「ああっ!いけないっ!」 突然叫んだあかりに、半歩前を歩いていた俺は振り返った。 「どうした?」 「お醤油」 「醤油がどうしたんだよ?」 「お醤油がきれてるの忘れてた!」 ちなみに、醤油がきれてるのは俺の家のことであって、あかりの家のことではない。 おれんちの調味料の分量は、俺の母親より、あかりの方が詳しいのだ。 「いーじゃねえか醤油ぐらい」 「ダメだよ!今日は肉じゃが作ってあげるって約束したのに」 う〜ん、あかりの肉じゃがはうまいからなあ・・・・ でも、無いもんはしょうがないと思うんだが。 「どうしよう・・・・」 悩むあかりに俺は、何か別の料理を作ってくれと言おうとした・・・・ そのときだ! っちゃか、ちゃかちゃか、ちゃんちゃん!ぱふ 「なんだ!?笑点の音色!?」 突然の出来事に困惑する俺たち。 そんな俺たちの前に、人影が現れる。 「あかり!見ろ!フェンスの上!」 「あっ!」 うちの学校の制服に、マントと仮面!! 「神岸さんのためなら、たとえ火の中水の中!!仮面高校生ヤジマ!大見参!!!!」 「なんだ、矢島か」 「仮面高校生ヤジマだっ!!」 「んなことはどうでもいい、何しに来た?」 「貴様に話はない!!」 矢島は俺に背を向け、あかりの手を握る。 「あなたのお悩み、この仮面高校生ヤジマが解決いたしましょう!」 「え?え?え?」 ふーん、そういうことか。 「おい矢島」 「仮面高校生!!」 「わかったわかった・・・・、仮面高校生ヤジマ、あかりは醤油を買ってきてほしいんだとさ」 俺は矢島の背中に向かってそう言った。 どうでもいいが、会話するときはこっち向けよ、会話はキャッチボールだろーが。 「そうなんですか神岸さん!!」 「う、うん」 「はっはっはっはっ!!おやすいご用です!!この仮面高校生ヤジマにお任せを!!」 ダダダダダッ!! 矢島は俺たちに背を向けすさまじいスピードで走っていった。 「ぜぇぜぇ・・・・はぁはぁ・・・・・、か、買ってきました!」 うんうん、よくやったぞ矢島。 「あ、ありがとう矢島君」 「はははは・・・、お、おやすいご用です・・・」 あかりの中の矢島ポイントは、プラスマイナス・ゼロって所だな。 その変な格好がマイナスだ。 「よし、帰るか!」 「うん、これで肉じゃがが作れるね!」 「おう、あかりの肉じゃがは絶品だからな!」 「浩之ちゃんのために、頑張って作るね!!」 あかりの言葉に、矢島が止まった。 「えっ!?か、神岸さん!今何と・・・・」 「うん、今日は浩之ちゃんに肉じゃがを作ってあげるの、だからお醤油がないと困るんだ」 「おーーーい、あかり!早く来い!置いてくぞっ!!」 「あっ!待ってよ浩之ちゃん!!」 しばらく歩いて、俺は矢島が呆然と立ちつくしていることに気づいた。 「矢島!今日はサンキュなーーーーーっ!」 「矢島君!ありがとーーーーーーっ!!」 矢島に手を振ったあと、あかりがニコニコと俺に言った。。 「矢島君って親切だね」 親切か・・・・・、今回だけは、なぜか落涙を誘う言葉だ。 「俺もそう思うぜ・・・・・・・・」 「浩之ちゃん、泣いてるの?」 「ああ、愛に散っていった、一人の男のためにな・・・・」 「ふうん・・・・」 安らかに眠れ、仮面高校生ヤジマ・・・・・