ウォッチング 投稿者: MIO
 綾香は、クロゼットに隠れてじっと待っていた。
 セリオをだ・・・
 セリオは、毎日午後2時きっかりにあやかの部屋を掃除する。
 綾香はクロゼットの中で、セリオを待っている。
 稽古までサボって・・・
 やがて、時計の針が午後2時を指した。
「失礼します」
 セリオは、部屋には誰もいないというのに、バカ丁寧にお辞儀をして部屋に入っ
てきた。
 掃除用具一式を、ドスンと置いて掃除に取り掛かる。
「・・・・」
 セリオは、黙って、まじめに掃除した。
 きちんと、ちゃんと、しっかりと掃除した。
 散らかっていた雑誌を片した。
 触るなと言われていたモノは、ちゃんと触らない。
 テキパキ動いた。
 あっという間に、部屋は整理整頓された。
 だが・・・綾香は、こんな光景が見たかったわけではない。
(まだなの?)
 その時だ・・・
 セリオが、綾香の部屋のホコリの多さを見かねて、
「・・・しかたありませんね」
 掃除機を取り出したのだ。
(セリオったら・・・)
 綾香は、他人が自分の部屋をいじるのは、あまり好きではない。
 掃除も、できるだけ簡単にしてくれと、言いつけてある。
「・・・でも、ホコリ・・・」
 精密機械のセリオは、ホコリが電磁波の次に嫌いだ。
 その次に嫌いなのが、手のかからない人間。
 お世話するのが生きがいです。
 いや、マジで・・・
 
 ゴォォォォォッ

 割と古い型の掃除機が、ホコリを吸い始めた、その時・・・
(あっ・・・)
 綾香は、思わず声を漏らしそうになった。
「・・・」
 耳を澄ますと、ホラ・・

「ららら〜・・・るるるら・・・ららら〜」

 セリオが歌った。
 掃除機の雑音の間から、確かに聞こえる。
(歌ってる! セリオが鼻歌を歌っている!)
 クールな表情に似合わず、小鳥の囀るような愛らしい声で、セリオは歌った。
「らららら・・・るる・・・」
 歌いつづけた。
(セリオ・・・)
 綾香は深い感動を覚えたのだった。
 やがて、掃除を終えたセリオは、綾香の部屋から出ていったのだが・・・
「はぁ・・・いいもの見ちゃった」
 綾香は、いまだにクロゼットの中いて、感動の余韻を味わっていた。
「稽古サボって良かったぁ・・・」
 再びため息を吐く綾香であった。


【セリオの視点】
 
 綾香の部屋を掃除していたセリオは・・・
(なぜ・・・)
 掃除しながらも、疑問に思う。 
(なぜ、綾香お嬢様は・・・稽古にも行かず、クロゼットの中などに・・・)
 わからない。
 わからないが、あのご主人様は、時々理解不能な事をする。
 気にしていてはキリがない。
 だいたい、それを言うならば、藤田浩之や、そのゆかいな仲間達などは、もっと意味不明な部分があるではないか。
 綾香などは、まだマシな方だ。  
 でも、綾香お嬢様は、何かと手間が掛かってイイ。
 とてもイイ。
 好きってコトさ。
「・・・そう」
 セリオは、知っていた。
 意外にも、芹香より綾香の方が、手間が掛かるという事を・・・
 最初から、メイドロボの本能で察知していたのだ。
「・・・たとえば」
 今日なんか、稽古をサボってクロゼットに入っているのだ・・・
 なんて不可解な人だろう。
 なんて手間のかかる人だろう。
 あの人は、お世話しないとダメな人だ。
「・・・・」
 なんだか嬉しくなった。
 あんなに手間の掛かるご主人様に巡り合えるなんて・・・
 私はツイている。
 あぁ、ああいう手間のかかる人を、一生お世話できるなんて・・・
(・・・はっ!)
 待てよ?
 もし綾香が、藤田浩之と結婚したら、どうだろう?
 メイドロボの間で行われている秘密の統計で、お世話したい度No.1に位置す
るくらい手間の掛かる藤田浩之と、手間の掛かる綾香が結婚したら?
(・・・子供・・・子供!?)
 子供が産まれたら、いったいどれくらい手間が掛かるだろうか?
 手間のかかる遺伝子の結晶とも言える、二人赤ん坊は、いったいどれくらい手間
が掛かるんだろう?
「・・・・」
 セリオは、ものすごく楽しい気持ちになった

「ららら〜・・・るるるら・・・」

 セリオは歌った。