エルクゥでよかったなあ 投稿者: MIO
 死々累々

 その光景は、視覚から死臭を得るのには十分で・・・・

 時計は、午後10時を指している。
 茶の間は静まりかえっており、庭から聞こえる虫の声だけが、辺りを満たしている。
 中央にあるテーブルには、すっかり冷えてしまった料理の数々。
 それに・・・・
 土色の顔をして、つっ伏す五人男女。

 冷や飯に顔をつっこんで、ぴくりとも動かないのは、柏木耕一。

 仰向けになって白目をむいているのが、四姉妹の長女、柏木千鶴。

 千鶴に掴みかかろうとして力尽きたのだろう、苦悶の表情で右手を伸ばしたままの、次女の柏木梓。

 味噌汁に顔をつっこんで、これはもう呼吸が止まっているんじゃないかと思われる、三女の柏木楓。

 肉じゃがを頭からかぶって、白目をむいたままぴくりとも動かない、四女の柏木初音。

 みんな動かない。
 死んでるんじゃないのかな。
 
 ぴくっ・・・・
 
 おや?

「っはぁっっ!!!!!」
 俺は、親父との劇的な再開を済ませて、再び目を覚ました。
 俺の名は柏木耕一、そして・・・
「げほっ・・・、げほっ」
 苦しそうに立ち上がったのは梓。
「大丈夫か梓?」
「な、なんとか・・・」
 どちらもひどい顔だ。
「けほっ、けほっ・・・」
「千鶴さん、平気?」
 俺は千鶴さんにも駆け寄って起こしてやる。
 
「ひどい目に遭いましたね・・・・」
「って、千鶴姉が言うセリフかっ!?」
「あら、どうして?」
「千鶴さん、フグには毒があるんだよ」
「ええっ!?」
「知らなかったの?」
 いや、よく考えたら、フグに毒があるのを知ってたら、いきなり調理したりしないよなあ。
「うっかりしてました・・・・」
 う、うっかりというか、何というか・・・・
 俺が困っていると、梓が俺を押しのけて千鶴さんに怒鳴る。
「と、に、か、く!千鶴姉は金輪際、台所には近づかないことっ!!」
「えええっ!!どうしてっ!?」
「ど、どうしてって・・・・」
 危ないからじゃないか・・・というセリフを、俺は飲み込む。
 しかし、梓は遠慮なく続けた。
「フグをいきなり刺身にしたり、温度を見るとか言って割れた体温計をつっこんだり、鉄分だからと単三電池を煮込む
ような姉を、喜んで台所に入れる妹がどこにいるかっっ!!!」
「そこに・・・・」
 梓を指さす千鶴さん。
「次からはダメだっ!もーダメだ!絶対ダメだあぁーーーーーっっ!!」
「次は上手くやるわよう・・・・」
「そりゃ何度目のセリフどぅわああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!!」
「おっ、落ち着け梓!!殿中だぞ!!」
「ええいっ!!!離せぇっ!今日という今日は我慢ならーーーんっ!!」
「梓恐ーーーい」
「このブリッコ姉貴っ!歳考えろっ!!」
 あっ!お前、それは・・・
「あぁーーーー、ずぅーーーー、さぁーーーーーーーっっ!!」
 ひい

 
 とか何とかあって、1時間ぐらい経過した頃だろうか。
「二人とも落ち着いたか?」
「な、なんとか・・・・」
 と千鶴さん。
「ああ、私のビューティー・フェイスにまるで太田さんのような痕がああっ!!」
 鏡を見て泣いてるのは梓だな。
 おっと、それより・・・
「それよりさあ・・・・、楓ちゃんと初音ちゃんが起きないんだけど」
「ええっ!」
「ええっ!」
 そう、この二人は今だにピクリとも動かないのである・・・・
「埋めようっ!」
「梓、いくら何でも証拠隠滅はないだろーが」
「ナイス考えよ梓!」
 こ、この人は・・・
「ばかやろっ!フグ毒は土に埋めると良いんだよ!」
「なんだ、そうなの?」
「そーいや、そんな迷信があったよなあ」
「いいから耕一、穴を掘れ!」
「えーーーっ!!」

 1時間後、俺は、庭に生えた生首を、梓と一緒に眺めていた。
 生首は三つ。
 毒抜きのために、首だけ出して埋められた楓ちゃんと初音ちゃん。
「しくしく・・・・」
 千鶴さんは、罰で埋められている。
「梓ーーっ!まだダメー?」
 千鶴さんが涙声で梓に懇願するが、梓はむげに突っぱねる。
「楓と初音が意識を取り戻すまでダメ」
「そんなーーーーっ!」
 ぶーぶー言ってる千鶴さん。

「耕一」
「なんだ?」
「柏木家の『力』がなきゃ、死んでたなあ・・・・」
「そうだなぁ・・・・」
 エルクゥでよかった・・・



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 不承私、不条理王の名をいただいた、MIOです。
 感想いろいろ有り難いです。
 感激の余り、私落涙を禁じ得ません、感動です。
 マイクDさん、メールありがとーございました。