そんな美咲さんが、好きったら好き! 投稿者: MIO
 ―――真剣師とは

 ―――真剣師とは、賭け将棋で金を稼ぐ、いわば将棋のギャンブラーのことである。
 

 俺は、今日も『エコーズ』でバイトだ。
 客は二人だけだ。
 由綺と、由綺のマネージャーの篠塚弥生さん。
 弥生さんとマスターは、窓際で将棋を指している。
 俺と由綺は、その様子を遠目で見ていた。

「―――王手です」
 弥生さんの声に、マスターが唸った。
 これで、弥生さんの5連勝だ。

「弥生さん強いな・・・。マスターも、あれでアマ名人なんだぞ」
「知らないの冬弥くん?」
「え?何を?」
「弥生さん、昔は天才棋士って呼ばれてて、将棋会の期待の星だったんだって。」
 そりゃすごい。
「でも、なんで棋士やめちゃったんだろ・・・」
「うん、弥生さんも結構、本気でプロ棋士目指してたらしいけど・・・」
 本気で?弥生さんが?
「なら、ますます変だよ。何で断念したの?」
「うん。私にも秘密だって・・・」


 当時、天才棋士と呼ばれた弥生の前に現れたのは、将棋のルールも知らなそうな少女だった。
 まだ若い。
 弥生よりも年下の少女。
 少女は、不適に笑うと

 ―――賭け金2万円で、真剣のお相手を願いたい。

 真剣とは、賞金の懸かった対局のことである。
 退屈していた弥生は、あっさり承諾した。

 ―――第一局
「王手です・・・」
「!?」
 なす術なく、弥生の敗北。

 ―――第二局
 少女は、パチリと桂馬を置いた。
「―――王手」
「・・・・・っ」
 弥生、生まれて初めての完敗であった。

 弥生が、
 その少女が、巷では『小池重明の隠し子』と噂される、最強無敗の真剣師であることを知ったのは、

 ―――プロ棋士への道を断念した、後のことである。


「そーいえば、美咲さんも将棋は強いよな」
「うん!凄く強い!」
「俺、一回も勝ったこと無い」
「美咲さんね、昔は真剣師だったんだって!」
「しんけんし?なにそれ?」
「よくわからないけど・・・・。カッコイイよね」
「やれやれ、由綺は、本当に美咲さんを尊敬してるんだな」
「うん」


 遠くで聞こえた、冬弥と由綺の会話に、弥生は動きを止めた。
 二人の会話の中に出てきた名前・・・・
 聞き覚えがあった。
「ミサキ・・・、ミサキさん?」
 遠い過去の記憶がよみがえる。
 対局の前、少女は、こう名乗らなかっただろうか?

 ―――私、サワクラミサキっていいます・・・・

「ふっ」
 まさかな・・・・


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 小池重明・・・ 新宿の殺し屋とまで呼ばれた、最強の真剣師・・・らしい。
          なんかの番組でやってた。