とこむら酒店の男 投稿者: MIO
 昼飯を食い終わって、黙ってテレビを見ていると、
「耕一ってさ、床村酒店のオヤジにそっくりだよなぁ」
 梓が食器を片付けながら、そんな事を言った。
「・・・」
「いや、ホント、そっくりだよ」
「・・・」
「・・・」
「なぁ、梓」
「ん?」
「その・・・床村酒店のオヤジって、誰だよ」
「えっ!?」
 梓の動きが止まった。
 意外に整ったその顔は、驚きの表情で彩られている・・・
「誰って、床村酒店の・・・」
「だから、俺は知らないぞ」
「・・・」
 梓は、俺の顔をまじまじと見てから、フゥとため息を吐いた。
 な、なんだよ・・・
「耕一ぃ、しっかりしろよ」
「してるよっ! 知らないものは、知らないんだって!」
「ホントに知らないの?」
「知らない!」
「と・こ・む・ら・・・だぞ?」
「知らんっ!」
 俺は必死で思い出そうとするが、床村なんて人は、やっぱり知らない。
 しかし梓は、知ってるはずだと、しつこく食い下がった。
「だって、昔は、お年玉とかくれたじゃないか」
「はぁ?」
「ほら、耕一が小さいとき、山で迷子になったときも、一生懸命さがしてくれた
じゃないか」
「???」
 ますます、わからなくなった・・・誰なんだよ、床村って!!?
 俺の脳みそが、オーバードライブでぶすぶす煙を噴き出したとき、ちょうど初音
ちゃんが通りかかった。
「梓お姉ちゃん、耕一お兄ちゃん・・・なにやってるの?」
 初音ちゃんは、天使の微笑みで首をかしげた。
 そうだ、初音ちゃんなら嘘がつけない!
 どうせ聞くなら、この娘だ!
「なぁ、初音ちゃん! 床村酒店のオヤジって知ってる?」

「うん、耕一お兄ちゃんにそっくりだよね」

「・・・」
「・・・」
「・・・マジ?」
 初音ちゃんは、コクンとうなずいた。
「マジだよ。床村おじちゃんって、耕一お兄ちゃんにそっくりなんだ。60過ぎだけど」
「60過ぎ!」
 なんか頭が真っ白になった。
「あのオヤジ、見た目が若いよなぁ」 
「そうだよねぇ」
 二人は、楽しそうに『トコムラ』という男のことで盛り上がった・・・
 俺は、混乱の極みだ。
「そうだ、床村おじちゃんなら、さっき家の前であったよ」
「なにっ!」
 俺は、初音ちゃんの言葉を最後まで聞かず、今を飛び出した。
 廊下を走り、
 ドタドタドタ・・・
 玄関から飛び出す、
 がららっ!
 そして・・・

「いない・・・誰もっ!」

 俺を出迎えたのは、寂しげな風景だけだった・・・
 誰だっ!
 床村って誰なんだぁっ!
「あら、耕一さん?」
 振り替えると、千鶴さんと楓ちゃんが、立っていた。
「千鶴さん、楓ちゃん?」
 憔悴した俺とは対照的に、千鶴さん明るくニッコリ笑った。
「途中で一緒になったんです」
「・・・なったんです」
「そ、そう・・・」
 そんなことより、床村だっ!
 千鶴さんと楓ちゃんに、床村のことを尋ねようとすると、一足早く千鶴さんが言っ
た。
 
「あら、そういえば・・・途中で床村さんに会ったんだわ」

「えっ!?」
 千鶴さんの衝撃の発言に、俺は硬直した。
「と、と、と、床村に会ったの!?」
「ええ、耕一さんに手紙を預かりました・・・ホラ、楓」
 千鶴さんに促され、楓ちゃんは、かばんから一通の手紙を取り出した。
「・・・これです」
「ありがとっ!」
 差し出された、手紙を引っつかみ、慌てて広げる。
 真っ白な紙には、ひどく上手な字で・・・

『耕一くん、約束のアレは、再来週までに何とかするから』

「・・・」
 なんだ!? アレってなんだっ!?
 いやそれより、床村って誰なんだよ!!
 なんで俺のことを知ってる!!!
「床村さん、なんて言ってました?」
 千鶴さんがにっこり微笑んだ。
「耕一さん、床村さんに三千円は返しましたか?」
 楓ちゃんが、当たり前のように聞いてくる。
「・・・・お、俺は・・・・」
 その時、千鶴さんが俺の後ろを見て、にっこり笑った。

「あら、床村さん!」

 えっ・・・
 俺は大急ぎで振り向いた!
 が・・・
 突然、全身を激痛が襲い、視界が真っ白になった・・・・
 俺は床村を目前にして、意識を失ったのだった。



 翌日、俺は病院で目を覚ました。
「よかった! 耕一さん、目が覚めたんですね?」
「う・・・こ、ここは!?」
「病院です、耕一さんがいきなり倒れて・・・それで・・・」
 安堵からか、千鶴さんはぽろぽろと涙をこぼし始めた。
 ・・・
 なんだか、あったかい気持ちになった・・・のもつかの間、千鶴さんは、またも衝撃の発言をした。
「・・・床村さんが、耕一さんを、病院まで運んでくれたんですよ?」
 ・・・
「だから・・・」
「?」
「だから・・・」
「耕一さん?」


「だから、床村って誰なんだよぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!!!」


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 ええ、まぁ、そんな感じです。
 最近、ゆっくりタラタラやってます。
 もう少ししたら、大きなプロジェクトでも動かそうかなぁっと・・・
 まぁ、そんなことを考えて生きてます。
 ゆるやか〜に、生きてます。


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