ブラジル旅行 投稿者:MIO
 朝起きて一階に下りると、いきなりマルチが土下座していた。
 ただでさえ小さいマルチは、土下座するとさらに小さい。

 あんまり小さいので、何か変な生き物に見えた。

 まあ、それはいいとして・・・
「ご主人様!お願いがあります!」
 マルチが大きな声で言った。
「ああ?」
 俺はいまだに寝ぼけ眼である。
「ブ、ブ、ブ・・・」
「?」
「ブラリャロリレロレラッ!!」
「なんだそりゃ」
「・・・・」
「・・・・」
「あ、あのー・・・・、やり直してよろしいでしょうかー?」
「そうしてくれ」
 俺が寝ぼけているのをさっ引いても、ワケがわからん。
「ご主人様ー、どうか私を・・・・」
 マルチは畳にこすり付けていた額を上げ、上目遣いに俺を見据えた。

「ブラジルへ行かせてくださーい!」

「いいよ」
 眠い。
「ありがとうございますー」
 マルチは、ぱっと花が咲いたように笑顔になった。
「この御恩、機能停止するまでメモリーしておきますーっ!」
「別にそこまでしなくても・・・・ふあぁ・・・・いいぞ」
「お土産は何が良いですかー?」
「・・・木彫りの熊がいい」
「わかりましたー!」
 ブラジルと言ったら熊だろう・・・・・ん?そりゃ北海道か?
 なんでもいいや、鮭をくわえた木彫りの熊なんて、どこにだって売ってあるぞ。
「まあとにかく、立派なブラジル・マルチになるまで帰ってきちゃダメだぞ・・・・ふあ」
 ブラジル・マルチ・・・・ってなんだ?
「はい!私、立派なブラジル・マルチになります!」
 マルチはさっそく、準備をはじめた。
 旅費は、どういうわけか長瀬主任が工面してくれるらしい。

次の日

 アロハなワンピースにサングラス、大きな麦わら帽子をかぶったマルチが、玄関にいた。
 本人の趣味だから文句は言わないが・・・・・、あえて私見を言わせてもらうと

 変だ。

 マルチはデカい荷物をフラフラ背負うと、にっこり笑った。
「いいなあマルチは、俺は海外旅行なんてしたことねえぞ」
「でもー、私はダンボールにつめられますからー」
 そういやそうだった。
 飛行機に乗ってる間は充電が出来ないから、マルチはスリープ状態にする必要があるらしい。
 どちらにしろずっと寝てるからと言う理由で、マルチは丁寧に梱包されてから、貨物室に積まれる事になった。
 人権もクソもない。
 ああ、ロボットだっけか。

「ご主人様、お土産楽しみにしててくださいねー」
「木彫りの熊だぞ、忘れるなよ」
「はい!それでは・・・・」
 マルチはぺこりとお辞儀をした。
 お辞儀をしたのはいいが、背負った荷物が重くてもとの姿勢に戻れなかった。
「うーん」
 しばらく四苦八苦していたが、結局そのままの姿勢で玄関から出ようとする。
 そこで、俺はふと思いついた。
「ちょっと待てマルチ」
「はいー?」
 引き止められたマルチは、にっこり振り返る。
「ブラジルって国には、ブラ汁って飲み物があって、それを飲むと胸が大きくなる!」
「はい!それなら志保さんに―――」
「―――というのは、デマだからな」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「ええぇーーーーーーーーーーーーーっ!?」

 やはりっ!!

「そんなっ!?」
「しょうがないやつだな!胸を大きくしたかったら長瀬主任にでも頼めばいいだろーが!」
「そりゃそうだっ!」
 マルチが、マルチらしくない台詞を言って、ぽんと手を叩いた。
「では、ボーンとZカップぐらいに!」
「お前はいいかもしらんが、俺は嫌だぞ!気色悪い!」
「ではどのくらいが良いでしょうか!?A?B?C?D?E?」
「それは考えとく!考えとくから―――」
 俺とマルチは頷き合った。

「とりあえず、ブラジルには行ってきます!!」
「とりあえず、ブラジルには行っとけ!!」

「私、頑張ってブラジル・マルチになってきます!!」
「おう、でないと元が取れないぞ!!」
「行ってきます!」
「よし、行ってこい!!」

 一週間後、マルチはブラジルから帰ってきた。
 木彫りの熊はなかったが。

「サンパウーロッ!!」

 マルチは立派なブラジル・マルチだったっ!!!!

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 今!たった今思いついたネタだっ!まさに即興小説!!
 ピチピチだっ!
 ・・・・・・
 だからどうしたっ!?