社会と会社 投稿者:MIO
 はい、私、藍原瑞穂です。
 え? 知らない? 
 ・・・で、ですよね、あの、一応「雫」に出演してます。
 はい? だからどうした? 
 ・・・あの、私、今日から社会人一年生なんです。
 それでですね、張り切って頑張ろうかなぁって・・・・
 ご、ごめんなさい! どうでもいい話ですね、これって・・・
 あ、でも、私、自立するの夢だったし、理想の会社に就職できたし、だから、これからは、積極的に、前向きに生きて
いこうかなぁ、って考えてて・・・

 しゅっ!

「藍原さん・・・」
「あっ、部長っ! おはようございますっ!」

 デスクの影から飛び出してきたのは、部長の月島瑠璃子さん。
 仕事が出来て、美人で、暗くてじめじめしたところが大好きな、私の理想の上司です。

「どうしても、みずピーに・・・・」
「私に、何かご用でしょうか!?」
 憧れの上司に声をかけてもらえて、私はとっても張り切っています。
 頑張らなくちゃ!
「お仕事・・・」
「えっ! し、仕事ですか!? 新入社員の私にできることですか? ですよね? 頑張ります!」
「それで・・・」
「選ぶんですか? 何をですか?」
「これ・・・・」
 月島部長は、懐から二つのものを取り出しました。
「一つは・・・どうしてもみずピーに頼みたい、超重要な書類・・・・もう一つは・・・カナコちゃん人形」
「・・・」
「どちらか一つを、選んでね」
 にこっ・・・

 どちらか一つ!?
「どちらか一つしか・・・ダメなんですか!?」
 狼狽した私の質問に、月島部長は頷きました。
「そうだよ、どちらか一つだけだよ・・・」
「そ、それじゃ、カナコちゃ・・・」
 はっ!?
 ダメよ、ダメダメよ! 今はダメ!
 せっかくもらえたお仕事よ、みずピー! 社会人になったからには、責任を持ってお仕事を・・・
 その時、月島部長がカナコちゃん人形のおなかを押しました。
 すると・・・

『コンニチワ、ワタシ、カナコヨ・・・・コンニチワ、ワタシ、カナコヨ・・・コンニチ・・・』

「しゃ、しゃべるんですか!?」
「うん」
 はぁぁぁっ・・・・
 ほしい! 喉から手が出るほどほしい。
 その欲求は、銀河を駆け巡る閃光となって、ブラックホールを打ち落とすぜ、チクショーめ!
 でもダメ・・・みずピーはもう、社会人なの!
 毎日をタラタラと面白おかしく過ごしていた、あの青春時代とは違うの!
 みずピー、ファイト! 邪悪な欲望と闘うのよ! 私の中のサラマンダー出て行け!
 出て行けっ!
「・・・で、みずピー・・・・どっち?」
「私は・・・」
「・・・」
「私は・・・」
 ああ、
「カナコちゃん人形をください!」
 って言えたら、どんなに楽だろう。
 うふふ、でもね・・・

「書類の方を、くださいっ!!!!!」

 その時の私の瞳は、輝いていたに違いない。
「じゃ、がんばってね・・・」
 しゅっ・・・
 月島部長は、私に書類を渡すと、すぐに消えてしまいました。
 私は後悔しない・・・・
 後悔しないはずなのに・・・
「どうして、涙が流れるのかな?」
 まだまだダメね、みずピー、ガンバッ!

 その時、物陰で私を見つめる人影がありました。
 私は気づかなかったのですが、それは・・・・
「大人になったわね・・・・瑞穂」
 やがて、産業スパイとして我社にやってきた加奈子ちゃん本人と、私が、社運を賭けて対決することになろうとは、
この時の私には想像も出来なかったのです。
 
 そんなこんなで、社会人一年生の相原瑞穂は、今日も頑張ってます!


「ところで、瑠璃子さ・・・・月島部長。新入社員の藍原君に、いったいどんな仕事を任せたんです?」
「ぬり絵」
 くすくすくすくす・・・・