由綺っち 投稿者: MIO
 トップアイドル森川由綺は、例に漏れず、デジタルペットと化した。
 その名も『由綺っち』。
 すさまじくゴロが悪い。
 だいたい、こんなミーハーな代物を、あの緒方プロデューサーが容認したというのがわからない。
 まったく・・・

 とかなんとか言いつつも、俺は玩具屋に5時間も並んだのだった。

 とりあえずやってみる。
 おお、由綺だ。
 白黒の、やたらドットの荒い由綺がいる。
 まずは『あっち向いてホイ・ゲーム』でも・・・
 ピコピコ
 あっちむいて・・・ホイ!
 ピコッ!
 ホイッ!!
 ピコッ!!
「・・・・・・・・」
 よ、弱い。
 そういや、現実の森川由綺も、このての遊びに弱かったよな。
 なるほど、リアルに作ってあるわけだ。
 よ〜し!待ってろ由綺!
 この俺が、お前をトップアイドルにしてやるからなっ!!

 一週間後。
 俺は、由綺と『由綺っち』について話していた。
 由綺は、俺が買ったと聞いて、ひどく恥ずかしがっていたが、そのうち俺が由綺をどんな風に成長させたか、気
になったらしい。
『ちゃんとアイドルになった?と聞いてきた』
「・・・・じ、実はそれなんだけど」
「うん?」
「な、なぜか・・・・」
「もう、早く言ってよ」
「ま、漫才師になった」
「へ、へえ、まんざいし・・・・」
「そう、漫才師」
 う〜ん。
 やはり甘やかしすぎたかな、それとも、ボケる度につっこんでたのが行けなかったかなあ?

さらに、一週間後
 『由綺っち』はブレイクしていた。
 美咲さんに、彰やマナちゃん・・・、何とあの『エコーズ』のマスターまでが持ち歩いているのである。
 う〜ん、この調子だと・・・もしかして

「『由綺っち』?持ってるわよ?」
 理奈ちゃんすら!?
「でも、私がやると、かならず由綺が主婦になっちゃうのよね」
「そ、そう・・・・・」

「もちろん持っています」
「や、弥生さんも?」
「歩くほど仲良しになれる『ポケット・由綺っち』も購入しました」
「弥生さんは、車で通勤では?」
「車は局に置いたままで、通勤は歩きです」
 な、なんて人だ・・・
「ほら、こんなに仲良し」
 俺の顔に押しつけるようにして、『ポケット・由綺っち』を見せる。
 ひょっとして、見せびらかしてるのか?
「と、ところで弥生さん?『由綺っち』、どうなった?」
「私がやると、外交官にしかなりません」
「そ、そう」

 俺はバイトの休み時間に、由綺の楽屋を訪れていた。
「とまあ、そんなわけで、由綺をアイドルに出来た人はいないんだよ」
「な、なんかショック」
「ただのゲームだろ、由綺が気にすることないって」
「そうなんだけどね・・・・」
 まあ、漫才師にした俺が慰めるのもどうかなーと思うけどね。
 俺が由綺に何か声をかけようとした、そのときだ。
「よぉ、青年じゃないか」
 緒方英二・・・・由綺をトップアイドルにした名プロデューサーだ!
 彼なら、由綺をアイドルに育てあげたに違いない!
「あの!『由綺っち』持ってますか!?」
「え?あ、ああ、持ってるけど?」
 俺のただならぬ様子に、さすがの緒方英二も戸惑っている。
「で?何になりました?」
「何になったって・・・、成長してか?」
「そうです」
「ああ、それなら・・・・」
 俺はごくりとつばを飲み込んだ・・・・

「俺は何度やっても、『オヤジ由綺っち』にしかならないんだよ」

 がーーーーん!
「由綺!!」
「な、なに!?」
「帰るぞ!!」
「え?え?え?」
「英二さんに任せてたら、由綺はそのうち漁師にされるっ!!」
「そ、そんな・・・・・」
 由綺を漁師にされてたまるか!!
「ちょ、ちょっと待て、青年!!」
「放してください!今度は俺が由綺を立派なアイドルに・・・・」
「わかった!わかったから落ち着けって!」
 英二さんは俺の肩に手を起き、俺の目をまっすぐ見て言った。
「君は前から面白いヤツだとは思ってたが・・・、まさかここまでとは」
「・・・・・・」
「心配するなって、ちゃんと『オヤジ由綺っち』以外に育てたこともある」
「・・・・」
「じゃ、何に育てたんですか?」
「え?えーーーーっと・・・」
「・・・・・・」

「漁師・・・かな?」

「帰るぞ由綺!!」
「え?え?え?冬弥くん!?」
「わーっちょっと待て、待てったら!!」
「他には何にしたんです!?」
「アイドルアイドルアイドルアイドル!!」
 アイドル?
 騙されないぞ!
「本当はなんですかっ!!?」

「ボ、ボディビルダー・・・・・・・」

「帰るぞ由綺!」
「わーーーーっ」


「兄さんたち、相変わらず楽しそうね」
「そうですね・・・・・」
 ぴこぴー
「「あ、おやつの時間だ」」

 『由綺っち』を、アイドルに育て上げた者・・・・
 日本全国で一名のみ。

「ん、由綺が歌ってる・・・」
 
 河島はるか。