アルバイトの女 投稿者: MIO
「初音ちゃんがアルバイト?」
「はい、夏休みに入ってから始めたみたいです」
 へえ・・・・
 ま、初音ちゃんも高校生だしなあ、バイトぐらいするだろう。
 でも、どんなバイトだ?
「千鶴さん、初音ちゃんのアルバイトって何?」
「え?」
 俺の言葉に、千鶴さんは首を傾げ・・・・
「あら?なんだったかしら?」
 おいおい・・・
「ごめんなさい、ちょっと失念して・・・・、梓〜っ!」
 千鶴さんに呼ばれ、梓が台所から首を出す。
「何?」
「初音って、なんのアルバイトしてるのかしら?」
 しかし、これまた梓も首をひねる。
「え?私は知らないぞ・・・・、楓、知ってる?」
 梓は隣の楓ちゃんに聞くが、楓ちゃんはフルフルと首を振った。
「知らない・・・・、でも・・・・」
 でも?
「でも・・・、なんなんだい?」
 俺の問に、楓ちゃんは一枚のメモ用紙を取り出して見せた。
「アルバイト先の住所のメモ、拾いました」


「え〜っと、次の角を左・・・・になるのかな?」
「耕一、しっかりしろよ」
「あのなあ、お前の地元だろうが!」
「暑いんだよ。ホレ、私は喫茶店の千鶴姉呼んでくるから、バイト先確認しとけ」
 バイト先を探すのは俺、探してる間、三人は喫茶店・・・・・ヒデェ!
 だいたい、千鶴さんが・・
『いけないアルバイトじゃないといいんだけど・・・』
 なんて言い出すもんだから、梓が
『じゃあさ、確認ついでに冷やかしに行こうぜ』
 とか言い出して、千鶴さんも
『せっかくだから、みんなで行きましょう』
 んで、俺ばかり苦労してるってワケだ。
 おっ?
 もしかしてあの建物か?
 

『ももんがの館』


「・・・・・・・・・」
 じゅ、住所は合ってるよな・・・
 なんだ、ももんがの館って!?
 初音ちゃんは、どんなアルバイトしてるんだ!?
 建物は蛍光塗料で塗りたくられ、極彩色。
 窓が一つも無いというのが気味悪い。
 館の屋根には、巨大な夜間のオブジェがくるくる回っていた。
 
「おい、耕一・・・」
 梓だ。
「なんだこりゃあ・・・」
 俺が知るか!
「ひぃっ!やっぱりいけないアルバイト!?」
 千鶴さん・・・
「とりあえず入ってみましょう」
「う、うん、楓ちゃんの言うとおりだな・・・・」
「さ、賛成」
「初音っ!あんなにいい子だったのに〜っ!」

 ガチャッ・・・
 カランカランカラン・・・・
「こんにちわ〜」
 おそるおそる中にはいると・・・・
 うわ、真っ暗!?
 マジでいけないアルバイト?
「いらっしゃいませぇっ!」
 その声は初音ちゃん!?
 どこだっ!?
 どこにいる!?
「耕一さん!!上です!」
 楓ちゃんの声に俺は天井を見上げた!

「あれえ、みんなで来たの?」
 
 ももんがのヌイグルミをかぶった初音ちゃんが、宙づりになって揺れていた。
 初音ちゃんには大きめのヌイグルミで、短い手足をバタバタさせても毛玉にしか見えない。
「は、初音ちゃん?」
「耕一お兄ちゃん、これ、メニューだから」
 メニューときたか!?
 どれどれ?

『ドレッシング』 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なんにする?」
 なんにするって・・・・
「あー、えっと、ドレッシング」
「みんなは?」
 宙づりの初音ちゃんが、他の三人を促す。
「あ、えっと、私も耕一さんと同じドレッシングを・・・」
「わ、私もそれでいいや・・・」
 そう言うしかないだろう・・・
 メニューには『ドレッシング』としか書いてないのだから。
「楓お姉ちゃんは?」
「ドレッシング」
 ホラ、やっぱり楓ちゃんもドレッシングと・・・・
「フレンチで」
 フ、フレンチ!?
「ポップにする?それともキッチュ?」
 ポップ!?キッチュ!?
「サイケ」
 サイケ!?
「へえ、楓お姉ちゃんって、通だね」
 通!?
 なんだ、通って!?
「じゃあ、少し待っててね〜」
 初音ちゃんは、そう言って飛んでいった。
 天井の滑車がカラカラと回り、初音ちゃんは闇に消えた。

「か、楓?」
「どうしたの、千鶴姉さん?」
「こういうお店は良く来るのかしら?」
「風が吹く日に良く・・・・」
 なんだ?楓ちゃんは、風が吹くとドレッシングが食いたいのか!?
「しっかし、ドレッシングだけを売る店ねえ・・・」
 梓が呆れたように言う。
「でもさ、家にそんなドレッシングなんてあったっけ?」
「梓姉さん、ドレッシングハウスは、ドレッシングを持ち帰ることは出来ないの」
 ドレッシングハウス・・・
「え?じゃあ、その場で食べるのか?サラダとか出るんだろ?」
「いいえ」
「何!?ドレッシングだけなの?」
「そうじゃなくて・・・」
 楓ちゃんが何か言おうとしたそのとき。
「みんなお待たせ〜」
 バケツを二つもった初音ちゃんが現れ。
「え〜い」

 どばっ!

 俺たちにの頭上から、ドレッシングをぶちまけた・・・・・

 「ありがとうござしました〜!」
 ガチャッ
 カランカランカラン・・・・・・

 もう、二度と来るまい。 
「ああ、服が・・・・」
 俺の体は全身ドロドロの液体まみれだった。
「これで、2500円もとられるなんて、暴利もいいとこだ・・・・・・・・」
 梓は怒る気力もないようだ・・・
「や、やっぱり!やっぱりいけないアルバイトだったのね!」
 千鶴さんは、少し錯乱している。
 楓ちゃんは・・・

「うふふふふふふふふ・・・・・」

 また来るつもりなのか・・・・・・