はつねの『は』 投稿者: MIO
「世界中の誰〜より、きいっとぉ〜」
 柏木耕一、つまり俺は、便所からあてがわれた自室へ戻る途中だった。
 気分良く鼻歌を歌いながら、廊下を歩いていると、中庭に人影が・・・
「初音ちゃん?」
 初音ちゃんだ
 中庭で何かやってる。
 俺は、サンダル突っかけて中庭に降りた。
「なにやってるんだい、初音ちゃん?」
 俺の声に、初音ちゃんは振り返って
「投げてるの」
 と言った。
 要領を得ない。
 だから俺は再び聞いた。
「なげるって・・・・何を」
 俺の問いに、初音ちゃんは
「歯だよ」
 歯!?
「抜けた歯を屋根の上に投げると、次の歯が早くはえてくるんだって」
「・・・・」
「・・・・」
「あ、あはははははは」
「どうしたの?」
「初音ちゃん、それは乳歯の・・・」
 俺の言葉に、初音ちゃんはにっこり笑った。
 そして言った。

「うん、だから乳歯をなげてるの」

 乳歯!!
「あー、一つ聞いていいかな」
「なあに?」
「初音ちゃんはたしか・・・・こーこーせー・・・・」
「そうだよ」
 なのに乳歯!
 いや、まてまて!!
 落ち着け耕一!
 乳歯じゃなくて入試かもしれないぞ!
 ふう、謎はすべて解けたぜ!
 もう、俺のあわてんぼ!
 こつん!
「そーか、そうだよな!でもさ、入試なんて受かっちまえばこっちのもんだよな!」
「なに?」
「だから入試」
「ちがうよ、お乳の歯って書くんだよ」
 おちちのは!
 お父の母!?
 婆ちゃん!?
 いや!違う!これはなんか無理が・・・
 じゃほんとに乳歯!?
 高校生にもなって!?
 初音ちゃんには乳歯が!?
「う、嘘だっ!」
「お兄ちゃん?」
「うそだーーーーーーーーっっっ!!!!!!」
 俺は駆け出していた。
 そうさ、嘘に決まってる!
 初音ちゃんの、他愛のない嘘さ!
 でなきゃ俺は・・・・
 いくら暗かったからとはいえ・・・
 歯も生えそろってない女の子と・・・
 は、犯罪じゃないか!
 俺は犯罪者!?
 性的倒錯者!?
 ド変態!?

「うわああああああああああああああん!!!」

 俺は泣きながら、住み慣れたアパート帰ったのであった。

 走って。