、定規で引いた線のように、真っ直ぐ上に伸びて・・・
「・・・」
 ダメだ。糸はものすごい高いところまで伸びていて、どこにつながっているの
か、全く分からなかった。
「セリオ、おまえ、糸が生えてるぞ?」
「糸・・・ですか?」
 頭につながる糸が、くいっ、と動っくと、セリオは首をかしげた。
 操られてる・・・ように見える。
「おい、その糸・・・なんなんだよ?」
「なんだと申されても・・・、本当に生えていますか?」
「あ、ああ・・・バッチリ生えてるぜ」
「どこに?」
「手首とか・・・足とか頭とか・・・いろんなトコロに」
「・・・」
「・・・」
「それは・・・まるでマリオネットのように?」
「あ・・・」
 ・・・そ、そうなのか?
 この糸が、セリオを操っている・・・マリオネットの糸?
「私には見えません・・・」
 セリオは、はるか上空を見据える。
 眉根を寄せたその表情は・・・ちょっと怒っているようにも見えた。
「マルチさんに『糸』は?」
「え・・・あ、マルチか・・・」
 マルチを見ると、きょとんとした顔でこっちを見ている。
 その小さな体には・・・
「はえてるよ『糸』が・・・」
 マルチの糸は、セリオと違って、ごちゃごちゃに絡まっていた・・・
 が、確かに糸は生えている。
 なんだか・・・嫌な気分になる。
「そうですか・・・」
 なんだそれ? その・・・その『そうですか・・・』に含んだ感情は・・・
 感情?
 なんだ? え? あれ?
 俺は困惑する。
 今、確かにセリオは悲しそうな・・・
「浩之さんに頼みがあります」
 俺の思考を遮る、クールな台詞。
「糸を・・・切ってはもらえませんか?」
「え? そ、そんなことして、大丈夫なのかよ!?」
「分かりません」
「分かりません・・・って、オイ!」
「早く切ってください」
「で、でも・・・」
 セリオは、糸の生えた手首を、俺に差し出す。
「さあ、早く・・・」
 え? え? え? え? え?
「切って・・・」
 ダメだ! そんなこと・・・
「どうか・・・私を・・・」
 死んだらどうするんだよ!? 
「かまいません・・・一度でいい、ヒモを切ってくれれば・・・それで・・・」
 や、やっぱりダメだっ!
「なぜ?」
 だ、だって! だって、ハ・・・ハ・・・・


 ガバッ・・
「ハサミがないっ!!!」
「きゃっ!」
 え? あれれ?
 気がつくと、俺はベットの上で絶叫していた。
「え? う・・・あ、あれは夢?」
 マジで?
「はぁ・・・」
 俺は一気に脱力した・・・なんだ・・・夢かぁ・・・
 顔を上げると、目の前にあかりの顔があった。
「浩之ちゃん、大丈夫?」
「・・・あかり? どうして、おまえ・・・」
 思考に霞がかかったまま、そんな事を聞くと、あかりは急にしどろもどろになっ
て言い訳する。
「あ、あのっ! 浩之ちゃんがなかなか起きてこなくて! な、何度も呼んだんだ
よ! でもね、あのね、鍵が開いててね! 悪いと思ったんだけど、浩之ちゃん
が、なんか、悪い病気だったりしたら大変だ、って思って! それで、二階に上っ
てきたら何だかうなされてて・・・それで・・・」
「ストップ、あかり、もういい」
「・・・ゴ、ゴメンね」
「いや、いいんだって」
 はぁ・・・にしても夢で良かった。
「あ、浩之ちゃん・・・」
 でも、俺の最後の台詞・・・
「ねぇ、ソレなにかな?」
 『ハサミがない』には、我ながら笑うなぁ。
「その頭とか、手首とか・・・生えてるの」
 ・・・え?
「ねぇ、浩之ちゃん、浩之ちゃんの体から・・・」
 ウ、ウソだろ!?
 お、おい!
「待て、あかり! 頼むから、その先は言う―――」

「糸が生えてるよ」
 
 ・・・・・
 ・・・・・
「ホ、ホントだ・・・」


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 切ったらどうなるんでしょうねぇ?
 でも、糸が生えていない人って・・・いないでしょう。
 それ、当たり前の事ですから、たぶん。
 あれ? 違う? いや、ヒトそれぞれですって、たぶん。
 俺の場合は、切ったら、消えてなくなるんですよ、たぶん。