耳をかく 投稿者: MIO
 その日、千鶴さんから電話があった。
 初音ちゃんが風邪をひいたって内容で、それ以外は、何てことない内容だった。
 気が付くと、30分も世間話を続けている。

「でさぁ、耳かき買ったんだ」
「耳かきですか?」
「うん、でも、ただの耳かきじゃないんだぜ」
 俺は、ふっふっふと得意げに笑った。
「えっ、どんな耳かきなんですか?」
 千鶴さんは興味津々だ。
「聞いて驚かないでよ、千鶴さん」
「は、はい」
 ゴクリとつばを飲む千鶴さん。
 ふふっ、なんと、その耳かきは・・・

「光るのさっ!」

「光るんですか!?」
「光るんだよっ!」
「・・・」
「・・・」
「ええっと・・・」
 ちょっと、説明不足だったな
「耳かきの先がね、光るんだよ、ホラ、そうすると、よく見えるだろ」
「・・・」
「・・・」
「ああ、なるほど!」
 千鶴さんは、やっと納得したようだ。
 そして、それから・・・
「スゴイですねっ!」
 と言った。
「うん、スゴイよ」
「すごいすごい」
「ね?」
「はい」
 実際、これは大発明だな、と思う。
 昔からあったらしいが、今まで知らなかった。
 人生を損した気分だ。
「でも、耕一さん?」
「ん? どうしたの?」
「あの・・・耳が明るくなるんですよね?」
「うん、そうだよ」
「誰が、中を覗くんですか?」
「えっ!?」
 あれ?
「耕一さん、一人暮らしですよね?」
 そうだよな、俺、一人暮らしだよな・・・
「自分で、自分の耳の穴を見るんですか?」
「・・・」
「・・・」
「ホ、ホラ・・・鏡とかで・・・」
 鏡で自分の耳の穴を覗き、よく見えると喜ぶ俺。
 一人ぼっちの部屋で、耳かきが光ると、喜ぶ俺。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・千鶴さん、ごめん・・・俺・・・もう、電話切る」
「えっ、どうかしましたか?」
「ん・・・・ちょっと・・・・」
「耕一さん? 耕一さ・・・・」

 かちゃ・・・

「う・・・ううっ!」
 俺は、1人で泣いた。