太陽にはるかれろ! 投稿者:MIO
 俺、藤井冬弥は、いろんな嫌な事から逃れるため、少し遠くの街に来ていた。
 ここには、俺を知っている人間はいない。
 ボンヤリした彼女も、
 わがままアイドルも、
 泣き虫お姉さんも、
 女々しい幼なじみも、
 マシーン・マネージャーも、
 白髪のバカ兄貴も、
 肉食小リス高校生も、
 ヒゲのおっさんも、
 そしてなにより・・・・

「はるかがいないっ!」
「よんだ?」
「おうわっ!?」
 嘘だ! 馬鹿な! 夢だ! 悪夢だ!
 はるかが、よりにもよってはるかがいるなんてっ!?
「ど、ど、どうしてここがっ!? 誰にも言ってないハズなのに!」
「見て見て」

 はるかは、俺のバックのファスナーを、ちぃーっ、っと開けた。
 まず足を突っ込む、次に胴体、次に両腕、最後に頭を入れて・・・・
「ん」
 バックの中に収まった!?

「んなアホな!?」
「ん」
「でも、確かに家を出る前は・・・」
「駅で、冬弥が切符を買ってる隙に・・・」
「潜り込んだのか!?」
「ん」
「俺は、はるかをぶら下げて旅してたのか!?」
「ん」
 あれ? ちょ、ちょっと待てよ!?
「バックの中身はどうした!?」
「捨てた」
「なんだと!?」
「ん、嘘」
「おどろかすんじゃないっ!」
「あはははははは」
「笑うなっ! で、どこなんだ、俺の荷物は!」
「私のバックの中」
 そう言って、はるかは俺のバックの中から、もう一つバックを取り出した。
 そのバックは俺のバックと同じ大きさで・・・・
「って、ちょっと待て! そのバックどこから出した!」
「冬弥のバックから」
「そうじゃない! はるかのバックはどう見たって、中身がいっぱいで・・・」
 そうだ、俺のバックには、中身がいっぱいだったはずだ!
 それなのに、はるかとバックの中身が、一つに収まっていた!?
 んなアホな!
「はるか! お前どうやって、収まってたんだ!!」
「ん、私のバックはね、押さえると小さくなるの」
「はぁ!?」
「ホラ」
 はるかが押さえると、バックの大きさは半分以下になった。
 もちろん、バック自体が縮んだのではなく、バックを丸めたのだ。
「中身がスポンジだから、縮む」
「おお、なるほど」
「ん」
「つまり、はるかのバックには、スポンジがいっぱい詰まってると」
「ん」
「・・・」
「・・・」
「で? 俺のバックの中身はどうした?」
「・・・」
「・・・」
「あれ?」
「あれ? じゃないっ!!」
「捨てたカモ」
「捨てたで済むかっ! あれには旅行道具一式と、貯金からおろしたばかりの金が・・・」
「ん、災難」
「お前のせいだっ!」
「なんで?」
「真顔で首をかしげるな!」
「急がばクルクル回れ」
「そのことわざは、間違ってる上に適当じゃない!」
「お金貸そうか?」
「お前、もってるのか?」
「いっぱい」
 そう言って、はるかは万札を数枚、懐から取り出した。
「おお、スゴイ!」
「ん、冬弥のバックに落ちてた」
「俺の金じゃないか!!」
「違うよ、落ちてたんだよ」
「俺のバックにだろーがっ!」
「あはははははは」
「笑ってごまかすな!」
「一割ちょーだい」
「やなこった!!」
「ケチ」
「うるさいっ!」
「ん、じゃあ、いい」
「や、やけにあっさり引き下がるな・・・」
「それ、冬弥のお金の・・・」
「知ってるよ」
「・・・冬弥のお金の、カラーコピー」
「・・・って、そりゃ犯罪だぞっ!!!」
「犯罪なの?」
「あたりまえだっ!」
 俺が叫ぶと、はるかは、俺と、俺が握り締めている偽サツを見比べ・・・
「犯罪者だっ!!」
「指差すな!」
「おまわりさーーーーん! 偽札犯でーーーす!」
「お、おいちょっと・・・」
 ぽんぽん 

「君、ちょっと署まで・・・」

「違う!」
「刑務所のメシは臭いってほんと?」
「本当だよ、お嬢ちゃん」
「うがあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 翌日、何とか事情を説明して、俺は釈放された。
「だから、お前は嫌なんだ・・・」
「ん、まったく」
「・・・ツッコむ気にもならんわ」
 朝日がやけに眩しいぜ・・・
 と、よそ見をしていたら、胸に衝撃。

 ドスンッ!

「わっ!?」
「おわっ!」
 どうやら、登校中の高校生にぶつかってしまったらしい・・・
 背の高い、二枚目半の高校生は、俺に手を差し出した。
「大丈夫か、お兄さん」
 以外と、いいヤツらしい。
「あ、ああ・・・大丈夫」
「ゴメン、俺遅刻しそうだからさ・・・」
「ああ、俺は平気だから。それより、急いだ方がいい」
 俺の言葉に、青年は一度頭を下げてから、

「おーい、行くぞ雅史!」

 連れの友人に声をかけた。
 だが、返事がない。
「雅史?」
 青年の困惑した声。
 事態が変な方向へ進んでいる(はるかがいるしな)のを察知した俺は、首を巡らして、青年の視線を追った。
 そこには・・・
「はるか?」

 そこには、童顔の少年と見詰め合う、はるかの姿があった。



 それが、恋の芽生えとかではなく、ただ、同種と巡り合ったための戸惑いということ。

 それが、死合う定めの両雄が、初めて会合した瞬間であること。

 それが、後に『火の七日間』と呼ばれる、戦いの幕開けであったことを、

 俺と、
 藤田浩之という名の、この青年が知ることになるのは、

 12月31日の、緒方理奈ちゃんのコンサート会場でのことである。
 そして・・・


 戦いは続く!!