それいけ! メイドロボ 投稿者: MIO
学校から帰り、録画しておいたドラマの再放送を見る。
これは、ここ最近の俺の生活パターンと化していた。
いつもと違うのは、マルチが隣に居る・・・ただそれだけだ。
マルチと暮らし始めて、もう1ヶ月になる。
俺はまだ高校生・・・っつーことは、かなり設定と違う。
ま、所詮は一人よがりなSSなんだから、気にしなくてもいいじゃないか。
うん、いいんだよ。
ね? ダメ?
「・・・・」
マルチは、俺の横でニコニコとドラマを見ている。
結構ハードなストーリーなんだがなぁ・・・
ホラ、ここで刑事が死ぬんだ。
『なんじゃこりゃぁっ!』
ホラ、血塗れで、ホラホラ・・・って、なに笑ってんだよマルチ。
「ご主人様ぁ〜」
マルチが、相変わらずのニコニコ面で俺に話し掛けてきた。
「あん?」
テレビから目を離さずに答えたが、マルチは気にせず続ける。
「ほわいとでーは、何をくれるんですかぁ?」
「・・・」
「?」
「お前なぁ」
「はい」
「バレンタインデーに何もくれなかった奴が言うか? そんなことっ!」
がーっと吠えた俺に、マルチはにっこり微笑む。
「バンアレン帯デーってなんですか?」
「バレンタインデーだっ! バ・レ・ン・タ・イ・ン!」
「羽煉蛇陰?」
んな、頭の悪い暴走族みたいな・・・
「違うわっ!」
「あわわ・・・ご、ごめんなさーいっ!」
ちっ、しゃーねーなぁ・・
とにかく泣いて謝るマルチに、俺はちゃんと説明する事にした。
「バレンタインってのはなぁ・・・好きな奴にチョコレートを送る日の事だ!」
かなり、おおざっぱだが・・・
「ふむふむ・・・」
おっ、メモってるな・・・よしよし、いーこだ。
「そして! ホワイトデーは、そのお返しを送る日なのだっ!」
「ほうほう!」
「わかったか?」
「はい! なんとなくは!」
なんとなくぅ?
俺がいいかげん呆れ返ったそのとき、マルチが素っ頓狂な声を上げた。
「あっ!?」
「んだよ、まだなんかあんのか?」
「わ、わたし・・・ご主人様にチョコレートもらってませーんっ!」
「あ?」
「そうだったんですね!? わかりました、マルチはよおっく理解しましたっ!」
「あ、あのな・・・」
「燃えないゴミの日は今日ですよねっ!? ねっ!?」
「マ、マルチさん?」
「・・・い、いままで、お、おぜばにばみぶべばぁーーーーっ!」
なに言ってるのか、全然分からんぞ・・・
「ぶびばびば、ぶべぼぼべもみぱっ! ぶまぁーっ!」
涙に濡れるマルチは、溺死寸前の宇宙人みたいな奇声を上げると、家を飛び出していった・・・
「マルチ・・・」

3時間後、セリオに保護されたマルチが、泣きながら帰ってきた。
セリオは、マルチを拾ったあらましを説明してくれた。
「マルチさんは、燃えないごみの日が三日後だと言う事に気づき、散歩で暇をつぶ
そうとして道に迷い、挙げ句の果てに犬に追いかけられ、必死で逃げている最中
に、人様の盆栽に壊滅的な打撃を与えて、弁償として有り金むしられて、フラフラ
になったところで、長瀬主任の後ろ姿を発見し、飛びついたのはいいのですが、実
は人違いで、その男は、実は、医者に変装したヤクザの鉄砲弾だったのです。マル
チさんは偶然にもヤクザの組長を凶弾から救う事に成功し、組長に気に入られ『わ
しの妾にならんか?』と誘われ、困ったマルチさんは『いいえ、結構です』と断っ
たのですが、その事で『男の純情をなんだと思っとるんじゃ、ワレ』と怒りを買
い、簀巻きにされて東京湾に放り込まれてしまったのです。東京湾の底に沈められ
たマルチさんは、必死の思いで救難信号を発信しました。そして、発信されたSO
S信号を、偶然にもこの私が受信し、マルチさんを救い出し、同時に、ヘドロにま
みれた謎の魚もゲットして、料理して綾香お嬢様に食べさせたところ、『とっても
おいしいわっ!』 とお褒めに預かり、魚の正体や、その毒性など、不明な点は多
かったものの、私はとっても嬉しい気持ちになりまして・・・、ああ、その後、マ
ルチさんを車で送って差し上げようとしたのですが、セバスチャンさんが、『ヘド
ロ臭いではないかっ!』と怒るので、仕方なく歩いてきたというワケす・・・」
3時間でそれだけやったのか・・・?
「ずびまぜ〜んっ! 私の勘違いでしたーっ!」
「あ〜、よしよし、いーこだから、泣き止もうねー」
俺は、泣きながら謝るマルチを抱きしめて、頭をなでなでしてやった。
やれやれ・・・
あれ?
「どうしたセリオ? 帰らないのか?」
「わたし、マルチさんを危機一髪のところで助けたのですが・・・」
な、なんだよ、お駄賃でも欲しいのか?
「偉かったですか?」
「は?」
「マルチさんを助けた私は、偉かったですか?」
「・・・」
「・・・」
「あ、ああ・・・とっても偉かったぞ」

「・・・ありがとうございます」

俺は、セリオもそんな表情をするんだな・・・と、妙に感心した。