やっぱり、矢島をいぢめたい・・・ 投稿者: MIO
 やぁ、みんな!
 俺の事覚えてるか?
 ・・・・・
 そ、そうか・・・忘れてたのか。
 じゃ、あらためて自己紹介だ、俺の名は矢島!
 神岸あかりさんを海よりも深く愛するナイスガイだっ!
 このあいだのバレンタインでは、残念ながら、神岸さんにはチョコをもらえな
かった・・・だがっ!
 俺は負けないぞ! ネバーギブアップが、俺のポリシーだ!
「おや!?」
 噂をすれば何とやら! 俺の前を歩いているのは、麗しの神岸さんじゃないか!
 女神のように優しい神岸さんは、普段は幼なじみの藤田浩之(性格の悪いダメダ
メ男だ)と一緒に登校しているおかげで、いつも遅刻ぎりぎりだ。
 それが、今日に限って一人で登校している!
 これは・・・運命だろう。

「おはよう! 神岸さん!」
「あ、おはよう矢島君」
 ああ、なんて美しい微笑み・・・ 
「今日は、藤田のバカは?」
「うん、浩之ちゃん、風邪ひいちゃったみたいで」
 あのバカが風邪をひく?
 ますます、天の巡り合わせとしかおもえない! 
 チャンスだっ!
「神岸さん! 俺と・・・俺と付き合って下さい!」
「ヤダ」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの、ちょっとでいいんですけど」
「ごめんね、矢島君とだけは・・・・」
 神岸さんは、そこでスゥッと息を吸った。
「絶対にイヤ」

 振られた・・・・
 しかし! ネバーギブアップだ!
 
 放課後、俺は再び神岸さんに遭遇した!
 なんか、最近神岸さんに避けられている俺は、このチャンスを逃せなかった!
 今度は、ワイルドに行こう!
「好きだぁ!」
 俺の絶叫に、神岸さんが振り返った。
「またか・・・」
「大好きだぁっ!」
 好きで、好きでたまらないっ!
 この気持ちを伝えたいっ!
「めっちゃ好きやねん!!」
「・・・誰を?」
「そりゃぁ、神岸あかりさんをです!」
「私は嫌い」
「あかりちゃんって呼んでもいいですか?」
「ダメ」
「もぉ、たまらんほど好きです!!!」
 法的に許されるなら、抱きついて押し倒して、ほっぺにスリスリしたいほどで
す!
「あ、時間だ・・・矢島君バイバイ」
「か、神岸さぁん! もとい・・・あかりさぁん!!!」

 あ、名前で呼んでしまった・・・
 一歩前進。
 でも・・・また振られたな。
 しかしネバーギブアップだ!
「・・・でも、いつになったら振り向いてくれるんだろうか」
 なんか、永遠に振り向いてくれないような気もする。

「今日は2連敗だな・・・」
 夕焼けの河原にたたずみ、俺は思わずつぶやいた。
 なんだかんだいって、心の傷は深い。
 俺とあかりさんの心は、川のこっち側と向こう側くらい離れているんだ・・・
「ダメだ俺! そんな事考えちゃぁ・・・」
 でもなぁ・・・
「はぁ・・・、川の両岸なんて永遠にくっつかないのかもなぁ・・・」
 ・・・・
 いやっ! そんな事はないハズだ!
 俺が・・・このオトコ矢島が証明してみせる! 
「よおおおし!」
 俺は、河原で石を2コほど拾い、川に放り投げた。
 いつか、この俺の投げた石が、川のこちら側と向こう側をつなぐ日が来るだろ
う。
「その日が、俺とあかりさんが結ばれる日なのだっ!」

  その日から、俺は振られる事に恐怖を感じなくなった。
 振られるたびに、俺は川に小石を投げる。
 俺は諦めない。
 いつか、この小石が川の両岸をつなぐまで・・・
 
 
 
 その後・・・

「みなさま、右てをご覧くださいませ」
 バスガイドの、やけにハキハキした声に、老人達がいっせいに自分の右手を見
た。
 バスガイドは、ちょっとアレな老人たちを無視して、元気よく続ける。
「ちょうど、あちらに見えますのが、日本でも有数の高さを誇る建造物・・・」
 それは、山のようにも見えた・・・

「『ヤジマ・ピラミッド』でございます」

 大きな川を塞き止めるようにして作られた巨大なピラミッドは、山のあいだから
顔を覗かせていた・・・
 全高100メートルを超えるこの巨大な建造物が、すべて小石で出来ていようと
は、誰も信じまい・・・
 バスガイドの説明は続く。
「この『ヤジマ・ピラミッド』は、ある一人の男子高校生が―――」
 結局、説明に夢中になったバスガイドは、
 バスの一番奥の席に座る老女が、
「・・・がんばったのね、あなた・・・」
 位牌を胸に泣いている事に、
「彼は、意中の女の子に振られるたびに、小石を―――」
 最後まで気づく事はなかった・・・

「つまるところ、この矢島という男子高校生が、彼女のハートをゲットすることが出来たかといいますと、それは―――」

 バスはトンネルに入り、耳の遠い老人達はその先を聞き取る事が出来なかった。
 結局、矢島のその後を知っているのは、バスガイドと運転手・・・

 それに、矢島の位牌を胸に抱く、一人の老女だけである・・・


 おわり
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 ども、MIOです。
 また矢島をいじってしまいました・・・
 ゴメンなさい。
 いいよね? ゆるしてくれるよね? ね?