ポリプロピレン 投稿者: MIO
 かぽーーーーーーーーーーーーーーーん!

 楓は、お風呂が大好きだ。
 日本茶も好きだが、やっぱりお風呂は大好きだ。
 たまーーーーーに、
「日本茶のお風呂に、入れたらいいな・・・・」
 と、本気で思う。
 それくらい好きだ。

 その日も、楓は風呂を堪能していた・・・

(気持ちいいな・・・)
(この世に、これより気持ちいい事ってあるのかな?)
(きっと、無いよ。)
「ふぅ・・・」
 姉や、妹と入る風呂もいい・・・でも、一人で入る風呂も、すごくいい。
「はぁ・・・」
(そろそろでなきゃ・・・名残惜しいけど、のぼせたら大変)
 楓が湯船から立ち上がろうとした、その時・・・二つの偶然が重なった。
 まず、洗面器が、どういうわけか、ひっくり返っていた。
 そして、楓の視線が、ピタッとそこに合ったのだ。
 洗面器の裏には、洗面器を作った会社や、正式な商品名、じつは香港で作られて
いる事などが、事細かに書かれていた。 
 そして・・・
「ポ、ポリプロピレン・・・」
 その洗面器は、ポリプロピレンという材質で作られていた。
(ポ、ポリプロピレン・・・よりにもよって、ポリプロピレン)

「ぷっ・・」

 ツボだった。
 楓は、洗面器の裏っかわを、何度も見返す・・・
(やっぱり、なんどみてもポリプロピレン)
「ぷぷぷっ・・・」
(お、おかしい! なんでこんなにおかしいの!?)
 なんだか、どんどんおかしくなる。
 そして、そんなくだらない事に笑っている自分が、もっと面白い。
「う、うぷぷっ・・・」
(ど、どうしてこんな名前を付けたんだろう?)
 そう考えた瞬間、楓の頭に次のやり取りが浮かびあがった! 

『ポリプロピレーン博士、ついにやりましたね!』
『ああ、ついに新素材を発見したピレン! これでノーベル賞はいただきピレン!』
『ポリプロピレーン博士! この新素材の名前はどうします?』
『うむ・・・私の名をとって』
『名をとって?』
『ポリプロピレンだピレーン!』

「うぷーーーーーーっ!!」
(おかしいっ! すごくおかしいっ!)
「ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・」
(ポリプロピレーン博士なんて、そんなへんな名前の人、いるはず無いのにっ!)
「うぷぷっ! ぷぷぷーーーーーーーっ!」
(しかも、語尾に『〜だピレーン』って? なんですかそれはーーーっ!)
(おかしい! もうだめ! もう笑う! もう笑ってしまう)
 楓は限界に来ていた。
(ダ、ダメ! 落ち着くの! 落ち着いて楓! そう、深呼吸・・・)
「すーーーーはーーーーー! すーーーーーはーーーーー!」
(ふぅ・・・)
 今までの熱っぽさが、うそのように引いていく。
 楓は、何とか落ち着きを取り戻し、心から安堵した。
 それが・・・命取り。

(ふぅ、何とか落ち着いたピレーン)

「ぶっ!!」
(ピレーンて!? ピレーンてあんた、自分で言うとるがな!)
「ぶぶぶっ」
(もうだめ、笑う! 絶対笑う!)


「ぶわははははははははははははははははははははははははっ!!」

 
 その頃、居間では、楓の大笑いを聞いて、初音がため息を吐いた。
「お姉ちゃん、また笑ってるよ」
 千鶴もあきれたように首を振る。
「あれは・・・ちょっと病気ね」