「長瀬ちゃん・・・ウニ、好き?」 どこまでも続く暗黒の世界。 自分の足の先も見えないほど暗いのに、 「ウニ、好き?」 目の前で微笑む瑠璃子さんだけは、闇を切り抜いたように鮮明だ。 ああ・・・夢なんだなぁ、と思う。 「ウニ・・・」 明晰夢・・・夢を夢と知覚するなんて、とっても珍しい事だ・・・ すごいや・・・ 「ウニ、好き?」 「え?」 「長瀬ちゃんは、ウニ、好き?」 瑠璃子さんは、なにやら儚げな微笑みを浮かべた。 幽かな存在感が、どうしようもなくもどかしい。 「瑠璃子さん・・・あの、せっかく夢で逢えたんだし・・・」 「ウニ」 「・・・」 「・・・」 「う、うん、まあ、キライじゃないケド・・・」 「そう」 にこっ・・・ 優しげな微笑みを浮かべた瑠璃子さんは、後ろ手に持っていた、 「ウニ」 を、僕の眼前に突きつけた。 「紫ウニだよ・・・」 「うっ・・・」 濃い赤紫色の刺が、ゆっくりと、しかし確実にうごめいている。 少し潮の香りがして、なんだか、物凄く嫌な気持ちになった。 「る、瑠璃子さん・・・ウニはわかったからさ、もっと他の事を・・・」 「おいしいよ」 「し、知ってるけどさ・・・」 「食え」 「へ?」 およそ瑠璃子さんらしくない言葉に、僕は間の抜けた声を上げた。 瑠璃子さんは、僕にかまわず続ける。 「ウニ食え、ホレ、ウニ食え」 目の前に、紫色の刺が迫る。 「ちょっ・・・うわっ」 瑠璃子さんは、微笑んだままで、ぐいぐいとウニを押しつけてきた。 「いたっ! いたたたたっ! 瑠璃子さん、ウニが痛い!」 「ウニ食え」 「いててててててっ! 刺さってる! 刺さってますっ!」 「ウニウニ」 「のわたたたたっ! めちゃくちゃ深いっ! いたたたたっ!」 瑠璃子さんの持ったウニは、容赦なくほっぺたに突き刺さる。 僕は悲鳴を上げて――― ガバッ!! 気づけば、僕は布団を跳ね除けていた。 四角い窓には朝の光があふれていて、すずめのさえずる音が聞こえる。 あぁ・・・夢から覚めたのか・・・ ちぇっ・・・せっかく瑠璃子さんに逢えたのに、ひどい夢だった。 その日の昼休み、僕は校庭で瑠璃子さんを見かけた。 「こんにちわ、瑠璃子さん」 「・・・こんにちわ、長瀬ちゃん」 ゆるゆると微笑む瑠璃子さんは、夢の中の姿とそっくりだ。 いや、瑠璃子さんの住む世界は、夢と現実の区別がないのかもしれないけれど・・・ 「なにやってるの?」 「チョウチョの幼虫をつついて、臭い汁を出してるんだよ」 にこっ・・・ 「そ、そう・・・」 妙な間が開いた。 僕は、会話の間に開く、『間』ってやつが苦手だ・・・ 嫌われてるんじゃないか・・・そんな邪推が、僕の頭を支配する。 僕は、無理に話題を振った。 「あ、あのさ瑠璃子さん」 「・・・」 「ウ、ウニ―――」 「・・・」 「ウニは―――」 あっ!!! 「・・・」 「な、なんでもないよ・・・」 「そう・・・」 瑠璃子さんの左手に、馬糞ウニがのっていたので、僕は質問を取りやめた。 世の中には、知らなくてもいい事って、あるよね・・・ 「瑠璃子さん、今日は、電波集めないんだ・・・」 「・・・忘れてた」 そう言って、瑠璃子さんはクスクス笑った。 僕も、つられるようにして笑った。 瑠璃子さんは、笑いながら、僕に囁く。 「ね、長瀬ちゃん・・・今夜も逢おうね」 僕の笑顔が凍った。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− バイトやら、卒業研究やらが、やっと一段落しました。 テンパッてた頭も、少しずつ解凍されていきます。 う〜ん、俺の脳みそも、やっと即興小説に復帰できるかなぁ・・・ げっ! 冬休みが近い! げげげっ! 卒業が近い!! なんだかなぁ・・・ AEさん、メールどうもでした!